私は、子どもの頃から真田広之さんのファンで、彼が国際的な俳優として活躍するようになって、大変うれしく思っています。数年前、真田さんが名優アンソニー・ホプキンスと共演し、彼のパートナー役を演じると聞いたとき、期待に胸が高鳴りました。

 その映画、「最終目的地」がようやく日本で公開されることになりました。ピーター・キャメロンの同名小説を原作とした本作の監督は、「眺めのいい部屋」「日の名残り」といった数々の傑作を生み出してきたジェームズ・アイヴォリーです。


 ウルグアイにある人里離れた屋敷“オチョ・リオス”に、著書を1冊のみ残して自殺した作家ユルス・グントの未亡人キャロライン(ローラ・リニー)、彼の愛人アーデン(シャルロット・ゲンズブール)とその娘、作家の兄アダム(アンソニー・ホプキンス)とゲイのパートナーであるピート(真田広之)が、人生を断念したかのように、まるで漂うように暮らしていました。



 そこへ、グントの伝記執筆の公認を得るために、コロラド大学文学科の若き教員オマー(オマー・メトワリー)が訪ねてきます。彼は、研究奨励金の認可を取得するために、遺言執行者であるキャロライン、アーデン、アダムの3人の許可を必要としていましたが、公認却下の手紙を受け取っていたのです。強気な恋人ディアドラ(アレクサンドラ・マリア・ララ)から直接交渉するよう促されたオマーは、勇気を出して“オチョ・リオス”へ旅立ちました。


 オマーを出迎えたアーデンは、突然の訪問者にとまどいながらも、彼にときめきを感じてしまいます。オマーも、同い年で考え方が似ているアーデンに、ディアドラにはない安らぎを覚えます。アーデンは彼と一緒に過ごすうちに考えを変え、公認を与えることに。

 そんな中、あっさりとオマーに公認を与えるアダム。その代わりに、25年もの間連れ添ってきたピートを自由にするための協力をオマーに持ち掛けます。でも、ピートはアダムから離れる人生など望んでいませんでした。

 一方、プライドが高く意固地なキャロラインは、断固として公認を拒みます。「グントは伝記を望んでいなかった」と主張するキャロライン。実は、グントは2作目を執筆しており、その内容には彼女の心をざわつかせるものがあったのです。


 そして、ある事件が起き、ディアドラもウルグアイにやって来ます。引かれ合うオマーとアーデンの気持ちの行方、アダムとピートの関係、そしてキャロラインが拒む伝記の公認は……?

 世間から孤立して、朽ちかけた邸宅で、奇妙な共同生活を営むアダムたち。突然のオマーの出現によって、止まっていた彼らの運命が動き出し、それぞれが人生の“最終目的地”を模索し始めます。

 アイヴォリー作品の顔とも言えるアンソニー・ホプキンスが演じる穏やかなアダムは、オマーが来たことをきっかけに、愛するピートのために、彼を手放そうとしますが、ピートはずっとアダムと一緒にいたいと願っており、そこに小さな波紋が生じます。真田さんの繊細な演技に目を奪われました。

 グント亡き後、誰かを愛し、愛されることに憶病になっているアーデンと、常にディアドラの尻に敷かれてきた感じのオマーとの“運命的なロマンス”が本作の鍵になっているのが魅力的です。


 美しい情景の中に漂う退廃的な雰囲気と、ウィットにあふれた描写に引き込まれ、心を揺さぶられつつ、心地いい気持にさせてくれる本作。みなさんも、アイヴォリー監督の世界観に酔いしれてみませんか?

「ジェームズ・アイヴォリー監督の名作映画」DVD紹介

「日の名残り」


 カズオ・イシグロのベストセラー小説をアイヴォリー監督が映像化した珠玉の名作。1958年、ダーリントン邸の老執事スティーブンス(アンソニー・ホプキンス)は、以前、屋敷で一緒に働いていたミス・ケントン(エマ・トンプソン)からの手紙を受け取る。懐かしさでいっぱいになるスティーブンスの胸に、20年前の思い出がよみがえる。当時、主人に対して常に忠実なスティーブンスと、勝気なケントンはよく衝突し、仕事上の対立を繰り返していた。2人には互いへの思慕の情が少しずつ芽生えていたのだが、仕事を最優先するスティーブンスはその気持ちに気づかなかった。そんな中、ケントンに結婚話が持ち上がり、スティーブンスは激しく動揺するが……。

1993年/イギリス/アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/DVDコレクターズ・エディション1480円/発売中
「上海の伯爵夫人」


 真田広之が初参加したアイヴォリー監督作。カズオ・イシグロがオリジナル脚本を書き下ろした。1936年の上海。列強各国の思惑が入り乱れる中、暴力によって愛する家族と視力を失った元外交官のアメリカ人ジャクソン(レイフ・ファインズ)は、激動の地で世捨て人のように生きてきた。そんな彼は、ロシア革命によって亡命を余儀なくされた美しい未亡人ソフィア(ナターシャ・リチャードソン)と、歴史の舞台裏で暗躍する謎の日本人マツダ(真田広之)と出会う。それを機にジャクソンは、夢のバー“白い伯爵夫人(ホワイト・カウンテス)”をオープンさせ、ソフィアを“店の華”として招き入れる。だが、日本軍による上海侵攻が始まり、“白い伯爵夫人”にも戦火が迫ってくる。

2005年/イギリス、アメリカ、ドイツ、中国/レイフ・ファインズ、ナターシャ・リチャードソン、真田広之
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン/DVDスペシャル・コレクターズ・エディション4179円/発売中