テキスト系妄想メディア「ワラパッパ (WARAPAPPA )」より

NOVELIZE OR DIE 第十四回

仲間が倒れてゆくー。

勇者オウテカの振り下ろした刀剣は、冷酷な光を放つ黒耀の鱗に弾き返され、宙を舞った体躯が乾いた地面に叩き付けられる。
すでに満身創痍のヴァン・ダイクは片膝をつき、血走った双眸を邪神竜に向けるも、荒い息を繰り返すばかりで戦闘の余力はない。

擦り切れた長衣をまとったエレンが譫言のように、氷結魔法を唱える。
だが邪神竜を囲んだ氷柱は一瞬で気化し、立ちこめる水蒸気から再び凶悪な姿が現れる。
ホゥンテンが狼狽しつつも、肩に担いだ雷電砲を放つ。
しかし残量計は半分にも満たず、本来の威力を持たない雷光弾はほとんどダメージを与えない。

キャラバンは窮地に立たされていた。
次々と力尽きてゆく仲間たちを、イモーリは為す術なく見つめていた。
震える己の肩を抱き、絶望の淵で、恐怖にすくみながら…。





オウテカたちとの最初の出会いはいまから一月ほど前、港町リンベルの酒場であった。
イモーリはそこで踊り子として、夜ごと荒くれ者たちの目の保養となっていた。
薄紫のレオタードに腰にはピンク色のスカーフを巻いて、ジャズダンスに独自の解釈を加えたイモーリのダンスは、奇抜ながらもなんとも言えないユーモアがあり、ささくれた船乗りたちの心に、束の間の癒しを与えていた。

「おう、ネエちゃん、なんだい?その踊りは?」
視線を下ろすと好色そうな髭面の男が、ジョッキを片手に見上げていた。武器商人のホゥンテンであった。
「アタイの考えたニューステップさ」
「へへ、なんだかカエルの盆踊りみてえだな」
「ふん!」
「痛ぇーっ!」
舞台の縁に掛けたホゥンテンの指先を、イモーリの踵が踏みつける。
「な、なにしやがるんでい!」
舞台に這い上がろうとしたホゥンテンの巨体が、ガクンと後ろに反り返る。
その背後から現れたのは、澄んだ瞳が印象的な凛々しい青年であった。
「すまない。彼、酔っ払ってるものでね」

ひと目惚れだった。
オウテカの真っ直ぐな瞳に射すくめられたイモーリは、にわかに全身にフィットした自らのレオタード姿を恥ずかしく思うのであった。
ホゥンテンを引きずり去ってゆく逞しい後ろ姿には、柄に翡翠を埋め込んだ見事な刀剣が掛かっていた。

それから連日のように訪れるオウテカ一行と、イモーリは自然と仲良くなった。
仲間にはホゥンテンの他に、オウテカにも引けを取らない金髪の美青年剣士ヴァン・ダイクと、神秘的な笑みを湛えた魔術師エレンがいた。
しかしようやく皆と打ち解けた間柄になった頃、明日旅立つことを知らされた。

「じゃあ、アタイも連れてっておくれよ!」
気がつくと、そう叫んでいた。
「アタイのダンスがどこまで通用するか、都で賭けてみたいんだ」
「すまないが、これは危険な旅なんだ」
困惑の表情を浮かべながらも毅然としたオウテカの口調に諦めかけたとき、エレナの声が届いた。
「彼女はこの旅に必要な人…」
エレナの捧げ持った水晶が眩い光を放った。それで事が決まった。

「そういえばまだ、名を聞いてなかったな」
恋慕する異性を前に、名乗ることさえ忘れていた。
「イモーリ。踊り子のミユキ・イモーリってんだ。よろしく…な!」
「なんでい、カエルじゃなくて、イモリだったか」
ホゥンテンの爪先に、イモーリの踵が食い込んだ。
「痛ぇーっ!」





彼らとの出会いの場面が、道中での忘れがたい思い出の数々が、イモーリの脳裏を走馬燈の如く駆け巡っていった。
これまでにも幾つもの戦闘があった。しかしイモーリが戦いに参加することはなかった。
その度に頼もしい仲間たちが、怖ろしい妖獣たちを倒してくれた。イモーリはただ彼らの勇姿に見惚れるだけでよかった。

激しい地響きと共に、邪神竜が咆哮を上げた。
裂けた口から噴射した紅蓮の炎が、オウテカたちを襲った。

灼熱の烈風に思わず身を伏せ、恐る恐る顔を上げた。
仲間たちの無残な姿が横たわっていた。

「イヤーーーーーーーーーーーーーッ!」

ヴァン・ダイクとホゥンテンはすでに事切れていた。
瀕死のオウテカとエレンが地に伏して喘いでいた。

眼前の光景を認めたくないという想いと、なんとかしなければという想いが胸中で交錯しイモーリの意識は急速に遠のいていった。
底無しの奈落に失墜してゆく感覚に自我を失いかけたとき、急に体が軽くなった。
柔らかな浮遊感が全身を包み、イモーリは光の中にいた。

「聞こえますか…イモーリ」
「アナタは…誰?」
「私の名はホーリー神…光を統べる至高の神…」
「では助けて!ホーリー神!このままじゃオウテカが!」
「それは叶いません…私は姿なき存在…ですから貴方がたをスカウトしたのです…」
「どういうこと?だってアタイには、なんの能力(タレント)もない!」
「まだ貴方がそれに気づいていないだけ…開放なさい…貴方のタレントを…」

収縮した光が光球となってイモーリの体を貫いた。
イモーリは覚醒した。
傷ついたオウテカの傍らに、腰に巻いたピンク色のスカーフをなびかせる、イモーリのレオタード姿があった。
体の奥底から流れるのは、聞き慣れたジャズダンスの旋律だった。

イモーリは踊った。
肩でリズムを取りながら、右斜め、左斜めにステップを踏む。
右手、左手を交互に挙げ、その手を腰の位置に戻し、続いて左右に横移動。
頭上でピシャリと手拍子を決める、あの独特のイモーリダンスであった。

ミニマムなダンスは繰り返す度に熱を帯び、いつしかイモーリの体から煌めく光の粒子が舞い上がった。
光の粒子は仲間たちに降り注ぎ、その体内に染み渡っていった。

すでに事切れたヴァン・ダイクとホゥンテンには効果がなかった。
だがオウテカとエレナの頭上にはそれぞれ「2」の数字が浮かんだ。

イモーリにはたしかに回復系の魔法があった。だがその経験値はあまりにも低かった。
焼け石に水の魔法が事態を好転させることはなかった。

イモーリのダンスが終わった。
待ちくたびれた邪神竜が、再び紅蓮の炎を吐いた。

イモーリもろとも、キャラバンは全滅した。





教会でセーブを終えた井森美幸は電源を切り、ため息をついた。
時計は午前三時を回っている。

明日は昼過ぎからお台場のテレビ局で収録がある。
番組名は「芸能人お宝映像赤っ恥100連発」。

流れるVTRは、当然分かっている。


リンク 井森ダンス
http://www.youtube.com/watch?v=mkN1fw5c8y8



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