WBC世界スーパーバンタム級名誉王者・西岡利晃が世界が注目するビッグマッチにかける想いを激白!

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“モンスター・レフト”と形容される左の強打を武器に、WBCスーパーバンタム級王座を7度防衛、今や世界的ビッグネームのひとりに数えられる西岡利晃が、“パウンド・フォー・パウンド”と称される4階級制覇王者、IBF・WBO世界スーパーバンタム級統一王者ノニト・ドネア(フィリピン)との王座統一戦(10月13日、米国カリフォルニア州カーソン)に臨む。このスーパーファイトの実現を待ち望んでいた36歳の西岡が、その胸中を語った!

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■「待つことが、こんなにつらいとは」

西岡利晃はノニト・ドネアとの一戦を前に、こう宣言した。

「頂上決戦です」

いくつもの世界王座認定団体、細分化された17もの階級、さらに正規王者のみならず、暫定、休養、スーパーなどさまざまな王者の呼称。現在、世界には日本人8人を含め、主要4団体だけでも76人の世界王者がひしめく。誤解を恐れず言うならば、玉石入り混じり、“世界王者”の真の価値はぼやける。

ただ、「本当に強いのは誰か?」というシンプルな問いの指針は存在する。1922年、米国で創刊されたボクシング専門誌『リングマガジン』は、ボクシング界で最も歴史と権威ある雑誌とされ、“The Bible of Boxing”とも呼ばれる。同誌は毎月、ボクサーのランキングを選定し、その中に“パウンド・フォー・パウンド”、つまり、もしも体重差がなく、全階級のボクサーが同じ体重で戦った場合、誰が一番強いのかをランキングしている。

現在、そのランキング1位は空位。2位に世界6階級制覇王者のマニー・パッキャオと、現WBC世界スーパーウェルター級ダイヤモンド王者などの座に就くフロイド・メイウェザー・ジュニアの名が並ぶ。そして、軽量級のボクサーの中で1位、全体で5位に位置するのが西岡と対戦するドネアだ。

WBC世界スーパーバンタム級を7度防衛した西岡は、昨年から、ドネアとの対戦を熱望し続けた。

「たとえドネア以外の誰に勝ったとしても、結局は、その上にドネアがいる。だったら直接やったほうがいいでしょう」

だが、西岡対ドネア戦が実現する可能性は限りなく低いとされていた。米メディアの言葉を借りれば「ドネアにとって、ハイリスク、ローリターン」だからだ。

ドネア有利の評価は揺るがない。しかし、西岡と拳を交えたときの王座陥落の可能性、さらにビジネス面を考慮すれば、西岡よりネームバリューのある選手もいる。それらの要素を天秤にかければ、西岡に傾かないことは容易に推測できた。

そんな状況に置かれながらも、西岡は年明けから、ドネア対策を中心にトレーニングを行なった。

「1年間はチャンスを待とうと決めてました。それ以上待つのは無理です。1年待ち続けて実現しないのであれば、それはもうしょうがない。ドネア自身が『やりたい』と思っても、プロモーターとの契約もある。ボクシングはビジネスでもあるから。やりたいから、『じゃあ、やろう』という簡単な世界じゃない」



西岡が、これほどドネアに執着したのは、昨年2月に行なわれたフェルナンド・モンティエル対ドネアの一戦の影響が大きいという。モンティエルを、長谷川穂積の11度目の防衛を阻んだボクサーとして記憶する人もいるだろう。そのモンティエルを、ドネアは2R、左フックで葬り去っている。

「その試合を見るまでは、モンティエルとやりたかったんです。それまではね。日本での知名度はドネアよりモンティエルが上。だけど、痛烈なKOでドネアが勝った。僕の中でモンティエルという選択肢はなくなった。もちろん、その敗戦があってもモンティエルとやったほうが、僕の日本での知名度は上がると思うんです。でも、それでは燃えない。もうドネアしか見えなかった」」

そこには、西岡の信念が込められている。

「2度目の防衛戦、2009年にジョニー・ゴンサレスに勝ったあたりから、日本だけで認められる世界チャンピオンじゃなく、世界が認めるチャンピオンになりたいと思ったんです。誰もが知っている世界チャンピオンになりたい。だから、より大きい試合、より強い相手とやりたい。誰だって、そう思うと思います。だって、一番強いヤツを倒せたら最高でしょ」

だが、予想どおり、ドネアとの交渉は難航した。

「『決まりそうだ』と言われたかと思えば、『やっぱり決まらない』の繰り返しでした。精神的にかなり上下しましたね。待つことが、こんなにつらいとは思わなかったです」

7月、西岡は、ドネアの防衛戦を観戦するために渡米している。試合はドネアの完勝。リング上で始まった勝利者インタビューを西岡は見つめた。

「アピールするために、リングに上がろうか。でも、後で記者会見があるから、このタイミングじゃなくていいかな。リングに上がってまで対戦をアピールするのもいやだし……」

