母国GPでの初表彰台を弾みに、来季のF1シート獲得を目指す小林可夢偉だが……

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ザウバー残留か? 移籍か? それとも……?

どこよりも早くF1最新事情をツイートする元F1ドライバー、怪人タキ・イノウエこと井上隆智穂に小林可夢偉の“来季シート争奪戦”裏事情を聞いた。

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10月7日に行なわれたF1日本GPで、ついに3位表彰台に上り詰めた可夢偉! だが、続く韓国GPではいい流れを続けることができず途中リタイア。海外メディアでは相変わらず、「カムイ、来季のシートは不透明……」のような見出しが並ぶ。

そもそも、日本GPでの表彰台で最低でもザウバー残留は確実だと思われたにもかかわらず、レース終了後にザウバーチームのCEOまでが「この3位表彰台が可夢偉の来季に影響することはない……」と、ポジティブなんだかネガティブなんだかわからないコメントを発表する始末だ。

しかし、不運続きでも、ここまで9戦入賞して50ポイントも稼ぎ出している可夢偉だというのに……どうしてこんな扱いを受けなきゃならないのか?

そこで、そのウラ側を探るべく、今回スペシャルなゲスト解説者にご登場いただくことにした。

伝説の元日本人F1ドライバー、タキ・イノウエこと、井上隆智穂(たかちほ)氏だ。1994年にシムテックでF1デビュー、翌95年にはフットワークで完走5回、最高位8位(イタリアGP)……そして、この年のモナコGPでマーシャルカーに激突され、ハンガリーGPでマーシャルカーにはねられるという2回の珍事で、世界中のF1ファンに強烈な印象を残した“伝説の日本人ドライバー”なのである。

引退後はモナコに住み続け、いまだその実体は謎に包まれているタキ・イノウエだが、近頃は彼のツイッターがF1ファンの間でひそかな話題を集めている。ヨーロッパのどのメディアよりも先にライコネンのF1カムバックを予言するなど、独自のネットワークを駆使したディープな情報と的確な分析、何より「ユーモア満載かつ歯に衣着せぬ毒舌」で大人気なんだとか。

というわけで、日本GP終了後に、タキ・イノウエに直撃電話インタビューを敢行! 気になる可夢偉の状況と、その背景を解説してもらおう!

―まず今回の可夢偉の活躍をどう見ましたか?

井上隆智穂(以下、タキ) いや、ホントに素晴らしかったですね。特にラスト3周の走り、あれは可夢偉だからできたマシンコントロールで、ペレスには絶対無理でしょうね。実を言うと僕はカート時代から可夢偉に注目してて、将来、F1で勝てる資質を持ってる日本人がいるとすれば、西の可夢偉と東の関口雄飛(ゆうひ)ぐらいだと思ってました。やっぱり可夢偉はピカイチですね。



―その割にヨーロッパで可夢偉が話題にならなかったり、ザウバー残留すらピンチみたいにいわれちゃうのはどうしてですか?

タキ あー、それはですね、F1ドライバーの評価っていうのは美人投票みたいなトコがあって、みんなが「イイ、イイ」って言い出すと、みんなそれに釣られてダーッと流れていく。マクラーレンに移籍が決まったペレスなんかはそのいい例です。しかも、今のF1チームで「ドライバーを選ぶ立場の偉い人たち」はドライバーの本当のよしあしなんてわからない。だから、単純に美人投票で動いちゃう。そういう意味でいうと、可夢偉はもう実力云々とは別の次元で、完全に“賞味期限切れ”なんですね。

あと、もうひとつはザウバーの事情があって、あそこはフェラーリの状況、つまりマッサの来季が決まるまでは勝手に動けません。



―それはなぜ?

タキ 仮にフェラーリが今季限りでマッサをクビにした場合、フェラーリエンジンの供給を受けるザウバーは代わりにマッサを乗せなきゃいけないかもしれない……。ただ、フェラーリはタイトル争いが終わるまでマッサの処遇は決めないでしょう。なぜならマッサにはギリギリまでアロンソの援護をさせたいから、それまでは絶対にクビを切らない。

実はちょっと前まで、ミハエル・シューマッハがフェラーリに戻る話が進んでたんです。ところが彼が引退を決めちゃったんで、マッサのクビが今はつながっている状態です。

―えええっ! シューマッハのフェラーリ入りが進んでたってのは、それホントですか?(汗)

タキ これは確かですよ、1年契約でアロンソもOKしたっていう話ですから。

―シューマッハは、賞味期限切れというか、消費期限切れのような……。

タキ まぁ、「腐っても鯛」ってコトなんでしょう。

―じゃあ、ザウバーはマッサの処遇が決まるまでシートを空けておく必要があるとして、残りひとつは可夢偉じゃダメなんですか?

タキ ザウバーのシートはいろんなドライバーが狙ってて大行列状態ですよ! スポンサーのテルメックス(メキシコの通信大手)は、ペレスが移籍してもザウバーに残ると言っている以上、ペレスと同じメキシコ人のエステバン・グティエレスは決まりでしょうね。で、もしマッサがフェラーリに残留できれば、ひとつ空きができますけど、そこにはウワサになってるニコ・ヒュルケンベルグもいれば、若手のジユール・ビアンキやルノー・ワールドシリーズに出てるサム・バード、それにウィリアムズのブルーノ・セナとパストール・マルドナードも資金持ち込みでザウバーにアプローチしてるはずです。ザウバーのほうが調子がいいですからね。

―えええっ。じゃあ、可夢偉は……?

タキ うーん、F1の交渉事ってポーカーだから、相手に手の内を見せちゃダメなんです。ブラフでもいいから、ハッタリきかせないとゲームにならない。手札がワンペアでもフラビオ・ブリアトーレ(F1界の敏腕マネジャー)だと、「何かいい手を隠し持ってる」みたいに見えるじゃないですか。そういうのも含めてのゲームなんですよ。

ところが可夢偉の場合は、スポンサーがないのもわかっちゃってるし、彼のマネジメントは手札全部見せちゃってる状態なのでもうポーカーはできない。つまり、「まな板の上の鯉状態」なんですよ。あとは可夢偉が残り5戦、コース上で自ら結果を出し続けるか、スポンサーを見つけるしかない。美人投票で大人気のペレスを上回る結果を出せば、また注目が集まることもあるワケですから。

(取材・文/川喜田 研 撮影/池之平昌信)

●TAKI INOUE

井上隆智穂(タキ・イノウエ) いささか唐突なF1デビューから引退後の生活に至るまで、今も多くの謎に包まれた“伝説の日本人F1ドライバー”である(汗)。95年のハンガリーGPの際、自身のマシンに消火器をかけようとしたとき、マーシャルカーにはねられた。歯に衣着せぬツイートがF1ファンの間で話題沸騰中。タキ氏のツイッターは【https://twitter.com/takiinoue】

■週刊プレイボーイ44号「小林可夢偉 表彰台獲得の舞台裏」より