『ザ・レイド』 (C) MMXI PT.MERANTAU FILMS
 秋の涼しさを拒むかのような熱い“体育会系”な映画を、MOVIE ENTER編集部が厳選してご紹介する「秋映画特集2012 -燃える!体育会系映画-」特集。第5回目にカルト映画のフジモトが選んだのは、インドネシア発のノンストップ・アクション『ザ・レイド』。上映時間102分のうち85分が暴力描写という、凄まじいアクション映画の魅力に迫る!

『ザ・レイド』

 舞台はインドネシアのジャカルタ。スラム街にある30階建ての高層ビルは、麻薬王タマと部下である多数のギャングが立てこもる、難攻不落のアジトだった。だがある日、ワヒュ警部補の手引きで、20人のSWATチームが奇襲計画を実行。その中には新人隊員・ラマの姿もあった。無事突入に成功したSWAT隊は、各フロアを制圧しながら順調に進む。しかし、実はこの作戦は麻薬王タマたちに筒抜けだった。ギャングの銃撃に次々と倒れる隊員たち。ビルの外からも狙撃され、外部との連絡も絶たれた彼らに残された道は、麻薬王タマの身柄を確保することのみ。かくして、生き残ったわずか数名のSWAT隊員と、無数のギャングたちの血で血を洗う凄惨な殺し合いが始まった。果たしてラマたちは生きてビルを出ることができるのだろうか…。(作品情報へ

アクションでストーリーを紡ぐ、前代未聞のバイオレンス映画

 この作品の構造は極めて単純。悪党の待ち受ける上階をただただ目指すというもの。そしてその間、SWATとギャングの凄惨な殺し合いがひたすらに続くのである。多くの人が「アクションばかりでストーリーがない」と思うかも知れない。しかしそうではないのが本作の(もう先に言い切ってしまうが)傑作たる所以なのである。前半は銃を持ったSWAT部隊と、無数のギャングによる銃撃戦がメイン。ただ、よくある特殊部隊ものとは違い、相手が丸腰だろうと容赦はしない。なぜなら彼らは、圧倒的多数を相手にした不利な状況で生き残らねばならないからだ。そのため、組み伏せたギャングの顔面に直接発砲したり、壁に投げつけた相手に何発も銃弾を打ち込んだりと残酷な描写が連続。もちろんギャング側も同様で、お互い躊躇なく殺し合う。さらに銃弾が尽きてからは、周りのあらゆる殺傷能力を持ったモノ(壁やドア、机や蛍光灯まで)を駆使し、えんえんと殺しあうのである。この際の極めて直接的な残酷描写は、日本の三池崇史・北野武両監督のそれを彷彿とさせるエゲツなさ。(ギャレス・エヴァンス監督もこの二人の影響を受けたと公言している。)彼らの“ただ生き残る”ことへの執念が、この残酷さによって見事に表現されているのである。中でも主人公のラマは“身重の妻のために生きて帰る”という、単純明快ながら、最も強い目的をもつキャラクター。彼が死線を乗り越え、先に進むたびに見ているこちらもエキサイトしてしまうのである。

 このように、麻薬王タマの下にたどり着くまでの道程は、ほぼ“アクションのみ”で表現さている。暴力が登場人物のセリフのような役割を果たしているのが、本作の大きな特徴なのである。途中、裏切りや兄弟愛、仲間の死などいくつかエピソードがあるものの、それらのシーンも全てアクションシーン。本作は、ストーリーがないのではなく、アクション自体がストーリーになっている前代未聞のバイオレンス映画なのである。いつ誰が死ぬともわからぬ生々しさと緊迫した空気感は、一級のサスペンス映画にも負けないものであり、ラマと仲間がアクションで織り成す物語には、どんなドラマにも引けをとらない熱さがあるのだ。
 

閉鎖空間で最大限の強さを発揮する、シラットの極意を目撃せよ!

 このスリリングで、緊迫した空気を作りだしている最も大きな要因が、インドネシアの格闘技“シラット”を用いた殺陣の凄まじさだ。世界50カ国以上の軍で採用されている実戦格闘技“ローコンバット”の源流たる武術で、同じく超実戦的。ただ爽快なだけのアクション映画であれば、ほかの格闘技でもよかったはず。殺傷力の非常に高いムエタイや、華麗な足技が特徴のテコンドー、人間の肉体を凶器に変えることすらできる空手、極め技・打撃技すべてに対応する総合格闘技など、いくらでもあるのだ。

 だが、シラットは本作のような閉所でのガチンコの殺し合いに非常に適した、近接戦闘に特化した格闘技なのである。たとえば基本的にラマの攻撃には、いわゆる単純な“パンチ”はほとんどない。相手とはほぼ零距離の状態で繰り出すヒジ打ちや、首筋への手刀(チョップ)、関節や急所への蹴りが中心。また足払いで相手の体勢を崩し、倒れた相手の首に打撃を入れたり、ヘビのように首に腕を巻きつけ、後ろを取って攻撃する技など、実に多彩。また体勢を崩しても、そのまま寝た状態から攻撃を繰り出すなど、今までのアクション映画では見たことのない動きの連続である。また武器を用いた動きも凄まじい。単にナイフやナタを振り回すのではなく、首などの急所に突き立てたり、一度突き立てた刃物をそのまま引いて切り裂いたりと、とんでもなく残酷でかつ効率的。また、相手の武器を奪い取るのも朝飯前だ。

