世界の保険市場で戦うスケールの大きな仕事

ビジネスパーソン研究FILE Vol.189

第一生命保険株式会社 牧内秀直さん

海外生保事業の新規案件チームのリーダーとして活躍中の牧内さん


■経済研究所に出向した後、運用企画部で実務に携わる。その後、留学に挑戦し大きく成長!

牧内さんが生保業界を選んだ理由は、「長期的な視点でスケールの大きな資産運用に携われる」と考えたからだという。入社後の研修を受けた後、配属されたのは第一生命経済研究所。出向の形で、金融工学アナリストとして株価や金利モデルのシミュレーション化などに携わることになった。
「入社当初は、そうした研究所があることも知らず、戸惑いましたね。同期の仲間は営業などで現場に出ている人が多かったので、『自分だけ違うことをやっているなあ』と。ただ、学生時代から研究をすることが好きだったので、数学やプログラミングなどを手がけながら、資産運用にかかわる概念や知識を身につけていくことは非常に面白かった。自分の学究肌に合っていると感じ、充実した日々を過ごしました」

経験を積む中、次第に実務にかかわるデータを任されるようになり、資産運用や企画などの実務に携わる部署とも連携を図っていったという。そして入社2年後、牧内さんは運用企画部の収支チームに異動することになる。
「正直、不安でしたね。それまでの研究所の理論を主体としたシミュレーションとは違い、運用企画部では、会社の決算の予測を行うため、会社の資産運用などにも直接かかわってくる。私は入社以来、実務から離れた理論の部分しか経験していなかったし、研究所当時、『現場も知らず、数字やデータを見ているだけで何がわかるんだ』と現場の方に言われたこともあった。そんな自分が果たして現場で通用するのかと思いました」

決算に必要な数字は猛烈に細かく、かつ膨大だった。扱う資産の種類は100種あり、それに関係する数字は部署ごとのシートにまとめられていたが、どの資料も虫眼鏡で見ないとわからないほど細かく膨大な数字が記されていたという。牧内さんはその数字を集計するため、数十兆円から1円単位までの数字を14ケタの電卓で足しながら検証を重ねていった。
「配属当初、集計表の印刷範囲を間違え、最終集計データの分母の数字が間違って表示されていることに気づかず、そのままデータを外に出そうとしたことがありまして。外部に開示する前に上司が気づいてくれたおかげで事なきを得ましたが、猛反省しました。自分が集計した数字が会社の数字として表に出る以上、それが投資判断にまで影響を与えてしまう可能性がある。1つのミスも許されない世界に携わっているのだと痛感しました」

以来、牧内さんは細部にわたって注意を払うようになる。異動から2年目には債券分野での予測も担当することになり、経験を重ねる中、数字の一つひとつに意味があるということを考えるようになったという。
「例えば、国債の年度の配当の数字や資産の残高の数字などを理解すると、資産から発生する損益の数字が見えてくる。数字の動きからその背景を考えることができるようになりました。また、新しい会計基準が導入された後、初の決算を手がけた時には、予測とはまったく違う数字が出たことがありました。その変化にいち早く気づき自ら分析した結果、『新基準が入ったことでこう数字が変化した』という原因を発見。チームで共有し、早期に対策を考えることができました。自分なりに成長していると感じた出来事でしたね。自分で考えて分析し、仕事を動かし、その結果が、多少なりとも会社の経理や経営にインパクトを与えている。そう感じ、仕事の面白さを次第に感じるようになっていきました」

そんな牧内さんに転機が訪れたのは、入社6年目のこと。社内公募の海外留学制度にチャレンジし、アメリカの大学で経営学を学んでMBAを取得するチャンスを手にしたのだ。
「海外で視野を広げれば、さらなるステップアップができると考え、幅広く経営目線を養成していくゼネラルマネジメントを専門にしているビジネススクールを選びました。いろんな国の人たちと一緒に学び、チームを組んで課題を手がけていく中、多様な考え方を知り、視野を広げることができたと感じます」

とはいえ、牧内さんは英語が得意ではなかったため、留学当初は言語の壁に苦しんだという。
「最初にグループでディスカッションをした時、何を言っているのかがさっぱりわからなかった。3時間のディスカッションの中で、僕は『I have no idea』を5回言っただけ。本当に苦しかったけれど、おかげで負けん気に火がつきました」

アカウンティング(会計)やファイナンス(財務)の授業では、金融工学に携わった経験や知識を生かしてグループを積極的にリードし、自分の強みを認識しながら自信を取り戻していったという。
「留学当初は精神的に追いつめられましたが、臆せず強みを生かしていく中、英語力も自然に身についた。マーケティングやブランド戦略など、まったく新しいことを学べたことはもちろん、文化の違う人たちの経営への高い意識や新しい視点に触れる日々は、大きな刺激になりました。『第一生命にこの考え方を当てはめるとどうなるか』など、会社の経営そのものについても自然と考えるようになり、自分自身の発想が大きく変化した時期だと思います」


