『小泉官邸秘録』

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読み出したら止まらないとはまさにこのような本をいうのだろう。『小泉官邸秘録』(飯島勲 日本経済新聞社2006年)。著者は元政治家・小泉純一郎氏の秘書を長らく務め、小泉内閣では政務担当の首席総理秘書官を任された人物だ。通常、政務担当秘書は地元陳情案件や政党関係業務を取り扱うが、著者の場合は官邸の秘書官室に詰めて小泉総理に常に寄り添い、外遊には全て同行した。

小泉内閣時には北朝鮮の工作船事件、9.11同時多発テロ、国内の牛海綿状脳症(BSE)発生、田中真紀子外務大臣更迭といった幾多の危機が発生した。行政組織の頂点の傍らにおいて、官僚を掌握しつつ、迫り来る困難を乗り切ったのが著者であった。「決められない政治」に対していらだちが高まっている昨今、「決めざるを得ない政治」に奮闘した当時のトップマネジメントのありようが現場レベルで分かる良書であり、最近になって読み返してみた。

トップによる「政策決定」と官僚機構による「実施作業」

著書には、政治の最前線のエピソードがふんだんに盛り込まれている。例えば、2004年の小泉総理の再訪朝時、「北朝鮮に対する人道援助を含む平壌宣言の履行を最優先しているのではないか!」と厳しい不満を持って日本で待機している拉致被害者と家族会について、総理は帰国後の予定を突如変更して、家族会の待つホテルに直行した。さらに、ホテルでの家族会との面談はマスコミにフルオープンにして、真摯な受け答えを行った。このようなとっさの判断と行動は、ある意味、役人の領分ではなしえない偉業だ。

一方、複雑化した世の中を動かすためには、どの国であっても、国のトップによる明確な「政策決定」と官僚機構による「実施作業」が不可欠となる。どんなに美辞麗句を並べたスローガンであっても、明確な政策がなければ実行すべきプログラムは書けない。また、明確な政策があっても、過去の経緯を調べ、文書に書き起こして制度を策定・運用しなければ、政策目的は達成できない。

「いかに官僚組織をおさえ、使いこなすか」

官僚人事を掌握しながら、この両輪を存分に操縦して困難に対処したのが小泉政権であり、著者であった。この両輪が仲良く動いてこそ、奥行きのある政策が実現できるものであり、役人の立場としては、本書はいささか羨望のまなざしをもって通読せざるを得ない。ちなみに、重要な政策決定が行われず、かつ、官僚機構を魔女狩りのごとく壊しかけているのが現政権である。

現在の日本は、社会保障制度改革や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、外交・安全保障問題が山積している。政治の力を持って断固たる問題解決を進めるためには、役人の動かし方が肝腎だ。著者は官僚組織を「統治の道具」と表現しながら、「要は政治がいかに官僚組織をおさえ、使いこなすかということこそが問題」だと力説している。今後の政治には、こういった視点をもった良質な国家運営のマネジメントを大いに期待したい。

総務省 課長級 YS

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