 このようなシラットの動きを最も堪能できるのが、ラマと十数名のギャング集団(やっぱりナタ常備)が、狭い廊下で闘うシーンである。ここでラマは片手にナイフ、片手にトンファーを装備。前述したシラットの技術を最大限に活かし、2人程度しか並べない閉鎖された空間で次々とギャングたちの息の根を止めるのである。他の格闘技ではそもそもこういった動きは持続できない上、本作のような尋常でないスピード感は再現できなかったろう。また、目の前を常に刃物が行き交う、異常な緊迫感は近接戦闘ならでは。

 実はこの“シラット”を本格的に活用した作品は、本作が初めてではない。同じくイコ・ウワイス主演、ギャレス・エヴァンス監督で作りあげた『ザ・タイガーキッド 旅立ちの鉄拳』がある。ただし、こちらは佳作ではあるが、シラットの特性をあまり活かしきれておらず『マッハ!!!!!!!!』と同じような印象を受けてしまう作品。しかし『ザ・レイド』につながる独創的なアクションや、シラット独特の動きは確認できるので、是非DVDでチェックしてほしい。

一番熱い、カロリー消費ポイントはココ!

 「102分のうち85分が暴力」という煽り文句は伊達ではなく、観ているだけで常にアドレナリンが出てしまう本作だが、その中でも最も熱いのが、主人公・ラマと、麻薬王の片腕・マッドドッグの死闘である。ラマを演じたイコ・ウワイスと、マッドドッグを演じたヤヤン・ルヒアンは本物のシラットの達人。特にこのマッドドッグの強さが尋常ではない。身長はかなり低く、ナインティナインの岡村隆史を彷彿とさせる顔つきなので、初めて見た方は「大丈夫かな…」と不安にもなるだろう。しかしこのマッドドッグは他のギャングと違い、素手でSWAT隊員たちをくびり殺していき、クライマックスの戦闘までにとんでもない強さを見せつけるのである。そして実は、クライマックスの対マッドドッグ戦は1対1ではない。2人の達人を相手に、マッドドッグが化け物のような強さを発揮するのである。シラットだけでなく関節技やプロレス技など、考えうる全ての技を駆使した、約6分間に渡るこの死闘はアクション映画史に残るベストバウトといっても過言ではない。

 絶え間ない暴力描写、シラットの凄まじさ、登場する達人たちの身体能力など、見所満載の本作ではあるが、それ以外にも、これまでのアクション映画のあらゆる要素が詰め込まれている。ジャッキー・チェン流のアイデア溢れるスタントや、日用品を利用したアクション。トニー・ジャーが火をつけた、リアルヒッティングを基本とするガチンコな振り付け。また、よく見てもなかなか分からないのだが、香港で常用されてきたワイヤーワークや、それをリアルに見せるCG技術も非常に巧く使っているのである。これだけの要素に、ストーリー性を持たせることができたのは、ギャレス・エヴァンス監督の力量あってこそ。子供の頃から、ジャッキーやサモ・ハン、ジェット・リーや果ては北村龍平監督の『VERSUS』にまで影響をうけたアクションオタクっぷり。その上、音楽にリンキン・パークのマイク・シノダを起用する、こんなとんでもないバランス感覚を持った監督は他にはいないだろう。似た系統のいわゆる“オタク”監督にはクエンティン・タランティーノなどが思い浮かぶが、エヴァンス監督のアクションに関するこだわりはタランティーノの比ではない。まさにアクション映画界に現れた、“オタクの新星”だ。

 本作は続編&ハリウッドリメイクがすでに決まっているとのこと。しかしあえて言うならば、ハリウッドリメイクは成功しないのではないだろうか。なぜなら、先に述べたイコ・ウワイス&ヤヤン・ルヒアンのキャスト、そしてギャレス・エヴァンス監督の奇跡的な組み合わせがあってこその作品だからだ。成功するとすれば、同じスタッフ・キャストで作り上げるセルフリメイクのみ。まさに唯一無二な作品がこの『ザ・レイド』なのである。これは『マッハ!!!!!!!!』以来、ここ四半世紀のアクション映画史において、最も大きな分岐点になる作品。今後のアクション映画は本作を超えることが目標となるだろう。アクション映画の歴史的金字塔となった本作は、是非映画館で味わってほしい。

『ザ・レイド』はシネマライズ・角川シネマ有楽町他 全国公開中



『ザ・レイド』 - 公式サイト

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カルト映画のフジモトの所見評価

【消費カロリー】板チョコ10枚ぶんくらい

【シラット最強度】★★★★★

【岡村隆史似なのに超コワイ度】★★★★★

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