【松岡賢治のマネーtab】「個人向け社債」人気について考える

写真拡大

 個人向け社債の人気が高まっている。今年1〜9月に発行された個人向け社債の発行額は1兆7000億円を超え、前年同期比で8割ほど増加している。しかも、9月に入ってから1本あたりの発行額が大きくなっており、三菱東京UFJ銀行の10年債・発行額1300億円に続いて、ソフトバンクが5年債・発行額1000億円の社債を発行している。特に、三菱東京UFJ銀行債は、当初の予定は1000億円だったが、個人投資家の需要が旺盛だったため、1300億円に増額した。

 そもそも、個人向け社債とは、一般企業が発行する債券のことを指す。国が発行する債券である国債と比較すると、債券としての信用度が劣る分、利率は高くなる。例えば、9月に発行された個人向け国債の5年債(固定5年、第28回債)の利率は、0.17%。それに対し、前述のソフトバンクの5年債は0.74%となっている。ネット系銀行の5年物定期預金で最も高金利のものでも0.35%程度であることを考えると、社債の利率の高さは明らかだ。

 ただし、社債は元本が保証されている金融商品ではない。発行元の企業が破たんしてしまうと、購入した社債分の金額が返ってこない可能性がある。また、満期前の途中売却も手間がかかり、手数料などが徴収された場合は利率が目減りし、ネット定期の方が利率が高かったといったことが起こりえる。さらに、つねに発行されているわけではないので、実際に購入するためには証券会社などへの問い合わせが必要となる。

■ブームに変調の兆し

 こうしたデメリットがあるにもかかわらず、個人向け社債が売れているのは預貯金などの金融商品の超低金利状態が長引いているという背景があるからだ。少しでも高い利回りを求め、個人投資家が社債を購入している現状が浮かび上がってくる。

 しかし、足下では、個人向け社債ブームに変調の兆しが出ている。9月に発行された個人向け社債の中にオリックスがあった(第165回無担保社債)。5年物で利率は0.777%で、個人的にはちょっと利率が低いかなという印象があったが、即日完売した。そして、その直後に発売された、冒頭から紹介しているソフトバンク債は、募集期間のギリギリまで販売する証券会社の一部には売れ残りがあったようだ。

 利率は0.740%とほぼオリックスと同条件のように見えるが、微妙な利率の差に個人投資家は敏感だった(両社債とも格付けは「A」で同じ)。また、ソフトバンク債は1000億円と大型の起債だったことも影響しているかもしれない。つまり、足下では利率の低下によって、社債の魅力が減退してきているのである。個人投資家はこの点に注意しつつ、社債を考える必要がある。

※閑話休題:なぜソフトバンクが1000億円もの社債発行に踏み切ったのか? 

 イー・アクセスの買収資金に使ったのではと考える人もいるかもしれないが、それは違う。今回のソフトバンクのイー・アクセス買収は、お互いの株式交換によるもので、買収には現金を使わない手法。社債で調達した資金は、有利子負債の負担軽減と、基地局の整備などに使われるとみるのが妥当だろう。

■これから発行される社債の購入には慎重に

 社債の金利低下は、9月後半以降の円高などの要因で、金融市場の金利が低下したことが、大きく影響している。したがって、これから発行される社債の購入には慎重に対処したい。この10月上旬には、モルガン・スタンレーが期間5年で、利率が0.80%からスタートして、1年ごとに0.10%ずつ金利がステップアップする、いわゆる「ステップアップ債」を予定(5年目の利率は1.20%となる)。さらに、中旬からは、みずほ銀行の期間12年の個人向け社債の発行を予定している(→まだ利率は未決定。0.90%〜1.60%の間で決まる予定)。

 みずほ銀行の利率は未定だが、期間の12年は長すぎる。いずれも、先を争って買うような条件ではないと考えるが、モルガン・スタンレー債は、現在、余裕資金がある人は資金の一部を振り向けてもよいかもしれない。ただし、5年間は原則途中売却しないことが前提となる。繰り返すが、社債は元本保証の金融商品であることを銘記しておこう。

(文/松岡賢治)

マネーライター、ファイナンシャルプランナー/シンクタンク、証券会社のリサーチ部門(債券)を経て、96年に独立。最新刊に『人生を楽しむマネー術』(共編著)。