法律によって借金の支払義務を免れる「自己破産」を裁判所に申請する人は、2007年には年間15万人にものぼり、現在でも10万人を超えるという。

ある会社では社員の自己破産が明らかになった。仕事が「お金を扱う部署」だったことから、そのままの仕事に就かせることは難しいと部長から申し出があり、人事が頭を悩ませている。


経理部長「うちの部署には置いておけないよ」


――製造業の人事担当です。先日、30代の経理部員のA君が自己破産していたことが発覚しました。社内で噂が立っていたので呼び出して聞いてみたところ、しぶしぶ認めたというわけです。


彼は以前から株やFXなどを盛んにやり、資産を増やしていることは耳にしていました。大きな儲けを出してクルマや時計などを新調したときは、社内の話題にもなりました。


それが、昨年あたりから運用がうまく行かなくなり、損を取り返すために複数の消費者金融に借金をして泥沼化。一気に状況が厳しくなってしまったようです。経理部長は、


「自己破産した人間は、うちの部署には置いておけないよ。お金を扱う部署だからね。欲に目がくらんだら取り返しのつかないことになってしまう」

と人事部に申し立ててきます。


以前から羽振りのよかったA君を快く思っていなかった同僚たちからは、


「社員が自己破産って、会社のイメージダウンじゃない?」

「カネのことばっかり考えて、仕事をおろそかにしてたんじゃないか」

「今後のことも不安だしね。懲戒解雇でも仕方ないでしょう」

などの声すらあがっています。しかし、就業規則の懲戒規定や解雇規定には明確に該当しそうな個所もなく…。こんなとき、どう対処したらいいのでしょうか――


社会保険労務士・野崎大輔の視点

社員が自己破産しても解雇は難しいだろう


自己破産とは私生活上の問題であり、会社が管理すべき範囲のことではありません。普通に勤務している限り、A君を解雇することは困難です。判例には、ある信託銀行が自己破産した行員を解雇したことを有効としたものがありますが、よく見ると特に信用が重視される業務であったことや、他の問題行為などを総合的に判断したもののようです。


自己破産によって警備員や宅建業者、証券外務員などは資格制限を受け、会社の取締役への委任も終了します。しかし数か月間で破産手続きを終えて復権すれば資格制限等もなくなるので、解雇は難しいでしょう。今回は製造業の経理部員ですので、会社としては適性を疑いたくなるでしょうが、現実的には金銭を取り扱わない部署へ異動させる対応が適切だと思います。なお、一般的には株やFXといった資産運用は副業としていないケースが多いようですが、社員のトラブルが目に余るようであれば、副業禁止規定の見直しも必要ではないでしょうか。


臨床心理士・尾崎健一の視点

プライベートのことでも相談しやすいしくみを


自己破産の原因は、財テクやギャンブル以外に、親の借金が自分に降りかかってきたような場合もあります。そういうことに巻き込まれた不運な人の中には、破産処理を進めながら真面目に会社に勤務する人もいます。仕事がなければ処理が遅れるわけですから、会社は安易に退職勧奨などをすべきではないと思います。


今回は人事が聴き取りをしたようですが、本来なら直属の上司がA君の様子の変化を見逃さないようにすべきでした。社員がプライベートなことでも相談でき、秘密が守られるルートがあると理想です。社員がお金に困ることもありうるわけですから、会社はあらかじめ「自己破産では解雇にならない」ことを知らせつつ、万が一の場合には低利で緊急融資する手段などを準備しておいてはいかがでしょうか。古きよき時代の日本の会社では有形無形に見られたものですが、もしこうした体制やしくみがあれば、A君が自己破産する前に取り得た対処があったかもしれません。






(本コラムについて)

臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。