京都大の山中伸弥教授がノーベル賞を受賞しました。ここ数年、有力な受賞候補者として名前が挙がっていましたが、とうとう快挙達成。うれしいニュースに日本中がわきました。

 ノーベル賞といえば、私たちにはもう一人気になる日本人がいます。それは作家の村上春樹。さて、こちら文学賞での朗報も今年はもたらされるのでしょうか。

 評論家の宇野常寛氏は『リトル・ピープルの時代』の中で、村上春樹だけが「国内における圧倒的な商業的成功と、国外における日本人作家としては例外的な普及力」をもつ特異な存在だといいます。純文学の世界では、注目を浴びる作家でも初版部数1万部以下は当たり前。そんななか、彼だけが100万部以上のベストセラーを次々に世に送り出しているからです。しかも、世界でも高い評価を得ていて、「国内においてはポップカルチャーとして消費される春樹が、なぜ世界文学たり得るのか」と疑問を投げかけています。

 氏は、村上春樹を「決して共感できる作家ではなかった」としながらも、「想像力の豊かさについては、読み返すたびに圧倒されてきた」といいます。たとえば、1994年から95年にかけて刊行された大長編『ねじまき鳥クロニクル』では、「時間と空間を超越して他者の精神と直接接続する」イメージが提示されていて、それは「インターネット」として半ば実現されていると指摘。「春樹が世界の変化に敏感であり、その変化を受け入れながらもその先を行くことで、物語にしか、虚構にしか成し得ないイメージの提示を行うことに成功し、その小説世界を構築していった」と、その魅力を語ります。

 そんなすばらしい彼の想像力もここ、「わずか10年前後で現実に追いつかれ、追い越されてしまった」と言及。しかし、これを否定的にとらえるのではなく、現代の稀有な作家のさらなる変貌を予感、期待しているようです。

 受賞のいかんにかかわらず、直近のベストセラー『1Q84 』だけでなく、ほかの村上春樹作品も再読したいと思わせる一冊です。



『リトル・ピープルの時代』
 著者:宇野 常寛
 出版社:幻冬舎
 >>元の記事を見る



■ 関連記事
『死にたい』が口癖の24歳作家が第32回横溝正史ミステリ大賞を受賞
ライバルは『20世紀少年』? 不老不死をテーマにした『百年法(上・下)』
レコード・デビュー50周年、「ビートルズ」を知らない現代の若者たち


■配信元
WEB本の雑誌