もしも科学シリーズ(8)もしも太陽が近づいたら


2012年8月の平均気温は山陰の+1.9℃を筆頭に、東日本は+1.2、西日本も+0.9℃平年値を上回り、酷暑と呼ぶにふさわしい夏だった。気象庁の資料によると、太平洋高気圧が強まったことが大きな原因とされている。



気圧の変化だけでこれだけ暑かったのだから、もしも太陽が近づいたら気温はどれだけ上がるのだろうか? 海面の上昇や砂漠化は誰もが思いつくだろうが、これはまだ序の口だ。暴走温室効果状態となれば、地球上の生物はまちがいなく死に絶えるだろう。



■1%で2.8℃上昇する気温



地球は太陽の周りを1年かけて公転している。太陽との平均距離は約1億5,000万km。光速でも500秒ほどかかる途方もない距離だ。



地球が受け取る太陽エネルギーは、日光を大気圏外で垂直に受けた場合に1平方メートルあたり約1,366Wで、これを太陽定数と呼ぶ。このうち3分の2は雲や大気によって反射/吸収されてしまうので、地表を温めるエネルギーはわずか30%程度にすぎない。



太陽定数は、平均距離である1億5,000万kmをもとにした値で、距離の2乗に反比例する。太陽からの距離が地球の1.52倍となる火星では、受けるエネルギーは2.31分の1になる計算だ。また、太陽定数は1(W/平方メートル)増えると、地球の気温はおよそ0.1℃上昇するといわれている。

地軸の傾きや日照時間、大気の状態などを省略し、単純に太陽に近づく割合(%)から上昇する気温(℃)を計算すると、



 ・0.1% … +0.27℃



 ・1% … +2.8℃



 ・3% … +8.6℃



 ・5% … +14.8℃



 ・10% … +32.0℃



 ・25% … +106.2℃



となる。



環境省の資料では、1906〜2005年の100年間で地球の気温は0.74℃上昇しているが、太陽との距離に換算すると、わずか0.27%の差にすぎない。1%なら約400年分が短縮されることになるので、太陽エネルギーがいかに膨大かお分かりいただけるだろう。



大気圏でも変化は大きい。太陽定数が1W増えると高度50kmの中間圏では1℃上がり、熱圏を周回する国際宇宙ステーションは、太陽活動が活発になるだけでも500℃近く上昇するというから事態は深刻だ。



■暴走する温室効果



ステファン・ボルツマンの法則を用いて地表の温度を求めるとおよそ-18℃となる。平均地上気温との差は大気によるもので、大気は熱や紫外線を吸収するばかりか、地表から放射されるエネルギーが宇宙に出ていくのを防ぐ。これが温室効果だ。温室効果ガスとして名高い二酸化炭素やメタンはいまや悪者扱いされている感もあるが、これらがなければ氷河期から抜け出せなかっただろう。



水蒸気も優秀な温室効果ガスだ。先のシミュレーションは大気の状態変化が含まれない計算だが、気温が上がれば水蒸気が増えるのは当然で、実際の気温上昇はもっと激しい。水蒸気が増えると気温が上がってさらに水蒸気が増える、この悪循環を繰り返すうちに地球は慢性的に厚い雲に覆われてしまい、気温は加速度的に上昇する。



厚い雲は太陽光を妨げる役割も果たすので、受け取るエネルギーが減るのは確かだが、問題は収支のバランスだ。受け取るエネルギーが出ていく量を上回ってしまうと、気温は下がることはない。これが暴走温室効果状態だ。



やがて湖や海が干上がり、最終ステージである暴走温室状態に陥る。そこには生物が生き残れる場所など存在しない。水蒸気が宇宙に蒸散し、早く雲がなくなることを祈りながら、宇宙のどこかで待つしかない。ただし暴走が納まっても、水が少なくなった地球で生活できるかは別の話だが。



■まとめ



かつて暴走温室状態だったとされる金星は、いまや90気圧の大気と400℃を超える大地、水蒸気はわずか0.002%と、人類が住める可能性はない。暴走前の金星には海洋や湖の形で水があったが、宇宙に蒸散してしまった可能性が高いというから、暴走を止める引き換えに、水を失ったと考えるのが自然だろう。



地球よりも太陽に近い金星の暴走は、ギリシャ神話のイカロス(Icarus)を思い浮かばせる。過酷な環境のこの惑星が、女神にちなんでヴィーナス(Venus)と冠されたのは少々皮肉な話だ。



(関口 寿/ガリレオワークス)