自分もいつかは管理職に――。そう思って入社したものの、組織のフラット化や人件費削減などの名目で、管理職は狭き門に。その一方で、昇進した一握りの人からも「こんな仕事はとてもやってられない!」という声も上がる。ある執行役員は、管理職になりたがらない部下が急増していると嘆く。


「部下育成なんかしたくない!」と管理職昇進を拒否


――中堅商社の執行役員です。最近、管理職昇進を前に、部下の育成やマネジメントを嫌がって、昇進を拒否したり、専門職へのルート変更を希望したりする人が増えています。

また、昇進したものの、部下とのコミュニケーションが取れない管理職も増えています。たとえば、こんな管理職も・・・。

「部下にはまだまだ負けるわけには行かないので、ノウハウは教えられませんよ。自分の目標も課の目標も達成していますから問題ないと思いますけど」(部下をライバル視するプレイングマネージャー)

「部下の育成より、自分のお客さんのところに行く方が重要です。それとも目標を達成しなくていいのですか!? 彼らの売り上げが悪いから、私がカバーしているのです。他人の面倒まで見られません!」(部長に食ってかかる営業課長)

「最近は何を言ってもパワハラと言われるし、部下のプライベートをたずねると個人情報とか言われる。これでメンタルヘルス問題なんか起きて自分のせいにされたら堪らない。部下の育成なんかゴメンですよ!」(自信を喪失して投げ出す本社の新任課長)

営業主体の会社なので、管理職への昇進は、どうしても過去の個人業績の達成度によります。特に成果主義が導入されてからは、半期とか四半期とかの短期評価の積み重ねになってしまいます。

長期的には人材育成が重要であることはわかりますし、それを課長レベルにも理解して欲しいとは思っていますが、売上目標が達成できないことには会社も立ち行かなくなるので、どうしたらよいものかと弱っています――


社会保険労務士・野崎大輔の視点

「管理職の役割を認識している適任者を選ぶべき」


事業を中長期的に発展・維持させていくために、管理職には、部下に「短期的な成果」を上げさせつつ、「中長期的な成果」を上げられる人材育成や仕組みづくりをすることの両面が必要です。いずれが欠けてもダメです。


管理職には、このような役割を理解し、実現できる適任者を選ぶ必要があります。個人の営業能力と部下のマネジメントを行う能力とは、完全に一致しません。「名選手、名監督にあらず」というやつです。役割が違うのです。若いうちから数字の業績だけでなく、後輩の面倒などの人材育成も業績評価項目に入れておく必要があるでしょう。


悩ましいのは、営業系でも技術系でも、その仕事のポイントを全く知らない管理職には、部下はなかなかついてこないことです。しかし、マネジメントの基本は「他人を使って成果を出させること」。未知の問題が増える中、経験だけでは対処できません。現状のやり方をていねいに聴き取りし、的確に課題提起し、部下のモチベーションを上げる働きかけをすることなどは可能であるはずです。なお、管理職への昇進は業務命令なので、昇進拒否は懲戒処分となることもありえます。


臨床心理士・尾崎健一の視点

「部下から好かれるのが目的ではないと割り切る」


「ストレス耐性」は管理職に必須です。済んでしまったことはクヨクヨせず、将来のことを考えるべきです。同じような境遇のミドルと横の連携を取って、お互いの悩みを話し合う場を作るのも効果的です。


経験が少ないと、「部下に嫌われるのではないか」「恨まれるのではないか」と恐れて、言うべきことを言いにくいという管理職もいます。誰もが他人に嫌われたくないし、他人に厳しく当たりたくないものです。人間の心理としては当然のことですが、それでは成果を上げるための役割をまっとうできません。会社には、嫌われても言うべきことを言う役どころの人も必要です。


管理職になったら、部下を敵視する必要はないですが、最初から好かれようと思わないと決めてしまった方が賢明かもしれません。「部下から好かれるのが目的ではない」――そう考えると、本来の役割をまっとうするのに軸がブレませんし、仮に思い通りにいかなくてもストレスが溜まりにくくなるかもしれません。


(本コラムについて)

臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。