それは西岡らしい判断だった。本場ラスベガスでの防衛を含め、7度防衛を重ね、日本人現役ボクサー随一の実績を築いても、一般的な知名度は比例していないだろう。それでも、「王道を歩きたい」と、マイクではなく、拳で語ることを常に選んできた。

リング上では、アナウンサーがドネアに「次は誰と戦いたい?」と尋ねていた。数人の選手の名をドネアが挙げる。その中のひとり、「NISHIOKA」という言葉を聞いた瞬間、思わずリングに駆け上がった。そして、ドネアに近づき、こう伝えた。

「次は俺と戦おう」

なぜ、リングに上がったのか、西岡は今でもわからない。

「なぜですかね。気づいたらリングに上がってました」

その後、予定されていた記者会見は開かれなかった。西岡がアピールするとしたら、結果的にそのタイミングしかなかったことになる。できることはすべてやり、西岡は帰国した。

そして7月25日、36歳の誕生日を迎える。

「ビビる数字ですね。いつものってる体重計に年齢が出るんですけど、『えーっ』って思いますから。でも、衰えは感じない。ごまかしがきかない世界だから、弱くなったと思ったら、もうリングに上がれないです」



だが、誕生日の2日後、西岡に届いたのは最悪の報せだった。

「ドネアがほかの選手と契約を交わした」

西岡は、ただ呆然とするしかなかった。

「ガッカリしたし、動揺しましたね。対戦相手を変えないといけない。でも、それじゃ自分の中でスッキリしない」

心は千々に乱れた。しかし、翌朝、所属する帝拳ジムの本田明彦会長からの電話で状況は一変する。西岡は会長の声に耳を疑った。

「ドネアの試合が破談した。これで90パーセント決まりそうだ」

わき上がる感情を、どうにか抑える。

「その瞬間、めちゃくちゃうれしかったですよ。でも、ちょっと待てよ。まだ、契約書を交わしたわけじゃない。まだ、どうなるかわからないって」

1週間後、本田会長から正式に報告を受けた。

「ドネアのサインが入った。これでOKだ」

その後、西岡対ドネア戦にかけられるベルトも決まる。WBCが“究極の戦い”と認めたときにのみ与えられるWBCダイヤモンドベルト、ドネアが保持するWBO、IBFのベルト、そして現在、空位のリングマガジンベルト。計4本のベルトが、この試合の勝者のものとなる。過去、WBCダイヤモンドベルトを腰に巻いたのは、パッキャオ、セルヒオ・マルティネス、バーナード・ホプキンス、メイウェザーの4人。将来、殿堂入り間違いないチャンピオンばかりだ。

■「今までで一番リラックスしている」

渡米直前の帝拳ジム。頂上決戦を控える西岡の顔に浮かんでいたのは、晴れやかな笑みだった。

「今回の試合が、今までで一番リラックスしてるというか。防衛を重ねるうちに、モチベーションが上がりづらくなったんです。それでも、試合が決まれば体と心をつくらなきゃいけない。そうすると、折り合いをつけないといけないんで、ピリピリもしちゃうんです。その点、今回はすごい調整がやりやすいですね。僕が東洋人なんで、試合が決まりにくい面もあったはずです。もちろん、運もあります。でも、強く願うって大事なんですね」

その認識は、たぶん半分正解で、半分間違っている。試合会場のホームデポセンターは、当初4000席を確保していた。しかし、早い段階でチケットが完売したため、急遽、2000席増やされることに。発売当初は75ドル(約6000円)だったチケットも、150ドル(約1万2000円)に高騰。本場での注目度の高さを物語っている。

多くのボクシングファンが、ドネアとの対戦に心躍らせていると伝えると、西岡は笑った。

「僕が一番ワクワクしてます」

最後に尋ねる。10月13日、試合終了のゴングが鳴ったとき、どんなシーンを想像しているのか?

「大満足で4本のベルトをかけてます。もちろん、僕が。その姿が、くっきり見えてます」

(取材・文/水野光博 撮影/大村克巳)

●西岡利晃(にしおか・としあき)

1976年生まれ、兵庫県出身。帝拳ジム所属。94年12月、プロデビュー。WBC世界バンタム級タイトルに4度挑むも2敗2分け。5度目の挑戦でWBC世界スーパーバンタム級王者に。王座を7度防衛し、今年3月、日本人初となる名誉王者に認定。左ボクサーファイター。46戦39勝(24KO)4敗3分け。身長169cm、体重53.5〜55.3kg(スーパーバンタム級)