小学生にクッキー生地と型枠を渡して、好きな形のクッキーを一枚だけ作っていいよと言ったとしよう。三角形や四角形、星形の型枠など、より取り見取りだが、食いしん坊な男の子なら、恐らく最後には枠を放り出してこう言うだろう。

「ボク、形にはこだわらないから、このまま焼いてよ。だってそれが一番たくさん食べられるでしょ」

枠にはめようとすればするほど、枠の中に収まる面積は少なくなる。この小学生でもわかるロジックが分からないのが厚生労働省だ。

いびつな型枠では効率的にクッキーを焼けない

どんな事業でも、事業内容によって人件費に回せる原資は決まっていて、それを法律でどうこうすることはできない。たとえば、商品を仕入れて店舗で売るという事業なら「いくらで仕入れていくらで売るか」という部分は事業環境で決まっているから、その中で人件費に回せる額はクッキー生地のように決まっている。

その生地に対し、ムチャクチャいびつな形をした出っ張りだらけの「終身雇用」という型枠を使えと企業に無理強いしているのが、厚労省というお役所だ。当然、生地に収まるように枠自体は小さくしないといけない。企業が将来の業績に不安を感じれば感じるほど(後になってはみ出さないように)枠は小さくしておくしかない。

人手が足りない分は、枠の中の正社員をいっぱい残業させるか、枠の外の非正規雇用を安く使い捨てるかするしかない。日本の長時間労働も、正規と非正規の格差問題も、根っこは無理やり枠を当て込むことから発しているのだ。

でも、企業は厚労省ほどバカではない。従業員の9割を非正規雇用に切り替えると決めたイトーヨーカ堂は、どうすれば生地を最大限活用できるかしっかり理解しているわけだ。トータルの雇用は2千人以上増えるし、マネージャーや専門職コースを作ることで、正規と非正規の格差も是正されることになる。

小さな枠の中に収まった人たちに過度な残業を課すこともなく、枠の外の人たちだけを踏み台にすることもなく、公平で効率的にクッキーを焼けるわけだ。

「安定雇用を破壊する暴挙」と言えるのか

いや、厚労省も本当は分かっているのだろう。彼らが終身雇用という枠にこだわり続けるのは、その枠に囲い込みさえすれば、厚生年金保険料という名目で彼らの自由にできるお金が徴収できるから。

だから、彼らはこれから、様々なメディアや御用学者を使って「安定雇用を破壊する暴挙だ」と、ヨーカ堂を批判するに違いない。

でもこれだけは覚えておいて欲しい。規制によってクッキーの生地は増やせないし、枠をなくすこと以上に効率的な分配などありえないということを。(城繁幸)