日進月歩と言える現在の医学。数百年前では難病とされていたものが、いまでは手術を行わずに、投薬によって治療することが可能になりました。

 しかし、どんな手術や薬でも、患者に試す前には必ず人体実験を行なっているといえます。今では正しい順番で手術や薬は開発され、安全を確保したなかで人体実験を行います。しかし、数百年前の科学者たちは、そういったシステムがないので、自分の体で試すしかありませんでした。

 科学者の性分として、「自説が正しければ、この実験を敢行しても命の危険はないはずだ」と信じているので、自己実験に踏み切ることができたのです。

 例えば、「淋病が進行すると梅毒に移行する」という自説を証明したいと思った18世紀のイギリスの科学者は、淋病患者の膿を自分の性器に塗りつけました。また、「白血病が人から人に感染するかどうか」を確かめたいと思ったアメリカの医師は、白血病患者の血を自分に注射したのです。

 私たちには考えられないような思い切った行動ですが、その勇気があったからこそ現在の医学があるのです。書籍『世にも奇妙な人体実験の歴史』では、この他にも、「コレラ菌などない!」と断言(注:大間違い)し、コレラ菌入りの水を飲み干した者や、黄熱病患者の「黒いゲロ」を自分の血管に注射した者、犬で試したら死んでしまったにも関わらず、カテーテルを自分で自分の心臓に通した者、自分の呼吸を麻酔で停止させて人口呼吸法を開発した者と、科学者たちの驚愕の行動が紹介されています。

 彼らを動かした動機は何なのでしょう。

 同書の訳者あとがきでは、「使命感よりもさらに深いところで彼らを自己実験に向かわせたものは、純粋な探求心(好奇心)だったのではないだろうか。(略)そこからは、『人体の限界を知りたい』という彼らの強い好奇心が感じられるのである」と、まとめられています。

 こういった医学に貢献した勇敢な自己実験者たちの多くは、それに相当した賞賛を受けていませんし、名前も知られていません。そんな彼らのことを思いながら薬を飲むと、「これは効くはず!」と、気持ちが前向きになるのではないでしょうか。



『世にも奇妙な人体実験の歴史』
 著者:トレヴァー・ノートン
 出版社:文藝春秋
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