小宮コンサルタンツ社長 
小宮一慶 
1957年生まれ。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)などを経て現職。『あたりまえのことをバカになってちゃんとやる』など著書多数。

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いまやリストラは50代だけの話ではない。40代、30代にも矛先が向いている。ビジネスマン生活もハイリスクな時代を迎えた。どうしたら危機を突破していけるのか──。年代別にシナリオを描いていく。

小宮一慶氏 常日頃から50代は会社員の分岐点と覚悟しておく必要があります。リストラの対象となるだけでなく、大企業なら転籍を促される世代に差しかかるからです。私が以前、身を置いていた銀行では転籍する平均年齢は52.5歳でした。

そうなった場合には前向きに考えてください。そして、自分の過去30年間のキャリアと持っている能力を見極めなければなりません。会社を辞めた後、雇ってくれる会社があるのか、続けられる仕事があるかということです。ここが一番重要です。そのうえで、会社の早期退職や転籍の打診に対して「ノー」か「イエス」か、態度を鮮明にする必要があります。

「ノー」を宣言すると、会社からは「図々しいやつ」と白い目で見られるでしょう。それでも事情があってそう決めたのなら、居座ることです。そうしないと、生活できません。50代前半なら住宅ローンもまだ残っているはず。中高生の子供がいれば、数百万円単位での教育資金も必要です。

でも、気持ちよく働けるのに越したことはありません。多分、責任のある役職をはずされたのなら、下手な上司風など吹かせず、「自分はサポート役に徹し、若い人たちのコーチになれればいい」と割り切る。そうすれば、長年培ってきた仕事の経験が活きてきます。おそらく、周囲からは「いてもらってよかった」という声が上がってくるでしょう。

一方、答えが「イエス」ならば“片道切符”での転籍あるいは転職ということになります。行く先が中小企業という可能性も高い。その際に心してほしいのは、大企業のやり方を新しい職場に持ち込まないことです。大企業の常識は中小企業の非常識で、私の感触ですと8割方は通用しません。

しかも、大企業の部長経験者が、中小企業の社長に請われて役員待遇で転籍すると、当然のことながら結果を求められます。しかし、思うような力を発揮できず、社長や古参幹部との軋轢を生み、不幸な結果を招くことがあります。行った先ではプライドは内に秘めながら、あくまでも“一兵卒”として働いていく覚悟が必要です。

それでも転籍や再就職できるのなら幸せかもしれません。候補となる会社が少なくなっているからです。とても、仕事や会社を選んでいる余裕などありません。自分の専門外だから力が発揮できないとか、業務の好き嫌いで判断できる時期ではありません。

ではどうしたらいいのか。「いつ会社を出てもいい」という心構えは、若い時代から養いましょう。得意分野を勉強して、他社でも通用するようにブラッシュアップしておきます。経理が得意なら日商簿記検定の一級の資格を取ったり、人事に携わっていたのなら社会保険労務士を狙う手もあります。それは自分の“含み資産”を顕在化させることにつながります。

そこで50代に入ったら、一度詳細な履歴書と職務経歴書を書くことをお勧めします。いわば、会社人生の棚卸しを行うわけです。すると自分自身でも、すっかり忘れ去っていたことが思い出されるはず。「ああ、あのときはあんなアイデアを捻り出して、仲間と一緒に事業を立ち上げたな」などと、自分の強みを再発見できます。

もう一つ、周囲の人から自分のことを“360度評価”してもらったらいかがでしょうか。奥さんや仲のいい同僚でも構いません。

「意外と聞き上手だ」とか「粘り強い」といった長所がわかればしめたもの。それを履歴書の長所の欄に書き込んでください。

なかには、思い切って独立・開業することを考える人もいるようです。しかし、その実現は転職よりはるかに困難です。その業種や業態でプロとして認められる能力に加え、資金や人脈も不可欠です。失敗したら、老後の蓄えすら失いかねません。50代からの人生設計の再構築は容易ではありません。

「一度ぐらい自分の会社を興してみたい」程度の気持ちなら、独立・開業は諦めたほうが無難です。

経営環境も雇用情勢も悪化しているいま、50代の転籍・転職はきわめて難しくなっています。おそらく、希望する進路に行ける人は、10人に1人といっても過言ではないでしょう。

私の座右の書『論語』では50歳は「天命を知る」ときです。できれば、私心を捨てて、世の中のために生きようという年齢かもしれません。それなのに、リストラ、転籍は不本意なことだと思います。けれども、そこで与えられた仕事を“天職”だと受け止めて、前向きに取り組んでいけば、その先の道は必ず開けてくるはずです。

(岡村繁雄=構成 撮影=南雲一男、澁谷高晴、大塚一仁)