セクハラと認められる基準が以前より厳しくなったことで、職場が働きやすくなったと喜んでいる女性社員は少なくないだろう。しかし男性上司の中には、言動をハラスメントと誤解されないように気を使うのが大変だ、という人もいる。

ある会社では、これまで許されてきた男性上司と女性の部下とのやり取りが、急に問題視されてしまったという。上司は人事部の聴き取りに対し、「なぜ彼女が急にヘソを曲げてしまったのか」と頭を悩ませている。


「ずいぶん昔からやってるネタ」周囲も首を傾げる


――人材サービス業の人事です。先日、営業事務のベテラン女性社員のAさんが、社内のハラスメント相談窓口にメールを送ってきました。内容は、上司である営業課長によるセクハラ。だいぶ以前から継続的に行われてきたようです。


課長はAさんに対し、「今年いくつになったんだっけ?」とか「いい加減に結婚しろよ!」と言うことがたびたびあったようです。若い女性社員が結婚すると、「あとはA子だよな…」とつぶやくこともありました。


念のため同僚に聴き取りしたところ、そのような発言はおおむね事実のようです。しかし「セクハラ疑惑」という点については、課長を強く批判する声は聞かれませんでした。


「A子さん、結構楽しそうに応じているように見えたんですけどねえ」

「調子に乗って『課長がもらってくださいよ〜』とか答えてましたよ」

2人はもう5年ほど上司と部下で仕事をしており、信頼関係があったという人も。「そのネタ、ずいぶん昔からやってると聞きましたけど?」と笑う人もいました。


課長に話を聞くと、


「いやー、参ったよ。確かにそういう発言があったことは認める。しかし、なんで急にヘソを曲げられてしまったんだろうか…」

としょげています。心当たりがあるとすれば、先日行った半期の評価面談で前回より低い査定を伝えたとき、いきなり不機嫌になったこと。課長はAさんの働きを認めているものの、部署全体のバランスを考えると、そうせざるを得なかったといいます。


真相は分かりませんが、もしもAさんの逆うらみだったらと思うと処分に迷います。こういう場合、どう考えればいいのでしょうか――


臨床心理士・尾崎健一の視点

判断のポイントは「セクハラ行為の有無」になる


きっかけはともかく、セクハラ発言があったことは事実であれば、人事としては通常のルールに則り、懲戒処分など厳正な対応を行うべきだと思います。Aさんの希望にもよりますが、課長の異動も考えられます。そうでなければ、会社がセクハラに対して甘い姿勢であると判断されてしまうからです。なぜ今さら言い始めたのかという点については、「当時は言いにくかった」「不快だったが自分の評価のために我慢していた」という理由もあるかもしれません。仮に低い評価がきっかけで告発したとしても、それが発言の問題を軽減するには値しないでしょう。


このように、信頼関係があるうちは問題にならなくても、それが崩れたときにハラスメントと訴えられることはありえます。今回の件を教訓に、社員には「相手がその場で拒否しようがしまいが、外形的にハラスメントとなるような言動は取るべきではない」と教育しておくべきでしょう。


社会保険労務士・野崎大輔の視点

経緯を踏まえ、課長の処分は慎重にすべき


尾崎さんの指摘も理解できますが、やはり経緯を踏まえて「腹いせ」の可能性についても考えるべきです。周囲の人の証言を元に「Aさんが課長による報復を恐れて我慢していた」というような事実がない限り、処分は慎重にすべきでしょう。課長にはAさんに詫びていただき、今後は発言に気をつけると伝える場を持ってもらえればいいのではないでしょうか。業務上の必要性のない異動は厳しすぎ、譴責程度が妥当ではないかと思います。


今回の件の責任をすべて課長が悪いと決めつけ、詳しい状況も確認せずに厳しすぎる処分を一方的に下した場合、会社は課長から訴えられるおそれもあります。ハラスメントは受け手側の感じ方によるところが大きいとはいえ、恣意的な判断をするとアンフェアになります。男性の管理職など、恐ろしくて女性部下と雑談のひとつもできなくなるでしょう。また、特別の事情がない限り、あまり以前の言動を蒸し返すのもいかがかと思います。






(本コラムについて)

臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。