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どうしても好きになれないあの同僚。一緒に仕事をするだけで成果に影響を与えることだってある。でも、嫌いな人をコントロールしつつ平穏にやっていく方法、ちゃんとあるんです。

■職場で苦手な人を避け続けるのは非常に難しい

嫌いな同僚と一緒に仕事をしていると、余計なことに気をとられて消耗することがある。どんなタイプであれ、癇にさわる同僚はこちらの姿勢や成果に悪影響を及ぼすことがある。一緒に遂行しなければならない仕事に集中するどころか、その同僚の行動に対する自分のいら立ちを抑え込もうとして、時間とエネルギーを無駄にする羽目になるかもしれない。だが正しい戦術を使えば、耐えがたい同僚と、それでもなお生産的な関係を築くことができる。

好きになれない同僚と仕事をしている人は世の中に大勢おり、嫌いな同僚とどう付き合うかは、仕事上の悩みの代表的なものだ。スタンフォード大学経営科学・経営工学教授で、 『Good Boss,Bad Boss: How to Be the Best… and Learn From the Worst』の著者、ロバート・I・サットンによれば、これは人間であることの条件の一部なのだ。「親戚であれ、同じ電車に乗り合わせた人であれ、隣人であれ、同僚であれ、われわれがケンカするかもしれない相手はいつだっている」。そんな相手を避けるという方法は一般的には有効だが、職場ではいつも使えるとはかぎらない。

「職場では、否が応でも付き合わなければならない人間がいる」。そう指摘するのは、ラトガース大学「組織におけるEIに関する研究コンソーシアム」の共同会長で、『The Brain and Emotional Intelligence: New Insights』の著者、ダニエル・ゴールマンだ。これから先、隣の席の同僚にムカついたときは、次のアドバイスを思い出していただきたい。

■社内で愚痴を言うと自分に返ってくる

嫌いな同僚に対する反応は、ちょっとした不快感から完全な敵意までさまざまな形をとる。ゴールマンによれば、第一歩はそれを制御することだ。誰かをうっとうしいとか癇にさわると思ったら、その人物の行動より、むしろそれに対する自分の反応について考えてみるべきだと、彼は言う。自分の行動は自分でコントロールできるのではるかに生産的だ。そのために毎日リラックスできる何かを実践することを、ゴールマンは勧める。「ストレス対処能力が高まり、うっとうしい人間がさほどうっとうしく感じられなくなる」。

不快感を持ちながら仕事をしていても、他の同僚に愚痴をこぼしたいという衝動は抑えなければならない。誰かをウオータークーラーの陰に連れていって「ジェシカにはどこか好きになれないところがあるわ。あなたもそう思わない?」などと言ってはならないのだ。「人間はみな、自分の意見を誰かに追認してもらおうとする傾向を持っているが、その衝動は抑えなければならない」と、サットンは言う。「感情はとても伝染しやすいので、その衝動に流されたらみんなの士気を低下させることになりかねない」。

同僚の愚痴を言うと、自分自身にはね返ってくることがある。職業人としてなっていないという評判が立つかもしれないし、付き合いにくい人間というレッテルを貼られるかもしれない。ストレスを吐き出す必要があるときは、助けになってくれる人々を慎重に選ぼう。理想的なのは社外の人だ。

自分の反応を制御したら、自分はその人物の何が嫌いなのかを考えてみよう。相手が自分と違うのが気に食わないだけなのか。相手が自分の父親を連想させるのか。あのポジションには私がつきたかったのにと相手を妬んでいるのか……等々と自問するのである。

人間は妬みなどの負の感情のせいで、他者について間違った評価を下し、その人を不当に扱ってしまうことがある。「人が自分より成功していたら、われわれはその人を見下す傾向がある」と、サットンは言う。

人間は自分と異なる点を持つ相手に偏見を抱くこともある。

「われわれが世界で一番好きな人間は自分自身だ。人が自分と違っていればいるほど、われわれがその人に対して否定的な感情を持つ可能性は高くなる」。相手の人格的特質ではなく、自分をイライラさせる行動に注目しよう。これは単に嫌いなだけなのか、それとも偏見を持っているのかを見分ける助けになる。「相手は私をイライラさせる行動をとってはいるが、善良な人間だという仮定から出発しよう」と、サットンは言う。相手の何が自分をイライラさせるのかをもっとよく理解することで、その問題には自分にも責任があることがわかるかもしれない。「自分自身が問題の一部であると想定するのは理にかなったことだ」と、サットンは言う。自分にも責任の一端があることを認めよう。そしてパターンを見つけ出そう。「自分の行く先々に必ず嫌いな人間がいるとしたら、それは悪い兆候だ」と、サットンは言い添えている。

■あえて一緒に仕事をする手もある

「嫌いな相手を好きになる最善の方法の一つは、協調が必要なプロジェクトで一緒に仕事をすることだ」と、サットンは言う。これは、その人物のそばにはできるだけ近寄りたくないという気持ちと相いれないアドバイスに思えるかもしれない。

だが、一緒に仕事をすることで、その同僚をもっとよく理解でき、なんらかの共感を持つようになることさえある。「いら立ちではなく同情を感じるようになるかもしれない」と、ゴールマンは言う。相手の行動には理由があること(たとえば、家庭でのストレスや上司からのプレッシャー)や、相手はこちらが頼んだことをやろうとしたが失敗したのだということに気づくかもしれない。嫌いな相手と長く一緒に過ごしていると、より前向きな経験をする機会に出合うこともある。だが、このアドバイスには重要な例外があることを思い出していただきたい。「相手が自分の道徳観を踏みにじるような人間の場合は、逃げ出すのは悪い戦略ではない」と、サットンは述べている。

■相手に意見を言って改善するケース、危険なケース

ここまでのアドバイスが一つも奏功しなかった場合には、なんらかの意見を与えることを検討してもよいだろう。こちらをイライラさせるものが何であれ、それはその同僚の職業人としての前進を何度も阻むことになるものでもある。

「自分が人にどう思われているかをその同僚が知っていると決めつけてはならない」と、サットンは言う。あらゆる点について相手を罵倒してはならない。相手がコントロールできる行動に的を絞って、それがこちらの集中力や、ともに取り組んでいる仕事にどのような影響を及ぼしているかを説明しよう。こちらの所見を慎重に伝えれば、相手が自己認識を深め、職場でより有用な人材になる手助けをすることになるかもしれない。

だが、くれぐれも慎重に。意見を言うべきか否かは「こちらがどれほど巧みなコミュニケーターで、相手がどれほど受容力のある人間かによる」と、ゴールマンは言う。その同僚が人の意見に耳を傾けるタイプだと思われ、仕事に絞った節度ある会話ができるという自信が自分にある場合は、やんわりとフィードバックを与えよう。だが、同僚が逆上したり根に持ったりするタイプかもしれない場合は、リスクをおかしてはならない。「相手があなたの意見を個人攻撃と受け取って、問題がエスカレートする危険性がある」と、ゴールマンは言う。自分自身も人からの意見に耳を傾ける必要がある。こちらが同僚を嫌いなときは、相手もこちらを嫌っている可能性が高いのだ。

すべてがお手上げの状況なら、「感情にとらわれないという技を実践しよう」と、サットンは勧めている。「その同僚が苦痛を与える存在であっても、自分が苦痛を感じなければ、なんの問題もない」と、ゴールマンは説く。このような認知の枠組み変換は、自分にはほとんど、もしくはまったく制御できない状況では効果的な場合がある。

(エイミー・ギャロ=文 ディプロマット=翻訳 Getty Images=写真)