通販で買った1万3000円の本がきっかけで映画の道へ


 『陽気なギャングが地球を回す』、『ブタがいた教室』などで知られる映画監督の前田哲さん。プライベートで読む本から、幼少期の読書体験について聞いてみました。

 自分の名前に「哲」という字が入っているからか、小学校の頃から哲学に興味があって読んでいました。今でもよく読むのが臨床哲学の本を出されている鷲田清一さんの作品。その方の本は出る度に読んでいるんですが、特に印象に残っているのは『悲鳴を上げる身体』という本です(前田哲さん)。

 どんなところが印象的でしたか?

 心と身体の関係について深く掘り下げているんですけど、小さい時に両親から包容されたり、身体的なふれあいを身体全体に受けて育てば、自分が何か追いつめられた状態になってしまった時、最終的にギリギリのところで踏みとどまれるのではないかということが書いてあるんですね。たとえば犯罪とか。肉体的なふれあいの積み重ねが、記憶に残っていっているというのが僕の中でとても印象的でした。僕自身も肉体は精神を凌駕するんじゃないかと思っているところがあるんです。「手で仕事を覚える」って言うじゃないですか。

 前田さんは小さい頃、両親から愛されて育ってきましたか?

 僕は両親に愛情をかなり注がれて、過保護に育てられました。いまだに高齢の両親は元気で、今でもそうなんですが......。小さい時に母親から「木や土や石とか、そこらじゅうに神様がいて、必ず誰かが見ているから悪いことはしちゃいけない」と言われてきました。僕は神様とか信じないタイプなんですけど、それだけは信じて今まで悪いこともできず、真っ当に生きてきましたね。

 思春期に影響を与えた本は?

 哲学から心理学に興味を持って、中学校から高校までは、ユングやフロイトに関する本を書店で買ってやたらと読んでいましたね。うちの父に「本ほど安いものはない」と言われてきましたから、本を買うということはまったくいとわなかったです。

 そんな前田さんが映画の道に入ろうと決めたきっかけは、ある一冊の本だったそうです。

 小学校のときから映画が好きで『SCREEN』と『ロードショー』という映画雑誌だけは定期購読で買ってもらってましたね。でも、映画の世界に入ろうとしたきっかけの雑誌は『LIFE GOES TO THE MOVIE』という雑誌『LIFE』の映画に関する記事だけを集めた本でした。1万3000円という価格で小学生には大金だったのですが、お年玉を全部かき集めて当時には珍しく通販で買ったのを覚えています。

 今まで読んでいた映画雑誌と大きく違った点は、映画スターの撮影の合間はもちろん、監督やスタッフ側の写真が数多く掲載されていたこと。それを見たときに「あ、こちら側に行くんだ」と。そうやって映画の世界に入ることを決めたのが小学校4年生のときですね。でも当時は、監督とプロデューサーの区別がつかないから、映画の一番偉い人になりたいと思って卒業文集に「映画のプロデューサーになる」って書いて絵を描いたんですけど、その絵がどう見てもディレクターなんですよ。帽子かぶってインカムつけて、なぜかカチンコ持ってて。カチンコ持ったら助監督なんですけど。

 次回は、前田哲さんの仕事と本の関係についてお聞きします。お楽しみに!

《プロフィール》
前田哲(まえだてつ)
大阪府出身の映画監督。1998年、相米慎二総監督のオムニバス映画『ポッキー坂恋物語』で監督デビュー。主な作品に『陽気なギャングが地球を回す』(06)、『ブタがいた教室』(08)など。9月22日から、名作青春コミックを映画化した『王様とボク』、10月27日からは、前川清主演の『旅の贈りもの〜明日へ〜』が公開される。



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 著者:中山 康樹
 出版社:双葉社
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