4年に1度の米大統領選は、政治家と支持者にとっての五輪のようなもの。選挙が決勝なら党大会は、さながら党候補を推して推しまくる予選だ。多くのセレブがオバマ大統領再選の資金集めにはげむ中、クリント・イーストウッド(82)を共和党大会に呼べたのは、ロムニー陣営でよほどのお手柄だったに違いない。ところが彼は、突拍子もないパフォーマンスを披露してしまった。

クリント・イーストウッドと言えば、ハリウッドを代表する名優。映画監督としてもアカデミー賞を2度受賞しており、まわりからの尊敬は揺るぎないもののように見えたのだが...。

30日(日本時間31日)、共和党全国大会にサプライズ・ゲストとして登場したイーストウッドは、熱気あふれる会場を前にして、隣に置いた空のイスに向かって話し始めた(上写真)。「見えない」オバマ大統領がそこに座っている、という設定だったのだ。

そして演説はアドリブだったため、5分のはずが12分近く、事実関係が時おり誤っているとりとめのない話をすることになった。

「ここにオバマ大統領が座っています。これから、いくつか彼に質問をしようと思います」と始めたイーストウッドは、2008年にオバマ大統領が当選した際は変革のメッセージに感動して涙を流した、と明かした。そして最近、「失業しているアメリカ人が2,300万人もいると聞いて」今度は残念で泣いた、と続けた。

オバマ大統領が2008年のキャンペーン中に、米国内の仕事を増やし失業問題を改善する、と唱えたことについての批判なのだが、7月の失業者数は2,300万の半分ほどで1,280万人だった(労働統計局による)。その後ロムニー氏は自らのスピーチの中で、「イーストウッド氏は、『失業中ないし不完全雇用の国民2,300万人は国辱だ』と正しく指摘した」と慌ててフォローしたが、実は労働統計局はパートタイマーなどの不完全雇用者の統計はとっていないので、その数は不明だ。

<イスに質問をするC・イーストウッド>

その後イーストウッドは、アル・カイーダの幹部ハリド・シェイク・モハメドの審理をニューヨークで行なうという提案(オバマ大統領はすでにこれを撤回している)や、ロムニー候補も支持しているアフガン撤退のスケジュールなどについて、イス(オバマ大統領)をなじった。そして歴代の大統領が全員使用しているエアフォースワン空軍機についても、「(ロムニー氏が大統領になったら)普通の飛行機の乗り方はまだ覚えてますよね」と皮肉に批判した。

また演説の中でイーストウッドは、イスオバマに向かって「ロムニーに何か伝えたいことある?」と聞くのだが、「それは言えないな...彼そんなこと自分ではできないから(He can't do that to himself)」と答える。彼の頭の中では、座っているオバマ大統領が下品な表現で「消え失せろ!(Go f*** yourself)」と言っていたらしい。(訳注:この表現は直訳すると「行って自分を犯しちまえ」になるので、よく男性がジョークでかわすのに、「自分では(届かないから)できない」というような表現で答えます。)

さらにイーストウッドはロムニー氏を素晴らしい実業家だとたたえ、「弁護士は大統領になるべきではない」と発言したのだが、ロムニー氏もオバマ大統領と同じく、ハーバード・ロー・スクールを出ていることを知らなかったらしい。

「ちゃんと仕事ができないのなら、他の人に交代すべきだ」と言って、タフに指で首切りのジェスチャーをしたイーストウッドに聴衆は、「Make my day! Make my day!」と叫び、 映画『ダーティハリー』の名セリフを言わせようとした。最初は「それはもう言わないことになってる」と拒んだが最後には、 「いやじゃあ最後に一回...みなさんもご一緒に。Make my day(楽しませてくれ)」と応じた。

この「今まで党大会を見てきた中で、一番奇妙な出来事だった」とCNNのジャーナリスト、ハワード・カーツに言わせた演説が終わる前から、Twitterは「今起こったことは...何?」というような当惑や、ジョークのコメントであふれかえった。まだイーストウッドが演壇で話している時に、"@InvisibleObama"(見えないオバマ)というパロディアカウントができたほどだ(「見えないオバマ」は金曜日までに、もう6万人のフォロワーがいる)。

見えないオバマ:「ロムニーに投票すると、@見えないNASAもできるぞ!」

1日もたたないうちに、新しい動詞もできた。"Eastwooding"(イーストウディング)とは、空のイスに座っている見えないオバマ大統領を指さし、ムッとした表情をすること (好みにより実際の文句も言う)。ハッシュタグ#eastwoodingで検索するといろいろ出てくるが、やってみた人達のギャラリーもこちらで見られる。

<"@elf35173: ビールと#イーストウディング中。オリジナル版もそうだったのかも">

ハリウッドがTwitterで反応するのも早かった。映画評論家のロジャー・イーバートはこうツイートした。
「クリント、私のヒーロー...(今日は)ひどく哀れに見えます。こんなことする必要なかったのに。彼にふさわしくない。」

一人で会話を続けることで知られる、コメディアン・俳優のボブ・ニューハートはこんなつぶやきを。
「共和党大会で、クリント・イーストウッドが俺の真似してるって聞いたよ。今弁護士と、(知的財産侵害の)訴訟の下書きをしてるとこ。」

自身もアメリカ緑の党から大統領選候補になっている、コメディエンヌのロザンヌ・バーは、
「クリント・イーストウッド、イッちゃってる」とツイート。

こちらもさすがにコメディアンのクリス・ロックのツイートは、
「クリント・イーストウッド、今きっとオバマと電話してんだよ。
『閣下、すべて計画通りいきました』ってね。」

そして極めつけは、オバマ大統領本人のツイート。見るからに大統領用のイスに座った後ろ姿の写真付きで、
「この席には人がいます」

...オバマ大統領はハッシュタグ#winning(勝ってる)をつけなかっただけ、大人だ。(訳注:"#winning"は、チャーリー・シーンが使うことで有名。たいていジョークとして、得意がる時に使われます)


<クリント・イーストウッドの共和党大会でのスピーチの抜粋>