<損して「徳」のお礼状>−感謝の裏に、拙い己を恥じる気持ちがあるか−−SBIホールディングスCEO 北尾吉孝氏

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ビジネス上のお礼は、「礼」という文字の持つ意味のほんの一部にすぎない。「礼」には礼儀作法のほかに、社会の秩序を円滑に保つという意味がある。先輩への礼儀を尽くさない人や朝夕の挨拶ができない人など誰も相手にしない。礼というものにそれだけ重みがあることを認識すべきだ。

お礼は誠心誠意を尽くして初めて相手に訴えかけることができる。お礼状も同様に、例文集の寄せ集めみたいなものでは何度書いてもゴミ箱行きだ。当たり前だが、時間を置かずに書くのが基本。忘れかけた頃に出してもダメだ。ご縁をつなげるには、一生懸命己を尽くし、感謝の念を表現すべく考え抜いて書くことが肝要だ。文章は下手よりうまいほうがいいに決まっているが、誠実さが伝われば拙い言葉でもいい。

例えば、食事に呼ばれた際のお礼状は、そのときの情景や雰囲気が思い浮かぶような会話や食事の内容を具体的に書き入れ、本当においしかった、お話が参考になった、という気持ちを相手に伝えられて初めてお礼状と呼べる。逆に、こちらからお誘いしたときこそ「わざわざお越しいただいて本当にありがとうございました」と書けば、相手にとって意外感があり印象にも残る。「こっちがご馳走したのだから向こうが書いて当然」という考え方自体を捨てることだ。私は、頂いて印象的だったお礼状は今も保管している。

人と人とがスムーズでいい関係を築くには、普段から己を尽くし、誠を尽くすことが必要だ。お礼状でだけ誠意を示しても、日頃からそういう姿勢を貫いていない限り、相手には通じない。

感謝には2通りある。目に見える何かをしていただいたことへの感謝を顕加、表に表れない、見えないものへの感謝を冥加と呼ぶ。普段、顕加だけでなく冥加の世界に至るまでありがたいという気持ちで生きている人は、「ありがとう」という言葉がスッと出る。

相手を敬い、拙い自分を恥ずかしく思う気持ちがあるからであり、だからこそ人は成長する。そうでない人との違いは子どもの頃の躾や習慣だろう。躾が身についているからこそ、心がこもったお礼が自然に言えるのだ。

「ありがとう」は、口癖のように言うぐらいが丁度いい。人間関係を円滑に保つ大事な言葉だ。

■北尾吉孝氏が「お礼状」を添削!

×BEFORE

(1)何について頭脳明晰と感心したのかわからない。聞き手の感想は、話し手も知りたいもの。具体例のない褒め言葉は、おべんちゃらに聞こえかねないので注意。

(2)もっと具体的に状況を伝える。これでは自分のやりたいことが相手に伝わらず、子どもの「ありがとう」と同じ。「意を尽くしていない」「心を尽くしていない」(北尾氏)。

(3)通り一遍の言葉を連ねただけでは、ゴミ箱行き決定。ここで質問をして次につなげよう。

(4)肩書に相応しい内容を。事業本部の責任者のお礼状が杓子定規では、相手が「あれだけ話をしたのにこの程度の反応か」と失望し、逆効果になる場合もある。

○AFTER

(1)記憶を引き出しやすい工夫を
忙しい人は日々多くの人に会っている。自分にとって相手が印象に残る存在でも、相手にとっても同様かはわからない。初めて会ったならなおさら、面会した会合名などを明示し、先方が思い出しやすくするのが礼儀。

(2)自分の立場を簡潔に伝える
仕事に関することは何であれ具体的であるべし! なぜお礼を言いたいのか、自分の置かれた状況を簡潔に解説する。先方もこちらの様子をイメージしやすく、より強い印象を残すことができる。

(3)感謝の理由を具体的な言葉で
何に心を動かされ、どう変わったかを、たとえ拙い表現であっても、自分の言葉で伝える。ここがお礼状の要。先方が提供した情報が、こちらのどんなニーズを満たしたのかを知ることは、先方にとっても貴重なフィードバックとなるのだ。

(4)意見を聞きご縁をつなげる
あえて意見を聞いたり、質問を投げかけたりすることで、先方にやんわりとこちらにコミットする義務を与える。やりすぎは禁物だが、ご縁を自然な形で次につなげることができる。

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SBIホールディングスCEO 北尾吉孝(きたお・よしたか)
1951年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学卒業後、野村証券入社。ソフトバンク常務などを経て、2003年6月より現職。著書は『君子を目指せ小人になるな――私の古典ノート』など。

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(西川修一=構成 藤岡郷子=事例作成 芳地博之=撮影)