ゼロから旅を生み出し、思い出を提供していく

ビジネスパーソン研究FILE Vol.187

近畿日本ツーリスト株式会社 井原優さん

オリンピックツアー企画など、団体旅行を担当する井原さん


■団体旅行の法人営業担当に。難しさを実感しながら、お客さまに寄り添う営業スタイルを確立

井原さんが旅行会社の仕事を選んだのは、「世界各地へのツアーを通じて大好きなスポーツに携わっていくことができる」と感じたからだという。入社後、約2週間の研修を受けた後に埼玉の団体旅行支店に配属され、法人営業の担当となった。
「最初の3カ月間はOJTで仕事の流れを学びました。旅行の提案を行う営業活動以外に、ホテルや交通機関などを手配する部署に回す細かい手配書を書くなどの事務作業がついて回ることを知りました。お客さまや関連部署にひとつずつ丁寧に確認しなくてはならない事項も多く、小さなミスも許されない。学生時代には旅行に行く側だったので『旅は楽しいから、旅行会社の仕事は花形』と思い込んでいたけれど、実際の仕事では、裏方としての地味な作業を積み重ねていくものなのだと実感。また、先輩のお客さまの旅行に同行し、サブ添乗員としての業務も経験しましたが、僕はもともと人見知りで、人前に出て話しをすることが苦手だったので、『自分にメインの添乗員が務まるのかな』という不安も感じました」

その後、独り立ちし、新規案件獲得のための提案営業を担当することに。
「先輩から引き継いだ担当先もいくつかありましたが、メインは新規案件の獲得。どの業界のどの会社にアプローチするかを自分で決めることができるので、福利厚生として社員旅行に行っている企業を調べたり、『専門学校なら研修旅行、病院なら院内旅行があるのでは』などの仮説を立てたりしながら、毎日のように外に出て飛び込みでの営業活動を続けました。最初は緊張したし、何を聞けばいいのかもわからなかったので、とにかくOJTで習った流れの通り、しっかり丁寧に話をしようと思いました」

先輩の手を借りて初の契約を獲得した際には、自分でツアーを組むことの難しさを痛感したという。
「30名の社員旅行で温泉地に行きたいというお客さまで、見積もりと旅程表を作成し提案しました。もともと自分でも仲間内での旅行を企画することは多かったけれど、自分が行くのとお客さまのツアーを組むこととはまったく違う。相手の立場になって、何を求めていて、どんな経験をしたいのかを考え、どこまでやれば喜んでもらえるのかが見えず、難しかったですね。とにかく幹事の方から悩みや要望を聞き、参加者の男女比や年齢層も考えたうえで、交通ルートから温泉の効能、現地の観光施設にどんなものがあるかまで検討し、ひとつずつ提案と確認をしながら形にしていきました。流れについていくだけで精一杯でした」

競合他社も多く、企画内容はもちろん、料金でも勝負しなくてはならないシビアな世界。そのうえ、旅というものには信頼関係が重要なため、長年の付き合いを続けてきた旅行会社から変更してもらうこと自体が難しかったという。
「何度も通いながら少しずつ悩みや不安を引き出し、それを改善して翌年の提案に生かそうと考えました。最初の1年目はじっくりと種をまこうと考えたおかげで、2年目からはどんどん芽が出てきました。ある塾では、毎年1000名が参加する夏合宿を実施していましたが、何度も通ううちにツアー開催地そのものに悩みがあることを知りました。そこで、翌年に要望を満たすような別の場所を提案したところ、『井原さんにお願いします』と言ってくださった! 先輩から引き継いだ仕事ではなく、自分流に新しい仕事を積み重ねたことが評価されたのだと感じ、すごくうれしかったですね。自分の営業スタイルを確立できたのはこの時期だったと思います」

ツアーを手がけていく中で、イレギュラーな事態に対応する難しさも実感。しかし入社3年目のころには、そこにやりがいも感じるようになっていったという。
「韓国の済州島に行く60名のツアーを実施した際、台風の影響で現地への飛行機が飛ばないという事態が起きたんです。この旅行は、年に一度の社員の交流を深め、頑張ってきた社員をねぎらうためのもの。お客さま側にキャンセル料は発生しないからといって、年に一度の機会にがっかりさせるわけにはいかないと思いました。トラブルの中でも精一杯楽しんでもらうための方法を考え、飛行機をソウルに行く便に振り替えて、ソウル観光を楽しんでから翌日に済州島に向かうという旅程へと組み直しました。60名分もの現地の宿や交通機関まで手配していくことは難しかったけれど、僕はあきらめが悪いタイプで、どんな時にも『NO』とは言いたくなかった。思いつく限りの手段を考えて、最大限に楽しませる方法を探した結果、お客さまから『あの時、もう行けないだろうとあきらめていたけれど、楽しい思い出をつくることができた。ありがとう』との言葉を頂くことができました。『あきらめないで良かった』と心から思いました!」


