1990年代に横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)に在籍し、現在は指定暴力団稲川会系組幹部の山根善伸容疑者が詐欺の容疑で逮捕された。死亡した同級生の妻から計300万円を騙し取った疑いで、山根容疑者も容疑を認めている。

 山根容疑者は1991年のドラフト7位で、捕手として当時の横浜大洋ホエールズに入団。1軍の捕手には谷繁元信秋元宏作がおり、33試合の出場に留まり、1998年に戦力外になった。容疑者は、2005年にも売春防止法違反で逮捕されている。

 現役、OB選手に限らず、球界関係者の逮捕には、多くのファンが心を痛めている。先日も、福岡ソフトバンクホークスの捕手、堂上隼人強制わいせつの疑いで逮捕された。

 なぜスポーツ選手が犯罪に手を染めるのか。もちろん、容疑者が偶然スポーツ選手だったという見方もできる。だが、プロスポーツ界の環境が犯罪を助長させている可能性も否定できない

 ジェフ・ベネディクト著「スポーツ・ヒーローと性犯罪」(大修館書店)は、タイトルどおり、米国プロスポーツ界の性犯罪の記録と、選手や球団、クラブ、リーグの対応などについて紹介している。性犯罪に特化しているが、なぜアスリートが道を踏み外してしまうのか、その背景を垣間見ることができる。

 元ヘビー級ボクサーのマイク・タイソン強姦容疑で訴追したグレッグ・ギャリソン検事は、一流アスリートが犯罪に走るのは、彼らの名声生い立ちに原因があると指摘している。
 「金持ちになって、女性を大勢手に入れるためにスポーツを始めたとしたら、(それが適ったとたん)全く道を見失ってしまうことになる」と言う。

 アメリカンフットボールNFLミネソタ・バイキングスで社長を務めていたロジャー・ヘドリック氏は、プロになったことでの環境の変化と、その適応力を指摘している。
 プロスポーツ選手の中には、アマチュア時代から、周囲から手厚い保護を受けてきた選手が少なくない。学校は学費から日々の勉学、クラブ活動に至るまで、選手を支援。有名になればエージェントが付き、将来のプロ入り、高額の契約金が約束される。欲しいものは何でも手に入る。
 だが、プロになるということは、自立するということでもある。これまで周囲に支えられてきたが、今度は自分の足で歩かなくてはならない。そしてアスリートの中には、自立ができない者もいる。
 ヘドリック氏は、「生まれてこのかた22年、全てのものは彼(アスリート)に与えられてきたんです。それを考えると、これ(プロ入り)は環境の大変化です。適応する者もいるし、全くできない者もいる。まだ未熟だし、そんなに教育があるわけでもない。目を見張るほど賢い人間じゃないってことですよ。それでもいきなり彼らは皆の注目の的になって、大部分の人が首を傾げるようなことを言ったりする。彼らは、そういう場に適応する術を知らないんですよ」と言う。

 著書のベネディクト氏は、選手が所属する球団やクラブの非を指摘している。球団やクラブは、ファンの財布の紐が緩むことを期待し、問題のある選手を担ぐ。
 著書「スポーツ・ヒーローと性犯罪」では、選手の容疑を組織的にもみ消そうとしたクラブ、大学を取り上げている。その様子は、われわれ一般社会からは、常軌を逸しているとしか言いようがない。

 もちろん、全てのアスリートが犯罪の予備軍になっているわけではない。環境の変化に適応し、健全な生活を送っている選手、OBの方が、そうでない者よりも圧倒的に多い。
 だが、アスリートが社会に与える影響は大きい。アマチュア選手に悪影響を与え、スポーツが持つブランド力も失墜する。

 もう大人なんだからと、球団やクラブ、リーグが選手の自主性に任せっきりにするのは、ときに責任の放棄になりかねない。OB選手はともかく、現役選手については、選手の自主性を尊重しつつも、しっかりとした対応が必要だ。