「『出会いがない』って言う若い女性がいるけれど、それは自分が体を張ってでも男を捕まえていないだけ」と語る橋本治氏

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社会に転がっている“おかしなこと”を取り上げ、ユーモアのある文章で告発し続ける作家・橋本治。ベストセラーになった新書『「わからない」という方法』や『上司は思いつきでものを言う』の批判精神を受け継ぐ最新刊が、本書『その未来はどうなの?』だ。テレビの未来やTPP問題、結婚詐欺事件まで、そのテーマはあらゆるものに及んでいる。

―そもそも、なぜこんなにいろんなことに疑問を持ったんですか?

「おととし、『やたらと疲れてすぐ眠くなる』という病気が発覚して以来、頭がパーになって世の中のことがわかんなくなったからですよ。入院中は久々に新聞も読んでみたけれど、まぁ、なんの情報も得られなかったよね」

―必要な情報が書かれていない?

「僕の頭がパーだからわかんなかった。というか、ムダな情報ばっかりなんですよ、新聞も雑誌も。読者はみんな、そこに書かれている意見をありがたがって読むけど、人の話の9割は不要。必要なのは1割の事実だけなの。その1割の事実の“調理法”を人任せにせず、自分で料理すべきですね」

―この本に書かれているように、結婚詐欺・首都圏連続不審死事件に“現代の男女関係の変化”を読み取る橋本さんの調理法は見事でした。

「犯人とされる“小太りの女”は、美人でもないのに次々と結婚詐欺を繰り返した。しかも、『私はモテない男を救済してあげている』と、男性より優位に立つ態度を取っている。これは、女性優位の時代が始まったことを示す歴史的な事件だと思いました」

―今後、“小太りの女”のような女性は増えるんでしょうか?

「それはないですね。なぜなら、あの人は面倒くさいことを一生懸命に引き受けて、重い練炭まで運んだ(笑)。その勤勉性は今の女性にはありません。よく『出会いがない』って言う若い女性がいるけれど、それは自分が体を張ってでも男を捕まえていないだけじゃない? 『出会いがない』んじゃなく、『出会いにしていない』んだよね」

―そんな現代の人々を見ていてヘンだと感じることはありますか?

「今の日本人って、“みんな”という感覚しかないよね。ネット右翼も反原発デモも、まず“みんな”ですね。リーダーが引っ張ってるんじゃなくて、『なんとなく危ないと思ったから来ました』っていう“みんな”が集まっただけ。だから、デモの人数はどんどん膨らむけど、膨らんだその先が見えない。それは別にデモをやる側の責任じゃないですけどね』

―政治の世界でも、二大政党制になったのにそれぞれの主張がはっきりせず、どちらを選んでいいのかわからない状態です。

「それはまさに、政治家も国民もひとりひとりが王様になってしまい、それぞれの利害を主張しているから、『何も決められない病』にかかってしまっているんですよ。民主主義というのは、国民全員が王様になることだからね。しかも、“善意の王様”が多いから始末が悪い。善意の人たちって、自分のやっていることが人を傷つけているかもしれないという自覚がなく、正しいことを高飛車に主張するでしょう。ちょっとは他人のために腰を低くして主張するくらいのデリケートさを、教育の現場で教えたほうがいいですね」

―今、橋本さんたち年長者の知恵が役立つかもしれませんね。

「いや、ムダでしょう。だって、団塊の世代は恵まれた時代に生まれてちゃらちゃら遊んできただけだから、人に語り継ぐべき経験なんて何ひとつ持ってない。そんなジジイとババアの言うことなんか聞かず、『わからない』ことは自分の頭で考えたほうがいいですよ」

(取材・文/西中賢治 撮影/高橋定敬)

●橋本 治(はしもと・おさむ)

1948年生まれ、東京都出身。東京大学文学部国文科卒業後、小説、評論、戯曲、エッセイと幅広く文筆活動を展開。『宗教なんかこわくない!』で新潮学芸賞、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で小林秀雄賞、『蝶のゆくえ』で柴田錬三郎賞、『双調平家物語』で毎日出版文化賞を受賞

『その未来はどうなの?』

集英社新書 756円

「美人を権利として考える」ことで、男を次々と練炭自殺させた“小太りの女”事件を読み解き、出版の保守性に「触らぬ神にたたりなし」の精神を見る。現在、週プレNEWSでコラムをネット連載する橋本治が諸問題に切り込む書き下ろし