丸紅社長
朝田照男氏

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丸紅社長 朝田照男(あさだ・てるお)
1948年、東京生まれ。72年慶應義塾大学法学部卒業後、丸紅入社。一貫して財務畑を歩み、常務執行役員、専務執行役員を経て、08年から現職。
「GEのイメルトCEOと会ったが、彼も非常にポジティブな人だったよ」

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■30分ずつ3件の面談をまとめて設定

もともと細かいスケジュール管理はしないほうです。2004年に常務になる前は、卓上の日めくり型カレンダーに予定を書きつけるくらいで、特に手帳を持ち歩いたりはしませんでした。記憶力に自信があったからですが、逆にいうと、仕事の守備範囲がさほどは広くなかったのでしょう。

ところが常務となり、経営会議メンバーに入ると事情が一変しました。自分の専門分野以外も見なければならないうえ、このころから、記憶力にもいささか不安を覚えるようになりました(笑)。そこで、次のような4種の手帳やメモを使い始めたのです。

基本になるのは、B4判の卓上ダイアリーです。ここに私自身か秘書がシャープペンシルで予定を書き入れます。

一方、休日に翌週や翌々週の予定を確認するときのために、会社支給のハンディな手帳(通称「丸紅手帳」)を持ち歩いています。こちらには卓上ダイアリーから重要な予定を転記し、余白にはポイントについてのコメントを書き加えます。

スケジュール関連ではもう1種、A4の紙にプリントアウトした1週間分の詳細な行動予定表を使っています。卓上ダイアリーをもとに、秘書がPCに入力したものがベースですが、この紙は自宅へ持ち帰ります。自宅でスケジュールを確認することもできるし、家族が出張の予定などを把握するためにも便利です。

予定の作成は、基本的には秘書に頼みます。その際、注文しているのは「面談は2〜3件まとめて、間を空けずに入れてほしい」ということ。困るのは、たとえば8時半から9時までの面談のあと、20分時間を空けてから次の面談を入れるようなやり方です。これでは面談も空き時間も細切れになり、自分の頭の整理がつきません。

そこで30分ずつ3件の面談を続けて設定し、その後30〜40分、できれば1時間弱の休憩時間を設けてほしいと頼んでいます。自分だけのまとまった時間を持つことで、直近の面談で話題に上がった事柄や、次の面談で話す件について思案することができるからです。

メモ用に使っているのが、罫線以外は何もない、まっさらなB6判のリング式ノートです。ここへは思いついたこと、見聞きしたことを書きとめます。

このノートの役割は大きく分けて2つあります。第一は「こういう形で経営をしていきたい」という考えをまとめるためのアイデア帳です。自分で思いついたことや、取引先の経営者との会合などで耳にはさんだことを書きつけます。

発想したことや見聞きしたことは、当日のうちにノートにまとめ、必要ならば翌日には担当部署との間でそのテーマについて話し合うようにしています。たとえば化学品業界の社長から業界の動きを聞いて、「これはぜひ、うちの営業に話しておきたい」と判断した事柄はメモをとり、翌日、担当役員を呼んで話します。

第二は、「面談録」としての役割です。経営会議や部門長会議などの大きな会議では議題用の資料が用意されますから、必ずそこにメモをします。しかし一対一の会合にはそのような資料はないので、このノートに記録を残すのです。

たとえば、「某月某日、X部門長と面談。彼はこういう考え方でビジネスを進めている。次の展開は以下のとおり」と記入します。そして1〜2カ月後(場合によってはもっと早めに)、当人と再び面談をする。そのときは、このノートの内容をもとに、その後の状況について話を聞くのです。

■メールを打つのは相手が不在のときだけ

そもそも、私は相手と直接顔を合わせて対話をすることがなによりも大事だと考えています。仕事上、常に接しているのは執行役員である部門長や部長ですが、彼らとの意思疎通に電子メールを使うことはほとんどありません。用事があれば本人や秘書に直接電話をかけ、社長室へ来てもらってフェース・トゥ・フェースで話をします。

メールを打つのは、相手が本社に在席していないときだけです。彼らは出張先でも随時ブラックベリーやスマートフォンでメールをチェックしていますから、私がメールを出せば、1時間以内にレスポンスが返ってきます。

声の調子でメールではわからない情報が得られますから、小さな案件なら電話で済ませます。しかし、「この件は深く話をしておきたいな」と判断したら、必ず対面して話すようにしています。その際、私の問いに答えるときの仕草や顔つき、しゃべり方を見るのです。

たとえば、大きな契約で他社と競っているときには、担当の部門長や部長を呼んで、質問します。客先や競合の状況を推測すると、丸紅のポジションはどうか。お客様はどこまで丸紅に期待しているのか。この案件は本当に勝てるのか――。かなりしつこく聞きますよ(笑)。

すると、ときには「これは言葉とは違った何かが起きているな」「自信がないようだ。このビッド(入札)には勝てそうもないな」ということがわかるのです。

面談を重視するのは社内だけではありません。私はふだん、朝6時45分に出社し、早いときは7時半からミーティングを始めています。

このような早朝始業を習慣化したのは、執行役員財務部長だった03年からです。丸紅の財務状態は01〜02年に危機を迎えたものの、当時はすでに回復軌道に乗っていました。ところが欧米の格付け機関は逆に当社の格付けを引き下げ、そのことが755億円の優先株発行の重石になっていました。

逆風下で増資を達成するためには、それだけの説得材料を持って格付け機関や金融機関をまわり、彼らの理解を得なければなりません。だから8時半までに社内のミーティングを済ませ、彼らの始業時間である9時に間に合うように会社を出るようになりました。

考えてみれば、こういった動きは商社の仕事の基本です。会社から電話、メールをするだけで商売ができるはずはありません。あくまでもお客様と話をして、商売をとってくるのです。始業時間の9時から社内でミーティングをしていたら、そのぶんの時間が無駄になります。

時間だけの問題ではありません。初動を早くするということは、常にポジティブな心を持つということです。どんなに悪い環境にあっても、必ずその先にはバラ色の未来が待っているんだという明るい気持ちでいることが大事です。これは私自身の経営者としての自戒ですが、若い諸君にも、常に明るく、ポジティブな心を持っていてほしいと思います。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=構成 的野弘路=撮影)