資金調達やM&Aによりテクノロジー業界の成長に寄与

ビジネスパーソン研究FILE Vol.188

シティグループ証券株式会社 長野恭久さん

アメリカ西海岸オフィス勤務を経て、新たな仕事に挑戦中の長野さんの仕事のやりがいは?


■業界再編の象徴となるM&Aをやり遂げ、ひとまわり成長した自分を実感

入社8年目となる長野さんは、入社以来、投資銀行業務に携わってきた。配属時には「モノづくりや技術を扱う企業にかかわる仕事がしたい」と志望し、テレコム・メディア・テクノロジー(TMT)グループの中で、主に家電、精密機器、ITサービス、半導体などテクノロジー企業を担当するチームの一員に加わる。アナリスト(※1)を経て、4年目にアソシエイト(※1)に昇進し、7年目には「海外で働いてもっと経験の幅を広げたい」と海外オフィス勤務を自ら志願。希望がかない、6カ月間アメリカ西海岸のパロアルトオフィスに転勤となり、海外勤務中にバイスプレジデント(※1)に昇進するなど、能動的に自らのキャリアをかたちにしながら、成果を上げて会社の期待に応えてきた。そんな長野さんも、入社当初は相当な苦労をしたという。
「専門用語がわからないうえ、誰に何を相談すればいいのかの判断もつかなかった。最初に身につけたスキルは『自分で考え、率先して行動する』という基本動作でした」

(※1)外資系金融機関の投資銀行部門で多く使用されている職位。一般的にアナリストは新卒〜数年目を差し、その後、アソシエイト、バイスプレジデントと続く。

入社1年目は、ニューヨークで実施されるグローバルなアナリスト研修で財務会計などの基本業務を習得し、帰国後は3つのグループを1年かけて回り、投資銀行業務の実務をひと通り経験。例えば、IPOオリジネーショングループでは未上場企業の新規株式上場に関する業務、エクセキューショングループでは株式や債券の引き受けを通じて必要となる届出書類や目論見書(※2)の作成業務、M&Aグループでは企業買収や株式持分売却案件の実務に携わった。
「この期間にファイナンス(資金調達)とM&Aという投資銀行業務の基礎スキルを身につけることができました。当時はたくさんの案件が動いており、アナリスト1年目からさまざまな実務に携われたことも、いい経験になりました」

(※2)有価証券の募集・売り出しの際に、投資判断基準となる情報を提供する文書。

投資銀行業務は、税務や会計、法律知識だけでなく、担当業界についても熟知したスペシャリストであることが求められる。
「資本市場や業界の動きをとらえ、その先の展開を読んでお客さまに提案していくことが、この仕事では重要。ですから、知識のストックを増やすだけでなく、目まぐるしく変化する業界環境や新しい技術動向なども常に把握していなければなりません。年次にかかわらず自分で考えて行動することが求められ、また常に正確さ・緻密さも求められます。そこが楽しさであり大変さでもありますが、私は『高い山ほど制覇してみたい』と挑戦意欲が湧くタイプ。つらいと思ったことはありません」

自身の成長を実感できたのは、3年目。大手メーカー3社による液晶ディスプレー事業の包括的提携の案件で、長野さんは、売り手企業のアドバイザーとして、案件執行にかかわるチームの一員に加わったのだ。
「M&Aは常に相手があることですから、われわれのお客さまの意向だけでは成立しません。しかも、通常のM&Aといえば2社間での交渉が一般的ですが、この案件は3社間での交渉だったうえ、いずれも日本を代表する大手企業。ときには各社の主張が激しくぶつかり合い、交渉が難航を極める場面もありました」

クライアントにとっても極めて重要な案件だけに、提出する数字1つにも、責任の重さをズシリと感じた。長野さんは、「お客さまのために、案件の成立に向けて愚直にやるしかない」と自分に言い聞かせ、課せられた役割を果たすことに集中した。
「心身ともにハードな状況が続きましたが、業界に大きなインパクトを与えるこの案件をやり遂げたことは、大きな自信となりました。M&Aでの交渉戦略の考え方やバリュエーション(事業価値評価)の経験を身につけることができて、ひと回り成長できた気がします。何よりの収穫は、お客さまの信頼を得られたこと。最初のうちは、お互いの意図を理解しあうのに時間がかかっていましたが、お客さまからのさまざまな依頼に着実に応えていくことで信頼を積み重ね、われわれとお客さまのチームワークが日々高まっていくのが実感できました」


■テクノロジー業界をリードするシリコンバレーでの勤務を経て、新たな仕事にチャレンジ中

2008年、長野さんはアソシエイトに昇進した。指示された仕事を自分なりに考えて遂行するのがアナリストなら、仕事の全体像を見通しながら後輩のアナリストに具体的な作業の指示を出し、アウトプットをまとめ上げていくのがアソシエイト。アナリスト時代は書類作成などのデスクワークが中心だったが、アソシエイトになってからは頭で考える仕事の割合が増えた。

アソシエイト3年目になると、上司とともにクライアントを訪問する機会が増えた。こうした日中の外出に加えて、アナリストの仕事の進捗管理や時差のある海外チームとの共同作業もあるため、シビアな時間感覚が培われたという。

アソシエイト4年目、長野さんは海外勤務希望を申し出た。目指す先は、アメリカ西海岸。世界のIT業界をリードするシリコンバレーだ。
「いつの時代も業界のけん引役となっているシリコンバレーで今何が起こっているのか、これから何が起こるのかを自分の目で確かめたかったことと、クロスボーダーM&A(国境を超えるM&A取引)案件が日本でも増えている状況を踏まえて、アメリカの法制度や業界に関する知識を養っておきたいと考えたのが理由です」

半年間のアメリカ勤務で長野さんが目の当たりにしたのは、業界のすそ野の広さと資本市場の巨大さ。
「日本ではこのところ、テクノロジー企業のIPO(新規株式公開)は少なくなっていますが、アメリカでは年間何十件も成立しています。そのうえ、ハイブリッド型債券(※3)やハイイールド債券(※4)などさまざまな資金調達手法があり、資本市場の巨大さを実感しました。アメリカ勤務で自分が体得したことを、今後は東京での仕事を通じて還元していくつもりですし、後輩にも積極的に海外勤務を経験するよう啓発していこうと思っています」

(※3)債券と株式の両方の特性を持った有価証券。
(※4)リスクは高いが、高利回りの債券。

在米中にバイスプレジデントに昇進し、帰国後、長野さんは新しい役割を任されている。上司であるマネジングディレクターと共に、いくつかのセクターを共同で担当することになった。カバレッジ(業界担当)バンカーとして、担当企業の財務部門や企画部門の責任者を訪問し、資金調達やM&Aなどの提案活動を精力的に行っている。
「現在は10社程度カバーしていますが、上司からは自分で提案内容を考えて積極的に顧客訪問を重ねてほしいと言われています。月並みですが、今の目標はお客さまとの信頼関係を深めて新しい案件を獲得すること、そして自らリーダーシップを発揮して、その案件を成功に導けるバンカーになることです。私がシティに入社して良かったと思っているのは、国内外の幅広いお客さまにさまざまな金融サービスを提供していて、コンスタントにいろいろな案件の経験が積めること。そして海外研修や海外オフィス勤務など、若手のキャリア形成をグローバルでサポートする会社だという点です。これらの機会で得た知識・経験・人脈は、自分にとって今でも貴重な財産になっていますし、シティの懐の深さを感じます」