李明博・現大統領の竹島上陸以降、すっかり冷え切ってしまった日韓関係を修復させる突破口になるか。今年12月に行なわれる韓国大統領選で、ひとりの男が有力候補に急浮上している。その名は安哲秀(アンチョルス)、50歳。出馬宣言直後の9月19日には、それまで大統領選レースを独走していた与党・セヌリ党候補の朴槿惠元代表の36.4%に迫る32%の支持率を叩き出した。

しかも、在京の韓国紙特派員によると、この結果は最大野党・民主統合党の文在寅(ムンジエイン)氏が20.4%の支持を集めて野党票が割れているためで、もし野党勢力が候補の一本化に成功し、朴氏と安氏の一騎打ちになった場合は、より安氏が有利になるという。

「どちらに投票するかという質問には、朴氏40.9%に対し、安氏50.9%という結果になっています。この10ポイント差は大きい。間違いなく、安氏は次の韓国大統領に最も近い候補者です」(前出・特派員)

いったい、この安哲秀とは何者なのだろうか。7月中旬に出版され、たちまち韓国でベストセラーとなった『安哲秀の考え』を翻訳中の姜順子(かんじゅんこ)氏が語る。

「ソウル大卒業後、医者として働いていましたが、コンピューターウイルスを除去するソフト(アンチウイルスソフト)を開発して、『アンラボ』という韓国有数のベンチャー企業を立ち上げました。その後、『アンラボ』のCEO(最高経営責任者)を退き、米国へ留学してMBA(経営学修士)を取得、帰国してソウル大学校大学院長に収まり、現在に至っています」

つまりは医者であり、ベンチャー企業経営者であり、大学教授であると。絵に描いたような成功者だ。しかも、ボランティアにも熱心で、NGOやNPOからせがまれて無料の講演を激務の合い間に引き受けてきたことで知られる。

無欲でクリーン。そんな人柄が評判を呼び、安氏は韓国で「最も尊敬される企業家」「次世代アジアのリーダー」と称されるようになったばかりか、ついには大統領候補にまでなった。しかし、この安氏、国会議員はおろか、自治体首長、地方議員の経験もない。政治に関してはズブの素人だ。そんな安氏を、前出の特派員は「韓国の橋下徹」と評する。

韓国事情に詳しい、玄武岩(ヒョンムアン)北海道大学准教授がうなずく。

「確かに、ふたりが政界に登場したプロセスはよく似ています。日韓両国とも雇用不安、貧困や格差の拡大、財政破綻の懸念など、共通の悩みに直面している。なのに、既存の政党は古い利益誘導型の政治から脱却できず、改革も刷新もままならない。そのため、既存の政治に限界を感じた人々が新しいリーダーを熱烈に求めるようになった。そこに登場したのが日本では橋下大阪市長であり、韓国では安氏というわけです」

韓国ウオッチャーとして知られる、小針進静岡県立大学教授もこう言う。

「就職難、非正規雇用やニートの増加など、韓国の若者の不満や不安は年々大きくなっています。そういうなかで、安氏は昨年、『青春コンサート』という公開トークショーを各地で開き、若者に希望を語りかけてきた。また、政治的にギラギラしてなくて、既存の政治家とはまったく違う切り口で国の未来を語る。それが安氏への熱狂的な支持につながった。そうした点が第三極として登場し、既存の政治が打ち出せない改革を掲げ、支持を集める橋下さんとよく似ています」

既存政党に失望した国民が、まったく新しいリーダーを求める。そうした構図は、日本も韓国も変わらないようだ。

■週刊プレイボーイ42号「“韓国の橋下徹”安哲秀の大統領就任で日韓関係はどうなる!?」より