私たちはどこまで「おでん」のことを知っているのだろうか?




料亭からご家庭まで、あらゆる食卓にのぼる「おでん」。地方によってタネの種類が違うばかりか、最近ではトマトを丸ごと入れる店も登場しています。また、付けだれも味噌・ショウガ醤油・柚子コショウなど、多くのバリエーションが存在するほど、実は奥深い世界を持っているのです。そこで今回は、豊かなおでん文化を研究する新井由己氏にお話をうかがいました。



■おでん調査の旅、はじまりは「餃子巻き」



――おでん調査に取り組んでいる新井氏。始めたきっかけについて教えていただけますか?



「餃子巻きです。博多で初めて食べてネットで話題にしましたが、ほとんどの人は知りませんでした。しかし、谷中・根津・千駄木辺りの人たちは知っていて、そのつながりに関心を持ったところから調べ始めました」(新井氏)



――「餃子巻き」を初めて知りました。どのようなものなのでしょうか?



「ゴボウ巻きやゲソ巻きのように、餃子がすり身で包まれている揚げかまぼこです。九州北部を中心に普及していますが、東京の下町でも知られているほか、各地に点々と存在しています」



意外な組み合わせにも思えますが、おでんのだし汁との相性はよさそう。まだまだ未知の地方おでんがありそうです。



■知られざるおでん王国「静岡」



―─おでん調査の旅で、印象に残っている地方おでんはありますか?



「静岡おでんです。真っ黒い脂ぎっただし汁で煮たおでんに、だし粉や青のりをかける点が特徴で、だし汁は飲みません。



静岡おでんの中心地は、大井川と富士川の間の地域です。海沿いはみそだれと青のりを、東海道沿いはだし粉と青のりをかけることが多いですね。みそだれは全国で見られますが、だし粉は静岡独特のトッピングです。



静岡では駄菓子屋おでんが健在で、屋台風の飲み屋はいつも満席。静岡おでんの会の調査によると、中心繁華街800メートル四方の250軒におでんがあるとのこと。静岡は『おでん王国』なのです。



季節にかかわらず一年中、夏の間もおでんがよく食べられています」



―─夏におでんを食べるのですか?



「そうです、プールサイドで食べたり、高校野球を見ながら食べるとか。大正6年に創業した焼き芋屋『大やきいも』では、戦前ごろからおでんを売っていますが、今では夏のほうがよく売れるというほどの人気ぶりです。



さらにおもしろいのは、かき氷とおでんを交互に食べるんですよ。



冷え過ぎたおなかがおでんの温かさで中和され、たしかにおなかに優しいのですが、最初は驚きました。



しかし、静岡市民には当たり前の食べ方で、多い日は1日2,000本近く売れるそうです」



かき氷とおでんの交互食べは、おでん王国ならではのなかなかハードコアな楽しみ方ですね。いずれ試してみたいものです。



■コンビニおでん3年周期説



─―コンビニおでんも店舗ごとに味の違いはありますか?



「各社とも、おでん研究に力を入れています。お客さんが飽きてしまうのをふせぐためか、だしは毎年改良されています。味を濃くしないと違いがわからない傾向があるようで、少しずつ濃くなるという周期があるのです。



これを"コンビニおでん3年周期説"といいまして、だんだん味が濃くなって3年くらいでピークを迎え、4年目はまた薄味に戻ります。



その周期は各社でズレているので、自分にとってちょうどいい濃度のコンビニが、その年で一番おいしく感じますね」



味の濃さに周期があるなんて知りませんでした。コンビニを食べ歩いて、自分好みの味を探すのもおもしろそうです。



■海外にも広がるフィールドワーク



――今後の活動予定について教えてください。



「海外に伝わっているおでんの現地調査を以前から行っています。韓国と台湾へは行きましたから、コンビニおでんがあるという中国とタイの調査を検討中です。



また、『全国漬物探訪』という取材を続けています。24回で一段落したのですが、今年9月から再開して全都道府県を制覇するのが目標です。



ほかには、インドカレーの調査もしています。全土を網羅するのは大変ですが、少しずつ研究しています」



おでんはもちろん、カレーや漬物など、さまざまな「食」の観点から地域の文化を比較・研究する新井氏の活動に要注目です。



もちろんおでんに関する著書も多く、日本全国のおでんが作れる『とことん亭のおいしいおでん』(凱風社)がオススメです。だしの取り方や調味料の選び方など和食のいろはも満載で、各地のおでんを作るうちに、料理の腕が上がりそうな一冊。実は知らないことが多い「おでん」の世界をのぞいてみては?



新井由己の仕事帖 http://www.yu-min.jp/



全国漬物探訪 http://www.kyuchan.co.jp/labs/tanbou/index.html



(OFFICE-SANGA 服田恵美子)