そして、立ち込めるもうひとつの暗雲は、さらに大きい。オーストラリアの連邦最高裁判所が8月15日、JTインターナショナルやフィリップ・モリス(米)など、海外大手4社が起こした『たばこ新規制の無効化訴訟』で、原告敗訴の決定を下したのだ。まさにJTの世界戦略に大きな影響を与えるが、これまた大手メディアがハレ物に触るような扱いだったことから、世間には広く知られていない。
 簡単に説明すると、オーストラリア連邦議会上院は昨年11月『たばこ包装簡素化法』なる法案を可決、今年12月からの導入が決まっている。ところが包装簡素化の名称とは裏腹に、各社は箱を薄緑色に統一した上、箱の正面75%と背面90%には“喫煙による健康被害のイメージ写真”や“警告文”を掲載することが義務付けられるなど「世界で最も厳しい」(関係者)ルールなのだ。これが導入されれば「真っ黒な肺の写真が大きく掲載されるのは必至。愛煙家が束になって逃げ出し、たばこ会社は自分で自分の首を絞める」(同)ことになりかねない。

 そこで将来に危機感を募らせたJTなど大手4社が、法律の無効化を訴えて最高裁に提訴したものの、同法の導入には違法性がないとして返り討ちに遭った図式である。業界関係者が打ち明ける。
 「彼の地で『キャメル』などを販売しているJTは今回の敗訴で、対外的に『影響はあまり大きくない』などと楽観を装っていますが、実際はとんでもない。隣国のニュージーランドはもちろん、フランスやイギリスなどもオーストラリアを手本に厳しい規制策を検討している。欧州に飛び火したら、それこそJTの屋台骨が揺らぎます」

 折も折、JTは主力の『マイルドセブン』を国内向けには来年2月から『メビウス』に名称を変更し、海外向けには1年ほどかけて実施すると発表した。嫌煙ムードの高まりを反映して国内市場が縮小を余儀なくされている中、海外に活路を求めようとの戦略である。そこへバケツでドバッと油をブチまけるかのようにオーストラリアで火の手が上がった。これが遠からず欧州に拡大する。大々的に発表した“名称変更”が、ほとんど意味をなさない事態も十分あり得るのだ。

 JTは1999年以降、世界中で大型M&Aに着手、総額3兆4000億円にも及ぶビッグマネーを注ぎ込んできた。その狙いはズバリ、全体の約48%を占める海外売上高を60%程度まで引き上げることだ。前出のJTウオッチャーが語る。
 「ベルギーのグリソンを買収したことでJTは世界3位に躍り出た。英国ギャラハーはもともとロシア、ウクライナなど旧ソ連に強い。『金だけはタップリある』と皮肉られたJTの面目躍如ですが、ここへ来てダブルで噴出した問題は、調子に乗って墓穴を掘ったということ。50%出資する政府が黙っていないでしょう」

 JTは今年の6月、'85年の民営化以降初めてとなる木村宏会長−小泉光臣社長の生え抜きコンビが誕生した。財務省(旧大蔵省)からの天下り排除とはいえ、今後に赤信号が点滅しただけに、新たな揺り戻しもありそうだ。

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