見えない選別!これが「価値急落の6種族」だ【2】

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人事コンサルタント 本田有明(ほんだ・ありあけ)
1952年、兵庫県生まれ。慶応大学哲学科卒業後、日本能率協会を経て96年に独立。著書に『本番に強い人、弱い人』(PHP新書)、『いつも「結果」が出せる人の仕事術』(PHP文庫)など。

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「どうして自分がリストラされるのか」……気づかない間に会社から必要とされなくなってしまう人は多い。その原因の一つは、会社が必要とする人材は常に変化しているということだ。

■自分が優秀だから人に任せられない

そもそも会社組織は一定以上のパフォーマンスを求められるが、パフォーマンスを高めるには不断のメンテナンス(組織の活性化、人材育成)が必要だ。メンテナンスを実行することで高いパフォーマンスが実現するのである。

わかりやすくいうと、まずは「うちの部署は元気だなあ。大将も一生懸命頑張っているじゃないか。自分たちも頑張らないと」という雰囲気を醸成する。それによって、おのおのが1・2倍の力を発揮する。すると5人で6人分の成果を挙げることができる。そこに目を向けるべきなのである。

ところが近年の成果主義は、短期的なパフォーマンスを追求するあまり、メンテナンスを軽視してしまうという傾向が見られた。そこに落とし穴があったというべきだろう。

その意味で、種族3:メンテナンスのできない人、後進を育てられない人は、いくら優秀でも組織のリーダーとしては不適格といえる。

プレーヤーとしては何人分もの働きを見せるスーパーマンのような人がいる。こういう人は周囲から見て、いかにも「できるビジネスマン」であり、管理職としても伸びていくのは当然のように思われている。

部下を持たされても、本人が優秀なため、2年くらいはまだ成果を挙げられる。しかし、異動したあとは「なんだ、誰も育っていないじゃないか」といわれるように、部署がペンペン草も生えない状態となっていることがたいへん多い。要するに、部下を育てることが下手な「焼き畑上司」なのである。

一つには、自分が優秀だから他人に任せるとまどろっこしい。それで、勘所にくると、自ら乗り出して受注に持ちこんでしまう。教えるヒマがないのである。

ところが、最近はここに別の事情が加味され、より面倒なことになっている。年功序列が守られた牧歌的な時代とは違って、場合によっては後輩が自分を追い抜くかもしれない。できる部下なら、ライバル会社に引き抜かれる恐れもある。

だから、勘所での契約の取り方など「虎の巻」的な知恵を簡単に授けてしまうわけにはいかない、と考えてしまう。よほど忠誠を誓わせている相手でなければ、肝心のことを教えないようになっているのだ。教える技術を持たず、そのためのヒマもなく、警戒心が働くので教えるつもりもない。“急落種族”の4は、「三重苦上司」である。

このような問題はすべて成果主義に起因している。そのことにいち早く気づいたのがトヨタ自動車である。

トヨタはちょっと前に成果主義を導入したが、わずか1年半で元に戻すという英断を下した。

従来は課長昇進の条件が「個人の成果」5割に対し、「育成」5割の比率だったが、それをいったん7対3に変えたのである。ところが変えたとたんに、社員たちが育成をないがしろにし始めた。つまり、そのままでは人が育たなくなるということだ。

そのことに強い危機感を抱いたトヨタは、課長昇進の条件を従来の5対5の比率に戻したのである。

そもそもトヨタには「自分を凌駕する部下を育てよ」(豊田英二元社長)という考えが脈づいている。社訓であるトヨタウェイ2001の「行動基準」にも「部下があなたに挑戦して、あなたの作った業務プロセスを改善するような風土を作ってください」とある。

この言葉は非常に重要である。

種族5:上の方針をそのまま下に伝える人、翻訳能力の欠如した人も、それ以上の出世は望めない。上との関係を重視するあまり、同僚や部下との関係をないがしろにしているからだ。

経営トップは刻々と変わる為替レートなどの状況から、朝立てた戦略を夕方にはもう見直さなければならない場合がある。では、現場はそれを受けてどう動けばいいのか。

たとえば大方針の変更があったとき、部課長であれば、現場が具体的にどう対応したらいいかを自分の言葉で説明しなければならない。そうしないと現場のモチベーションを保つことは難しいからだ。だが、最近はそうした言葉を持たない上司が増えている。

■つい言ってしまう“NGワード”とは?

