『ITAN』10号(講談社)

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 「このマンガがすごい! 2012」オンナ編で2位に選ばれた雲田はるこの『昭和元禄落語心中』(講談社)や阿仁谷ユイジの『テンペスト』(講談社)。さらに同じく「このマンガがすごい! 2012オンナ偏」の5位と「THE BEST MANGA 2012 このマンガを読め!」の3位に入賞した田中相のデビュー作『地上はポケットの中の庭』(講談社)など、マンガ好きなら誰もが知っているこれらの作品。実はすべて『ITAN』(講談社)という雑誌で連載されているのだ。しかしランキングを賑わせ人気作品を次々と生み出しているにもかかわらず、『ITAN』の存在を知る人はまだまだ少ない。いったい『ITAN』とはどういう雑誌なのか? 謎のマンガ雑誌『ITAN』のベールに覆われた魅力を探ってみた。

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 『ITAN』は2010年に創刊された季刊マンガ雑誌で、「商業誌と同人誌のいいとこどり」をうたっており、Twitterなどを活用して読者の声を活かした雑誌を作り上げている。『ITAN』という雑誌名もネット投票によって決められ、読者はネットのアンケートに答えることで外部編集者にもなれるのだ。

 『ITAN』の大きな特徴は、雲田はるこや阿仁谷ユイジ、びっけ、夏目ココロなど、もともとBL作家として活躍していた作家や同人系作家を積極的に起用している点だろう。しかも、「世界のはじっこを描き出す新しいコミック誌」をコンセプトに、他雑誌ではなかなかお目にかかれないような実験的な作品に挑戦している。たとえば、“ダメな子受け”の暖かい作品を得意としていた阿仁谷ユイジは男子が滅亡し、女性同士で恋愛したり卵子同士で妊娠するようになった未来を描く『テンペスト』でSFの世界を描いている。その中でたった1人の男である主人公はいわゆる“男の娘”として生きているのだが、この主人公はBLの受けキャラにも通じるかわいさや儚さを持ち合わせている。また、切なくて甘い話が多かったびっけは戦争をテーマにした『赤の世界』(講談社)。高校のサマースクールで生徒たちが錯乱状態に陥ることから始まるホラー風味の作品だ。一見真逆の組み合わせに思えるかもしれないが、作品の中に込められた人と人のつながりや温もりはびっけが得意とするものだし、高校生や赤い花など色香が漂う設定も魅力的。

 単なる女性向けマンガではくくれない個性的なこれらの作品だが、BLの持ち味を生かしながら描くことでまずは腐女子たちの興味を引くことに成功。たとえBL作品でなくても、腐女子の心をくすぐるポイント、萌えるツボを押さえているからこそ、萌えに敏感な腐女子層の人気もゲットできたのだ。

 さらに『ITAN』マンガがじわじわとヒットした要因には、『モテキ』(久保ミツロウ/講談社)の大ヒットによってサブカル系が再び注目を集めたことも関係しているのかもしれない。落語など今まであまり女性マンガの世界で注目されていなかった日本文化に目を付けたことで、自分なりの世界観やこだわりをもつサブカル女子の心も掴んだのだろう。

 SFや時代もの、ホラーからギャグストーリーまでいろんなマンガがごちゃまぜの雑誌だが、どれも作者の妄想がたっぷり詰まっている。少女マンガや女性マンガに飽きてしまったあなたも、『ITAN』からなら自分の妄想にピッタリの作品を見つけることができるかもしれない。

 そんな『ITAN』の10号が9月25日に発売され、さらに季刊誌だったものが11号からは偶数月発売の隔月刊誌になるようだ。せっかくなので、この機会に思い切り“妄想”の世界に浸ってみては?

(ダ・ヴィンチ電子ナビより)