■マラソン選手の応援ツアーを企画し、ゼロから仕事を生み出すやりがいを実感

お客さまの悩みを引き出し、それを解決し、より満足できる提案へとつなげる。井原さんの営業スタイルは次第に結果へとつながり、新規案件獲得数がどんどん増え、入社5年目で本部長表彰を受けることになった。
「お客さまに言われたことをしっかりと提案に落とし込むよう心がけ、地道なセールスを続けた結果、それを形にすることができたと感じました。自分の仕事への責任感も芽生えていきました。とはいえ、自分のやっていることは、裏を返せば『言われたことをやっているだけ』だったんですよ。もともとお客さまが実施していたツアーを書き換えているだけで、入社当初にやりたいと思っていたスポーツ関連の提案はできていなかった。まだ自分の仕事に自信を持てたとは言えない時期でした」

その後、2011年に井原さんはチーフとしての役割を担うようになる。チーム全体の数字を管理することで、新たな責任感と自立の意識が芽生えたという。
「今までとは違い、ゼロから仕事を生み出すことにチャレンジしていこうと思いました。ちょうどそのころ、東京マラソンが開催されて、参加者の中に埼玉で公務員として働きながら頑張っている選手がいることを知ったんです。日本人の中で2位という、素晴らしい結果を出してゴールした瞬間に心から感動しました。半年後に韓国で開催される世界陸上に内定したと聞き、『ぜひ応援ツアーをやりたい!』という衝動に突き動かされ、すぐ行動に移しました! 」

思い立ったら即行動! 井原さんは家族や関係者を連れていく応援ツアーを提案するため、さっそくコンタクトを取り、熱い思いをぶつけた結果、仕事へとつなげることができたという。
「現地に出向いてマラソンルートを視察し、どの場所なら応援の声が届きやすいかまで考えて応援場所を設定したり、万全の応援体制を整えてもらうためにレースの前に応援場所を見に行く予定を組んだり、さらには国旗に寄せ書きしてもらって最後に選手にプレゼントするイベントを考えたりしました。自分がゼロから生み出したこのツアーで、多くの人に出会い、最後には『素晴らしい思い出をありがとう!』と言ってもらうことができた。行動して良かったと思いました! この時、世の中のすべてのものがツアーになり得る、インスピレーションと行動力さえあれば、自分でビジネスをつくっていけるんだという手応えを感じました」

そこからの井原さんは、スポーツにかかわり、感動を与えてくれる選手たちを応援していくツアーを積極的に組むようになる。2012年開催のオリンピックのツアーも多く手がけた。
「お客さまと想いを共有でき、感動の場に立ち会えるんですから、これ以上の醍醐味はないです! そして、『ありがとう』という感謝の言葉を頂く瞬間にはもっと大きなやりがいがあります。お客さまからのサプライズで寄せ書きをもらったりすることもあって、うれしかったですね。旅行というものは、目的地へ行くための手段ではありますが、お客さまにとってはそれだけではない。僕らの提案する旅行を通して、お客さまが感動したり、悩みを解決したり、それぞれの目的を達成することができる。旅行を素晴らしい経験とするためのお手伝いをしていきたいと強く思うようになりました」

2012年、井原さんは課長職に昇進し、自身を含めた4名のチームをまとめていく立場になる。
「マネジメントにおいて意識していることは、自らが行動し、成功事例を見せること。背中を見せることで、後輩が自分自身に置き換えて何をしなくてはならないのかを考える習慣をつけ、自立できるよう指導をしています。もちろん基本的な業務の流れは教えますし、悩みがあれば一緒に悩みヒントを与えますが、先回りして口出ししすぎず『我慢して待つこと』で『自分を作る時』を与えてあげられるよう心がけています」

現在の井原さんは、大学機関のビジネスプログラムにおける企画も手がけるなど、新たなビジネスの創造を続けている。
「ある女子大に観光学科ができたので、より有意義に旅行会社の仕事を学べるビジネスプログラムを企画しようと考えました。その女子大の観光学科では授業の一環としてインターンシップ参加が必須のため、弊社でのプログラムを提案。これまでもスタンプを押すなどの簡単な事務作業を体験することは可能でしたが、もっと旅行業界を味わえるものをつくろうと考え、旅行の情報誌をつくるプログラムを企画しました。学生に各地の観光資源や取材する内容まで考えてもらい、自ら誌面にも登場してもらうなど、旅行の本質を楽しく学べる内容にしました」

井原さんは常にアンテナ感度を高くし、どこに困りごとがあるか、もっとこう変えたらいいことはないかを発見していくように心がけているという。
「お客さまにとって、楽しかった旅行の思い出というものは『人生の最後に思い出す宝物』となり得るもの。宿や観光地など、一つひとつの場所が大切な思い出となることを忘れることなく、すべてに手を抜かず、ベストの提案をしていきたいですね。今後もオリンピックなどのスポーツイベントから、専門学校の実施する研修旅行まで、ひとつずつ大切に携わっていこうと思いますし、多くの人と出会い、さまざまな考え方や新たな文化に触れる喜びを味わうことで、自分自身も成長し続けていくことができると感じています。まずは、2014年にブラジル開催のワールドカップの応援ツアーを開催することを目標に頑張っていきたいと思います!」