【連載:シネマ守銭奴】『夢売るふたり』の見どころ(銭どころ)

写真拡大

パッと見ステキな感じのタイトルですが、ようは結婚詐欺の話です。しかも夫婦で結託しての結婚詐欺。妻が見つけたターゲットの女を、夫が口説き落とすという斬新な手口です。ある意味、女房公認で不倫ができるという男としては理想の環境に思えますが、結果として「俺、こんな女房みたくなかった!」という辛い現実が待ち構えています。

「黒松たか子の魅力を堪能! 5,000円!」
とにかく主演の松たか子さんがとんでもなかったです。まさに怪演でした。あの春のパン祭りのお姉さんが、まさかあんな不味そうに食パンを食らうなんて・・・。そして夫役の阿部サダヲさんを風呂場でじわじわ問責するシーンの恐ろしさと可笑しさたるや、日本映画史に残る風呂拷問シーンではないかと思います。
松たか子さんと言うと、一般的には清楚な女性を演じる"白松たか子"のイメージが強いですが、個人的には、本作のように悪い女を演じた時の"黒松たか子"の方がグッと魅力的に感じます。本作の監督・西川美和さん(美人)も、2010年公開の『告白』(中島哲也監督)での黒松っぷりを見て今回のオファーを決めたそうで、さすが西川監督、松たか子の使い方を心得ているなと思いました。
『夢売るふたり』の松さんは、『告白』でのある意味モンスター的なぶっとんだ恐ろしさとはちがい、ごく普通の女性が内包している狂気がだだ漏れてくる感じで、リアルな恐ろしさがありました。女性監督だからこそ描ける"黒松たか子"が堪能できます。下着をはきかえるシーンなどは思わずギョッとしてしまいました。
そして、旦那役の阿部サダヲさんの持つファニーな要素が、この映画が重苦しくなりすぎないよううまく機能しているなと思いました。

「大人の二人乗りにグッときて・・・1,000円!」
キッズリターンしかり、魔女の宅急便しかり、「いい自転車二人乗りシーン」がある映画には傑作が多い気がします。二人乗りと言うとえてして若者のイメージですが、本作で出てくるのは"大人の二人乗り"です。若者同士の甘酸っぱい二人乗りとは違い、大人の二人乗りは何とも言えないほろにがさと切なさがあって、登場人物がグッと愛おしくなってしまいます。そんなグッとくる大人二人乗りシーンが2ヶ所もあります!

「役者やのぉ!映画やのぉ! 1,000円!」
登場人物が多いため、主役二人以外の人はそれほど詳しい説明もないままお話が進んでいくのですが、それぞれのキャラになんともいえない生々しい存在感がありました。ちょっとしたセリフや、仕草、佇まいで、その人物がどんな人生を歩んできたか想像できてしまう、その演出力と演技力に思わず「役者やのぉ!」「映画やのぉ!」と膝を打ってしまいました。

そんなわけでこの映画、7,000円の価値あり!

「女、やべぇ」要素が強い内容なので、結婚前のカップルがデートで観に行くのには要注意な作品ですが、映画としては実に味わい深い作品なので、ぜひ劇場で堪能していただければ思います。





(C)2012「夢売るふたり」製作委員会

「夢売るふたり」
ストーリー:貫也(阿部サダヲ)と妻の里子(松たか子)は小料理屋を営んでいたが、店が全焼し全てを失ってしまう。そして酒浸りの日々を送る貫也は偶然出会った元常連客と一夜を過ごす。その事実を知った里子は哀しみながらも、店の再開資金を得るため結婚詐欺を思いつき、夫婦で次々と女性を騙していく...
監督: 西川美和
キャスト: 松たか子、阿部サダヲ、田中麗奈 他
上映時間: 137分
9月8日(土)全国ロードショー
2012年/日本

オフィシャルサイト

-------------------------------

死後
イラストレーター。1977年生まれ、愛知県出身、東京在住。蟹座。 「死後」という使いづらいペンネーム且つ節操のない画風で、雑誌、書籍、CD、web等、様々な媒体で活動中。
主な仕事・・・NHK「おやすみ日本」眠いい昔話コーナー/CD『ほーひ』mmm/書籍『コケはともだち』藤井久子著/雑誌anan、BRUTUS他  ホームページ