マルチタスクで仕事をすると、なぜクオリティも向上するのか

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■時間の質をコントロールする

私はメールを読むと、原則5秒以内に返信することにしています。返事が遅くなるほど余計な言い訳が必要になりますが、すぐに返信すれば、たいていは「了解」や「拝受」の一言で済みます。

ただし、内容を吟味したいメールに関しては別の取り扱いをします。返事を書く時間的余裕があっても、あえて本題には触れず、メールを受け取ったという旨だけを返信し、未読フォルダに戻すのです。

意図的に本題に触れずにおくのは、時間を置くことによって知的熟成が起きることを期待しているからです。メールを読んだあとに時間を置くと、仕事をしていないときにも問題意識が勝手に働いて、思考の材料を集めてくれます。その結果、まるで水蒸気が空中のチリを頼って水滴と化すように思考の結晶化が始まり、アイデアが創造されていきます。

これが知的熟成です。

メールの返信以外の仕事でも当然、知的熟成は起こります。たとえば企画書やプレゼン資料をつくるなど、何かを考える仕事については、すべてあてはまるといっていい。

思考が必要な仕事をやりかけのまま、あるいはいったん完成させた状態で置いておくと、放置しているあいだも頭の片隅で思考が回り続けます。その結果、他の材料と結びついて新しいアイデアがひらめいたり、第三者的に観察することで間違いに気づいたりするのです。

私は知的熟成の時間を確保するため、3時間で終わる仕事は3日間、3日で終わる仕事は3週間、3週間で終わる仕事は3カ月の余裕を持ってスケジューリングします。

仮に3日間で終わる仕事に3週間の時間的余裕を持ってスケジューリングしても、2週間半は何もせず、最後の3日間で帳尻を合わせるようにしてバタバタと片づけるやり方では意味がありません。思考が熟成するための時間がないからです。

■マルチタスクでアイデアを熟成させる

知的熟成を起こすためには、通常の5〜10倍の時間が必要です。ただ、3日間で終わる仕事に3週間かけていると、まわりから「仕事が遅い」、「中断して放置するな。最後までやれ」と言われかねません。そこでおすすめしたいのが、マルチタスクによるスケジューリングです。

目の前にA、B、Cの3つの仕事があるとします。これらの仕事を一つずつ完成させてから次の仕事に移るやり方は、単線的なシングルタスクです。

シングルタスクでは、まず仕事Aを片づけ、次に仕事B、Cへと順番に処理していきます。それぞれの仕事を集中して行うので、まわりからは手を抜いているようには見えません。おそらく本人も、仕事を片づけるたびに小さな達成感を得ているでしょう。

しかし、このやり方では仕事を寝かせる時間がないために知的熟成は起こりません。表面的には良い仕事をしているように見えても、いずれクオリティは頭打ちになります。

では、マルチタスクでスケジューリングするとどうなるのか。

仕事A、B、Cを同時並行で動かすと、仕事Aを中断して寝かせている間に、仕事Bに手をつけることができます。仕事Bを中断して熟成させる時間が必要なら、新たに仕事Cに取りかかったり、仕事Aに戻って仕上げをしてもいい。いずれにしても他の仕事にスイッチすることで、仕事を熟成させる時間を確保することが可能になります。

寝かせる時間を確保できるのに、全体の稼働率が落ちない点もマルチタスクのメリットです。

仕事A、B、Cを終わらせるのに、それぞれ3時間が必要だとします。シングルタスクなら、仕事A:3時間+仕事B:3時間+仕事C:3時間で、計9時間です。

一方、マルチタスクの場合は、仕事A:1時間+仕事B:1時間+仕事C:1時間+仕事A:1時間+仕事B:1時間……、と時間が細切れになるだけで、合計時間は9時間のまま。つまり3つの仕事を9時間で終わらせる効率性を維持したまま、仕事のクオリティを高めることができるのです。

『ビジネススキル・イノベーション』第1章 1.4倍で時間を見積もる(プレジデント社刊)より

(横田尚哉)