■社内初の海外M&Aの実現に向け東奔西走! 現在は海外生保事業の新規案件チームのリーダーに

2年間の留学期間を終えた後、牧内さんは留学先で書きためていたレポートをまとめ、社内の論文コンクールに応募。結果、佳作を受賞した。
「『お客さまに選ばれる保険会社になるために』をテーマとし、お客さま第一主義の考え方を現場でもっと追求しようという内容でした。今振り返れば、現場を経験したことがなかったから書けた内容で、ずいぶんと青臭いものだったと思います(笑)。しかし、営業の戦略を担う営業開発部署の方が推してくれたという話を聞き、留学した成果を自分なりに出せたという手応えを感じました!」

帰国後の配属先は運用企画部のアロケーション(配分・割り当て)チームで、資産配分の決定に携わったが、留学先で幅広い経営を学んだ牧内さんは「自分は分野を限らず、自由な視点で戦略に携わりたい」と上司に訴え、事業戦略チームに異動することに。これがキャリアのターニングポイントになったという。
「事業戦略チームは、資産運用部門の将来をどうするか、関連ビジネスをどう成長させていくかという広い視点での戦略を考え、実現していくことがミッションでした。グループ会社の経営について実際に経営陣と議論したり、他社と組んで新しいビジネスを立ち上げようとするなど、刺激的で勉強になる日々を過ごすことができましたね!」

やがて、チーム内で「海外でのビジネスを立ち上げよう」という動きが起き、牧内さんはその第一歩となるベトナム進出に携わることになった。
「私に下された最初のミッションは、将来の保険会社設立を見据え、現地の生保市場を調査し、事務所用の物件も確保してくるというもの。しかも、期間はわずか2週間! 私自身、ベトナム市場についての知識も何もなかったし、会社としてもベトナムには何の足がかりもないという状態でした。が、とにかく成果を出さねばと思い、まずはベトナムの保険協会を訪ねた結果、現地5社のすべての保険会社の社長や経営陣を紹介してもらうことができました。各社の経営層と直接話せたことで、それぞれの特徴や戦略、将来の展望などを聞くことができ、活気があるベトナム市場を肌で感じて『これは面白いビジネスができそうだ!』とワクワクしましたね」

1995年に初の保険会社ができたというベトナムでは、まさにこれから市場が成長していく段階にあった。欧米の保険会社が進出し、業績を伸ばしつつある状況の中、大きな可能性を感じたという。牧内さんは事務所物件の仮押さえも済ませたが、ベトナムで保険業のライセンスを取得するには事務所設立から3年の期間がかかるということも知った。
「スピーディーに参入するためには、すでにライセンスを持つ現地企業を買収するのが一番ではないかと考えました。帰国後もベトナムをはじめとする市場の調査を続けていたところ、現地で知り合った人脈からベトナムの生命保険会社の買収を持ちかけられたんです。会社としても初の海外M&Aとなるこの案件、絶対に実現させようと胸に誓い、奔走する日々が始まりました」

牧内さんのチームは、企業価値の精査やリスクの洗い出しと評価などを行い、リスクとメリットを十分に分析。取締役会にかけるための準備を進めると同時に、契約交渉のため、多くの関係各所に確認を取りながら、買収条件を詰めていった。
「日本の金融庁に認可を取るプロセスも非常に大変で、買収した後、その企業をどうしていくのか、リスク管理からコンプライアンスまで言及する膨大な資料を作成しました。認可が出たという報告を電話で受けた時、『ああ、本当に実現するんだ』という実感が湧き上がり、ホロリと涙が流れました。自分自身にとってまったく経験のない中、手探りで進め、それを形にできた。この出来事は、自分の中で大きな自信となりました」

2012年から海外生保事業の新規案件チームのリーダーとしてさらなる活躍を続ける牧内さん。香港やロンドン、ニューヨークの拠点と連携しながら、グローバルに新規の投資先を探して分析・調査を行い、M&Aのプロセスも取り仕切っているという。
「最近では、オーストラリアで1000億円を超える企業買収を手がけました。1つの案件をやり遂げるまでのプロセスは本当にハードですが、その達成感は非常に大きいですし、自分の手がけた仕事が新聞の一面に掲載されることもある! スケールの大きな仕事に携わっているのだという大きなやりがいを感じます。世界という大きな舞台で、どこにどんな可能性があるかを自ら発見していく喜びがあるし、案件が実際に動く時、社内の関係各所はもちろん、専門分野の外部アドバイザーなど適材適所の人材を集め、チームのリーダーとして全体をマネジメントしていくことの面白さも感じています」

目標は、「日本発のグローバル生保」として、世界で戦っていけるように貢献することだという。
「わが社の社長の言葉に『欧米大手生保に伍(ご)する保険グループ』というものがあります。グローバルな保険会社をつくっていき、もっといい方向に、もっと大きく世界に携わっていければと思っています。自分のまいた仕事の種が10年後、20年後に収益として大きな実を結ぶ。そんな未来を目指して頑張っていきます」