国内外での新規出店やM&Aでグループ規模を拡大。フード業世界一を目指す

人事部長インタビュー Vol.36

株式会社ゼンショーホールディングス 国井義郎さん

フード業世界一を目指す同社の事業戦略とは?


■メニューの拡大と女性や家族が好む環境づくりで、新たな需要を創造

ファストフードやファミリーレストランを含む外食産業の市場規模は24兆円といわれています。当社はここ数年、これまでになかった市場で新たな顧客を増やしてきました。かつての牛丼店は、男性が駅前のカウンター席でガツガツとかきこみ、急いで次の仕事に向かうイメージでしたが、当社は郊外にテーブル席を設置した店舗を展開し、女性・家族・友人同士で食事をしに行くという新しい需要を開拓したのです。

ゼンショーホールディングスの主要業態であるすき家では、サイズの小さい「ミニ」や「3種のチーズ牛丼」、「おろしポン酢牛丼」など、女性に支持されるメニューを増やしました。店舗レイアウトも女性や家族が抵抗なく入れるようテーブル席を用意。加えて、カフェのような使い方もできるよう、杏仁豆腐やプリンなどのスイーツ戦略も行っています。さらに、朝食セットを他社のどこよりも安い200円で設定し、新たな市場を開拓しています。女性やファミリーを意識した環境づくりやメニューの拡大といった戦略で、新たな顧客を獲得したのです。

こうして、2011年3月期には外食産業において売り上げ日本一となりました。しかし、「世界から飢餓と貧困を撲滅する」「フード業世界一を目指す」という当社の創業時からの企業理念において、日本一は通過点でしかありません。オリンピックに例えるなら、ようやく日本代表になり、これから世界で戦っていこうという段階です(笑)。

2012年3月期には、国内にすき家単体で227店舗、グループ全体で294店舗を出店し、12年9月末現在ではすき家で1856店舗、グループ全体で約4446店舗となりました。国内ではこれからも毎年250〜300店の出店を継続していく計画です。また、11年からは海外出店にも積極的に取り組んでおり、現在は中国に44店舗、ブラジルに8店舗、タイに8店舗を構え、全60店舗となりました。目指しているのは世界一であり、視野に置いているのは200の国や地域ですが、それぞれの地域で「お客様第一」の実現のためさまざまな課題をクリアしていかなければなりません。今後も、現地ではどんな味が好まれているのか、何を求められているのかなどを調査した上で商品開発も行いながら、出店準備を進めていきます。

12年3月期の決算で、売上高4000億円を超えるまでになりましたが、20年3月期の売上高8000億円、経常利益800億円を目標に、これからも新規出店・海外展開・M&Aを行ってグループ規模を拡大していきます。そのベースとなるのが、ゼンショーグループ独自のMMD(マス・マーチャンダイジング・システム)です。これは、原材料の調達から工場での製造・加工、店舗への物流、お客さまに提供する店舗オペレーションまでの全プロセスを自社で企画・設計し、運営する仕組みです。

近年は、輸入牛の月齢問題(*1)が注目されていますが、当社で使用するアメリカ産牛肉は、牛が出生した時期や場所が明確であり、すべての育成期間を通じ、BSE(狂牛病)感染の原因となる飼料が一切与えられていないゼンショー独自の安全基準で管理された「ゼンショーSFC(Safe-feed Cattle:安全飼料牛)」のみを輸入しているので、そのような問題とは無縁です。また、仕入れた牛肉は、すき家やココス、ビッグボーイなどで提供するさまざまな商品で、ほとんどの部位を余すことなく使えることから、グループで集中購買するメリットもあります。また、投資などの資金面においても、M&Aでグループ規模が拡大することによるスケールメリットがあると考えています。

(*1)=米国産などの輸入牛肉について、食肉検査の免除と輸入を認める牛の月齢を、現行の20カ月以下から30カ月以下に緩和する動き


■一つのことに打ち込んできた経験や人間力のある人が活躍

当社は、創業からわずか30年で急成長したこともあり、必要に応じてキャリア採用を行い、外国人や女性も積極的に採用してきました。ですから、あえて意識的にダイバーシティに取り組む必然性がありません。むしろ現在は、新卒採用を強化しています。なぜなら、同じ価値観や統一ブランド力を持った社員が、一斉に国内外の店舗や工場等に広がってほしいと考えているからです。

学生の間には「外食産業は、仕事が厳しくて長続きしない」というイメージがありますが、当社は、外食産業売上高日本一となったことから応募者が多く、ここ数年は定着率もかなり良くなっています。その理由として考えられるのが、新入社員研修です。それまでの学生気分を払拭し、社会人として自立の覚悟を固めてもらうためのもので、参加者からは「きつかった」との声もありますが、横のつながりも固く、会社への理解も深まり、この研修を導入してからはほとんどの社員が継続して勤務するようになっています。

当社で活躍し、大成しているのは、学生の本分である勉強を究めた人や体育会系のスポーツでとことん心身を鍛えた人、あるいはサークルや同好会で自分の関心の高い分野を追究したような人たち。いずれも、真理探究できる学生時代の時間を有効に使い、一つのことに一生懸命打ち込んできた人たちです。人間は意識しないと怠惰に流されてしまいますが、仕事はどうしても頑張らなければいけないときがあります。あきらめずに一つのことに打ち込んできた人たちは、そういう場面でひと踏ん張りできるし、アイデアをもうひと絞りできると思っています。

グループ内の個々の組織を強くするには、各社員の自立した意識や、プロとしてやり抜くたくましさも必要。最後にものを言うのは、人間力――ギリギリのところで何とかする力だと、私は思っています。民間企業の仕事は、競争に勝つためにこれまで10日かけてきたことを、4日でやらなければならないこともあります。こうした難題に直面したとき、自分だけではやりきれないと瞬時に判断し、そのことを事前に仲間に知らせて協力を仰がなければ達成できません。さらに、「この人が困っているのなら、協力しよう」と周囲に思ってもらえる人柄も求められます。人間力には、課題を察知する力、どうすればできるかを洞察する力、周囲を巻き込むコミュニケーション力や人柄も含まれているのです。

われわれの解決すべき課題は店舗にあり、店舗オペレーションは瞬時に複合的な判断を迫られます。当社は「20代は現場で鍛えられよ」という考えから、入社後数年間は店舗オペレーションやマネジメントを経験してもらいます。とはいえ適性は千差万別ですし、店舗以外にも、経理・企画・人事・IT・技術・品質管理・製造など、幅広い仕事がありますから、各人を上司や人事が適宜判断し、適材適所へ配置転換を行っていきます。現在は、社員の能力や個性をさらに適正に判断できる仕組みを整備し、そのフォロー体制を充実させている最中です。外食産業の中には店舗運営中心の企業もありますが、当社は一人ひとりの能力をあまねく生かせる会社であると自負しています。単なる外食産業という目ではなく、仕事の中身の幅広さを見てほしいと思っています。