契約社会フランスでのビジネスマネジメント

海外駐在員ライフ Vol.165

From France

契約社会のフランスでは非を認めたら負け?


■年間5週間の休暇が法律で定められている

はじめまして。ベンジャミンです。パリにある日本企業の現地法人で、営業に携わりつつ、現地スタッフ代表と連携してマネジメントにも参画しています。

同僚の大多数はフランス人なので、会議や電話・メール、現地スタッフとの会話といった日常業務の7割はフランス語で行います。また、現地採用の日本人スタッフや、顧客である日本企業の担当者とのコミュニケーションでは、日本語を使う場面も。ヨーロッパ本部のあるイギリスや、ほか世界各地の関係者とのやりとりでは、英語も必要になります。

フランスで現地スタッフと一緒に働いたり、マネジメントをする上で欠かせないのが、人事・労務に関する知識です。人事に関する制度や労働法は、1980年代のミッテラン大統領による社会党政権時代に確立されたものが現在も続いているわけですが、日本と比べると、労働者にとって非常に有利なように作られていると感じます。

例えば、フランスの会社の従業員は、法律で年間5週間の休暇を取得することが決められています。経営サイドには、従業員全員が計画的に休暇を取得できるようマネジメントすることが求められ、期間内に取得できない従業員がいると、極端なケースでは経営者が罰せられる、あるいは従業員から訴えられることもあるほど。また、週35時間以上の労働は認められていないため、それ以上の残業を命じた場合は、残業手当を払うか、累積した残業時間を休暇として与えるか、いずれかの方法で対応する必要があります。当社の場合、そもそも週35時間を超える就労時間を定めているため、その時点ですでに“残業”をしていることになり、その分の有給休暇を追加で取得するようにして調整しています。

休暇以外にも、病欠時の対応や、解雇の際の注意事項など、フランス特有の制度がたくさんあり、しかも複雑なため、他社の駐在員も皆、口をそろえて「対応が難しい」と言っています。そのためか、商社やメーカーなどのフランス駐在員は、同じ人が2度、3度と繰り返しフランス赴任となっていることが多いように思います。


■「非を認めたら負け」ゆえに必死で自己弁護

日常的なやりとりの中では、ここが契約社会であることを痛切に感じます。例えば、部下から提出された資料の中に、よく意味がわからないことがあったり、仕事で失敗や間違いが生じた場合、上司として「これはどういう意味かよくわからないので詳しく説明してほしい」「なぜ失敗したのか理由を教えてほしい」と尋ねるのは当然のことだと思うのですが、それらの質問に対して彼らは、「私は悪くない」「自分のせいではない」といったことばかり必死で主張してきます。私としては、決して彼らに責任を押し付けるつもりなどなく、ただ正しく状況を理解したいだけなのですが、彼らは自分が責められることを回避するために、全面的に防御姿勢で臨んでくるのです。

最初は、なぜそのような反応が返ってくるのか理解に苦しみましたが、フランスのような契約社会では、「非を認めたら負け」という思考回路が社会全体で共有されており、それが小さいころからの教育でしっかり身にしみついていることから、このような反応につながることがわかりました。日本のように、まずは謝るところからやりとりが始まる文化とは正反対なのです。したがって、何かの原因を追究する際も、あらかじめ「あなたのことを責めているわけではない」ということを明確にした上で質問するように心がけています。

自分の業務範囲についても同様。例えば、通常の業務以外のことを部下に頼んだところ、「その業務内容は自分の雇用契約の“Job Description”(職務内容)には含まれていないので、どうしてもやれというのなら、その追加業務分の給与アップをしてほしい」と言われたことが2度あります。「自分が断ったら、どうなるのだろう? 誰がやるのだろうか?」といったようなことはまったく考えないようです。2回とも、「そんなことを言うぐらいなら、あなたには頼まない」と依頼を撤回しましたが、相手も自分が正論を言っていると思っているので、特に気まずくなったりすることはありません。リーダー志向がある優秀なエリートは別として、彼らとは「新しい仕事に挑戦しようとする向上心」「自分の役割を果たそうとする責任感」、あるいは「上司の期待に応えようとする意欲」「上司に頼りにされる喜び」といった感情は、なかなか共有できないようです。こんなとき、やはり、日本でのビジネススタイルや常識をそのまま持ち込んでいては、ここでのビジネスマネジメントはうまくいかないことを痛感します。

次回は、フランスの人々の暮らしについてお話しします。