AIJ投資顧問の年金消失事件を契機に、厚生労働省が厚生年金基金を廃止する方針を打ち出した。来年度中の法案提出を目指すというから、スケジュール的にもほぼ決まりだろう。

以前も述べたように、運用利回りや賃金上昇率等、高度成長期の数字を使っている年金制度そのものに無理があるので、廃止自体はまったくもって正しい選択だ。


ところで、このニュースはいくつか不可解な点がある。それらを読み解いていくと、厚労省の隠された意図がくっきり浮かび上がってくる。


やっぱり無理だった「4.1%の運用利回り」


まず不可解なのは、たった1900億円溶かしたAIJを理由に、28兆円を運用する基金全部を廃止しようとしていることだ。これでは手続き上のミスを理由にして、大名家をとり潰した江戸幕府と同じだろう。幕府同様、本音では最初から基金そのものを潰したかったのだと思わざるを得ない。


では、その理由とは何か。そもそも、厚労省の想定する4.1%の運用利回りや2.5%の賃金上昇など到底達成できるはずもなく、その一部を代行分として預っている基金は、続ければ続けるほど赤字が累積する構造になっているからだ。


とはいえ、「やっぱり4.1%は無理でした」と言ってしまうと、じゃあ厚生年金はどうなんだと突っ込まれるのは確実であり、口が裂けても「制度自体に無理があった」とは言えない。そこでAIJの暴走をカモフラージュにしつつ、厚生年金基金からの撤退戦を開始したのだろう。もっとも、分かっている人から見ればバレバレのカモフラではあるが。


また、「一兆円に上る積立不足を保険料で穴埋めするなんてけしからん」と言っている人もいるが、実はそこは論点ではない。以前も述べたとおり、厚生年金自体の(過去給付に対する)積立割合は17%程度しかなく、それに比べれば、なんだかんだいいつつ全体で70%以上を積み立てている基金は健闘している方である(平成22年度、基金全体の純資産/過去期間代行給付現価の割合。厚労省資料より)。


たとえるなら、ノルマの17%しか達成していない本店が、平均で70%ほど達成している中小の支店を、成績不振を理由に潰して吸収するようなものだ。


繰り返すが、それ自体を筆者は否定しない。無理がある制度だから、一日でも早く廃止すべきだろう。ただ一つ大きな疑問が残る。いったい誰が本店の尻拭いをさせられるだろう?


泣きを見るのは団塊ジュニアからバブル世代あたり


選択肢としては2つ考えられる。まずは、少なくない数の経済学者が主張するように、年金の積立不足相当額の800兆円ほどを切り離して別枠で管理しつつ、新たに積立方式の新年金制度を立ち上げるというものだ。


これなら積立不足分は数十年〜百年ほどの超長期間で返済すればいいし、いくら払っていくら貰えるかがすべての世代にクリアになる。イメージとしては国鉄清算事業団が近い(興味を持った人は拙著「世代間格差ってなんだ」または鈴木亘著「年金問題は解決できる! 積立方式以降による抜本改革」を参照のこと)。


もう一つの選択肢は、このまま積立金が枯渇するまで何もせず座して待つというものだ。それで逃げ切れる世代もいれば、給料の20%近くを天引きされ尽くしたあげく、リタイア直前になって泣きを見る世代も出現するはずだ。


ちなみに前出・鈴木氏の試算によれば、現状のままでは厚生年金の積立金は2030年頃に枯渇するから、座して待つといってもそんなに遠い未来の話ではない。泣きを見るのはちょうど団塊ジュニアからバブル世代あたりになるだろう。


これから日本がどちらの道に進むのかは、筆者にはわからない。ただ一つ確実なことは、強引にAIJ騒動を幕引きしつつ、年金自体の抜本改革は拒否し続けている厚労省は、間違いなく後者を選択しているということだ。(城繁幸)