出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第43回の今回は、新刊『ひらいて』(新潮社/刊)を刊行した綿矢りささんです。
 前回、前々回と新刊についてお話を伺いましたが、最終回となる今回は今後の執筆活動について。
 綿矢さんの小説は次作以降、どのように変貌していくのでしょうか。

■「小説には本当に色々な可能性があるっていうのがわかってきた」
―綿矢さんがデビューされてから10年が経ちました。この10年で変わったなと思う点はありますか?

綿矢「書くっていうことに対してフランクになったかな…。“よし書くぞ!”っていう風には今は思わないです。“やろか”って始めて、“やめよ”と思ってやめる」

―書き始めた作品を途中でやめてしまうこともあるとのことですが、やめてしまう時というのはどのような感覚なのでしょうか。

綿矢「先が見えなくって終わりようがない感じですね。原稿用紙100枚を過ぎても全くラストが見えなかったりすると嫌な予感がしてきて…」

―これは最後までいけそう、というのも途中でわかりますか?

綿矢「わかりますね。書きながらちゃんとすぼまるなという感覚があるんですよ」

―どういうラストになるかが具体的に浮かんでいなくても、とにかく終わるだろうという。

綿矢「そうですね。そこは不思議なもので、その原理が解ければ無理な作品にはすぐ見切りをつけられるんですけど、その兼ね合いがどうして生まれるのかはまだ全然わからないです」

―物語の核になるものはどのように思いつくことが多いですか?

綿矢「そのとき自分が考えていることとか興味のあることかな。今回だったら“好き”っていう思いだけで突っ走ったら主人公はどうなるんやろうとか。そういうことが気になっていたんだと思います」

―最近、興味を持っていることはどのようなことでしょうか。

綿矢「夏やから怖い話ばかり読んでます(笑)怪談っていうよりも、実際にあった未解決の事件とか、そういうもの。人が消えてしまったりとか、船の乗組員がいなくなってしまったとか……」

―最近読んでおもしろかった本がありましたら3冊ほどご紹介いただければと思います。

綿矢「『これが佐藤愛子だ』っていうエッセイ集がおもしろかったです。古い本なんですけど。あとは、対談で大江健三郎さんにお会いすることになったから、大江さんの本を読ませていただいたんですけど、『万延元年のフットボール』もよかったです」

―大江さんといえば、綿矢さんは昨年大江健三郎賞を受賞されましたね。

綿矢「はい、それで対談させていただくことになって、『万延元年のフットボール』も含めて読んでいなかった作品を読んでいたんです」

―『万延元年のフットボール』は冒頭から非常に独特な文体で書かれていて、読み進めるのに苦労した記憶があります。

綿矢「書き出しから意味がなかなかわからなくって…。でも、途中からは盛り上がってすごくおもしろかったです。最初の方は難解でしたけど、そこを抜ければ私でも大丈夫でした」

―最初は面食らいますが、大江さんの文体は慣れると癖になりますよね。

綿矢「なります。熱がこもっていて、読んでいるとそれがこっちに移るような気がしてきて。あと一冊は、この間新訳で読み終えた『罪と罰』。絶対暗いまま終わると思っていたんやけど、意外なくらい救いがありましたね」

―今後、小説を書くうえで取り組んでいきたいことはありますか?

綿矢「自分がこれまで“これが小説や”と思い込んでいたことを取り払って進んでいきたいです。大江さんの本にしても、これまで読んだことのない小説でしたし、そうやって人が書かはった作品を読んで、ただ起承転結にするんじゃなく、小説には本当に色々な可能性があるっていうのがわかってきました。だから、自分も小奇麗にまとめようとせずにやっていきたいですね」

―読者の方々にメッセージがありましたらお願いします。

綿矢「いっぱい色々な本が出ているから読みたい本がほかにもあると思いますけど、もし興味を持っていただけるなら、本屋さんで開いてみていただければなと思います」

■取材後記
 こちらの質問に対し、常に率直な口調で答えてくださった綿矢さん。
 「起承転結」というという物語の基本形にこだわらず、小説の持つ様々な可能性を探ろうとしている彼女が今後どのように作品世界を広げていくのか、一人の読者としてとても楽しみになるインタビューでした。
(取材・記事/山田洋介)