実際、こんなアンケート結果がある。会社が急に方針転換を打ち出したときに「どうしてそうなるんですか?」と上司に質問すると、高圧的に「上の方針だ。いわれたとおりにやればいいんだ」とだけいわれて、それでおしまい。そのことに対する不満は意外に大きいのである。

上司自身が決定の事情をよく理解していない場合もあれば、理解していても噛み砕いて伝えることができない場合もある。いずれにせよ、自分のチームを活性化しようという意識が希薄であることが問題だ。

本来なら、自分も理解していないときは「申し訳ないけど、俺もわからないんだ」といい添えればいい。それだけでコミュニケーションはずいぶん円滑になるものだ。しかし、最近の上司は沽券にかかわると思い込んでいるのか、その一言がいえないのだ。

そればかりか、ついうっかり、逆効果にしかならない次のようなセリフを漏らしてしまうことが少なくない。

「いいから、黙って働け」

「そんなこというヒマがあったら、ほかにやることがあるだろう」

「おまえの意見は聞いてない」

これらはコミュニケーションを完全にシャットアウトする言葉である。とくに「おまえの意見は聞いてない」となると、いわゆるホウレンソウのうちのソウ(相談)に応じないことになってしまう。

自分ではそういっておきながら、「うちの奴らはホウレンソウをきちんとやらない」と嘆いたりするので厄介だ。むろん部下の本音は「あの人に相談しても聞いてくれないんだからしょうがない」。こうなってしまっては、お互いに不幸である。

上のために働くのは当然だが、パフォーマンスを上げるには「下のために働く」ことを忘れてはならない。たとえば次のようなことだ。

自分の部署に閉塞感が出てきたようなときに、上司自身が部下の目線に降りて「どうしたらいいと思う?」と話しかければ、部下はぽつぽつと意見を出してくる。そういったコミュニケーションがひんぱんになってくると、しだいに「あの人と一緒に仕事をするとおもしろい」「意見を聞いてくれる」という雰囲気が醸成される。すると人望が集まり、必ず仕事の成果もついてくるのだ。

では、部下と話し合うときは、どんなテーマがいいだろう。私が新任管理職にアドバイスしているのは、「とりあえず残業の撲滅から行ったらどうか」ということだ。

いま多くの会社員が重視しているのは「年次有給休暇の取りやすさ」や「実労働時間の適正さ」である(表参照)。夜8時までの残業が常態化しているようなところでは、短時間でパフォーマンスを上げるような仕組みを考えていくことで、部下たちの負担感が減り、働きやすい職場になる。事実上サービス残業になっているとしたら、なおさら効果が期待できる。

「どうしてうちはみんな毎晩8時まで残っているんだろう。どうしたら残業時間が1時間減るか、みんなでちょっと話し合わない?」

こうやって話し合っていくことで、働きやすさが改善するし、単位時間の生産性も向上する。また、次のような本音も引き出すことができるかもしれない。

ある会社では、多忙な時期は残業が増えるのも仕方がないが、そういうときに「遅くなったね、でも頑張ってるね」とねぎらってほしいという意見が出たという。

それで残業時間が減るわけではないが、一言の気遣いが大事なのである。さらに進んで、8時まで残業が続くとしたら、途中の6時ごろに上司が甘いお菓子でも差し入れするようにしたら、とても雰囲気がよくなったという報告もある。

※すべて雑誌掲載当時

(人事コンサルタント 本田有明 構成=面澤淳市 写真=和田佳久)