政権交代で、中国は経済どころではない?

写真拡大

中国経済が「変調」をきたしている。専門家からは、欧州の債務危機をきっかけとした輸出の鈍化に加えて、「内需の減速が鮮明になってきた」と指摘されるようになった。

中国の実質経済成長率は2012年4〜6月期に、約3年ぶりに8%を下回り、夏場も減速を続けた。沿海部を中心とする不動産バブルの崩壊や国有企業の生産能力の過剰という「負の遺産」を抱えて、追加の財政措置を伴う大型景気対策になかなか動けない。

1兆元の財政支出も効果なく

2008年9月のリーマン・ショック以降、中国経済は政府の4兆元に上る大規模な景気対策の効果によって成長を続け、つい最近まで世界経済をけん引する役割を担ってきた。

ところが、中国経済は急激に失速している。最大の輸出先である欧州経済の低迷によって輸出が伸び悩み、その影響が内需にも及んでいる。

そうした状況に、中国政府は金融政策を「緩和」の方向に舵を切りつつあったが、これが後手に回っている。

中央政府と中国人民銀行(中央銀行)は2012年6月、リーマン・ショック後の08年12月以来、3年半ぶりに利下げに踏み切り、7月にも再利下げした。金融緩和の効果がある預金準備率の引き下げについても、11年12月から3回も実施した。

第一生命経済研究所経済調査部の主任エコノミスト、西濱徹氏は「利下げで国内景気、とくに個人消費を刺激し、一方で人民元安によって輸出企業を下支えする。そうしながら、経済成長を高める狙いがあります」と説明する。

しかし、こうした小刻みな金融緩和は効果が薄い。中国政府は9月にようやく1兆元の財政支出を決めた。

その財政支出も「1兆元の使い道が明らかにされていないこともあり、低迷する中国株式市場への、単なるメッセージに過ぎないという印象でした」とみる。ただ、結局それによって株価が上がったわけでもない。

中国内では、ITや電気機械の業況は持ち直しつつあるが、重化学工業などの装置産業はまったくさえない。失業率が高く、社会情勢も不安定なことから、2012年の国内総生産(GDP)の伸び率は目標にしていた7.5%をも下回る可能性が出てきた。

「中国の変調はEUではなく内需にある」

中国政府が思い切った景気浮揚策が打てないのは、大規模な財政支出によって再び不動産バブルを引き起こし、またバブルを膨らませる恐れがあるためだ。リーマン・ショック後の「4兆元」の経済政策が結果的に内需の拡大につながらなかったという反省がある。

中国経済が専門の富士通総研経済研究所の主席研究員、柯隆氏は「中国の変調はEUではなく内需にある。(最大の原因は)政策の失敗だ」と言い切る。

「不動産バブルを抑えるための有効な金融政策を打たなかった。一方で国営企業の民営化も進まず、場当たり的な対応を繰り返した」と手厳しい。

これに「政権交代」が拍車をかけた。中国政府はまもなく10年ぶりに政権が交代する。すでに習近平氏が後継者に決まり、現在の胡錦濤政権にこうした経済課題を解決しようというインセンティブは当然働かない。

柯氏は、「現政権は党人事に忙殺されている。いろいろな思惑もあって経済どころではない。第3四半期の状況によっては金利(現行3%)引き下げの可能性はあるが、下げすぎるとバブルが再燃するから、結局は思い切った手が打てないままだ」とみている。

「おそらく、次期政権が権力を掌握するのに9か月程度はかかるだろう。その間の政治空白は大きく、不確実性はさらに高まる。この間をどう過ごすか、がポイントだ」