仕事を楽しみ、勝ちにこだわる。プロ野球選手のようなプロビジネス選手であれ

企業TOPが語る「仕事とは?」 Vol.30

楽天株式会社 三木谷浩史氏

社内の公用語を英語化したことで話題の楽天・創業者の三木谷氏の仕事観とは?


■世の中を「便利にする」だけでなく「元気にする」のがミッション

楽天は2012年7月から、社内の公用語を英語にしました。私は楽天の未来を考えたとき、選択肢はほかにないと思っていました。これからの日本企業の多くは、世界に展開する企業にならない限り、生き残ることが難しくなるでしょう。アメリカの投資銀行のレポートによれば、2006年時点で、日本のGDP比率は世界の約12 パーセントを占めていました。しかし2050年には、わずか3パーセントに落ち込むと予想されています。2006年から2050年にかけて、世界における日本のGDP比率は、4分の1になるんです。

日本市場の今後の潜在成長性を長期的に考えた場合、私たちが成長し続けるために海外に打って出ることは「した方がよい」ことではなく、「しなければならない」ことでした。将来的には、eコマース事業で27カ国・地域に進出し、楽天グループの流通総額に占める海外比率を70パーセントに押し上げていくことを考えています。海外の方が市場の成長スピードも規模も大きいことを考慮すれば、世界進出は当然のことなんです。

グローバルに展開している世界の企業は皆、英語を使っています。そんな中で、日本語しか話せないというのでは、話になりません。海外の仲間たちと、コミュニケーションができないからです。楽天社員が日本語だけでしゃべっていたら、英語を使う外国人は楽天に来てくれないでしょう。世界の優秀な人材の獲得競争に勝てなくなってしまうということです。

ただ、勘違いしないでいただきたいのは、世界に迎合するために英語化をしたのではない、ということです。日本の良さを海外で展開するために、英語化をしている、という側面もあるんです。英語化は、日本の良さを海外に持ち込むための手段なんです。例えば、日本のサービスは本当に素晴らしい。海外を知れば、そのレベルの高さにみんな気がつきます。いわゆる「おもてなしの心」というものです。

日本には、この「おもてなし」精神の素晴らしさや、ビジネスとしての高いサービスレベルがあるんです。ところが、これが日本語で行われていたら、世界の人たちは理解できない。だから、英語化の意味があるわけです。英語という世界で事実上の公用語を使えば、日本ならではの強みを、インターネットビジネスを通じて、世界に伝播させていくことができる。楽天ならではのサービスを、世界に展開できるんです。

そもそも楽天のビジネスモデルそのものが、世界のインターネット企業に比べてユニークな特色を持っていると思っています。それは、既存の社会的な価値を守りながら、インターネットを活用していくということです。楽天はもともと、ローカルエコノミーや中小企業を、インターネットを使ってどうエンパワーメント(自立支援)するか、というビジョンから生まれました。インターネットを使って世の中を「便利にする」だけでなく、「元気にする」のがミッションなんです。

顧客、エンドユーザーだけを見るのではなく、店舗も見る。便利だから、とインターネットによって既存の店舗や流通を破壊してしまうのではなく、既存の店舗や流通も栄えて、しかも消費者にも便利で楽しくお買い物していただける仕組みを作りたいんです。B to B to Cというモデルと言えば、わかりやすいかもしれません。その方が、社会は元気になるじゃないですか。実際、こうした楽天の考え方に強い関心を持ってくれている国も多い。楽天と同じような共栄型のビジネスモデルを展開しているカナダの大手電子書籍サービス企業Kobo社の買収は日本でも大きな話題となり、ヨーロッパをはじめ、世界からも予想をはるかに超えた反響がありました。

インターネットによって、消費者も利益を得て、店舗も栄える。これを「Win-Winコマース」と呼んでいますが、この考え方は世界に通用するとあらためて思いました。みんな消費者が便利になればいい、だけではなく、店舗も栄えてほしい、社会も元気になってほしいと思っているんです。楽天の取り組みは、いわばネット上での都市開発、まち作り、もっといえば「まちおこし」なんです。だから、楽天には、お祭り好きな人が多いですよ(笑)。そして、これから世界でブランド認知も上げて、もっともっと世界で知られる会社になりたいと思っています。ますます面白いことができる会社になると思います。


■アメリカ留学、そして阪神・淡路大震災が大きな転機に

就職活動をしていたのは、バブル絶頂期でした。私自身、今からは考えられない大企業志向で、「世界を股にかけるような仕事をしたい」と漠然とした憧れを持って、大手銀行に就職しました。大きな転機になったのは、銀行に入行して3年目、26歳のときに、MBA取得を目的にハーバード大学のビジネススクールに留学したことです。そしてこの留学の一番の収穫は、MBAを取得したことではなく、起業精神に触れたことでした。

それまでは、大企業で出世することこそがビジネスパーソンのゴールだと考えていました。しかし、起業こそがビジネスにおける究極の贅沢(ぜいたく)だ、と知ったんです。アメリカでは、小さな会社でも起業する人が賞賛されます。官庁や大企業といった大きな組織に所属することは、人生の成功とは見なされていません。日本的な価値観とは、まさに正反対。でも、これが、とても新鮮な感覚でした。そして世界の潮流が、起業を重要視するようになっていることをハーバード大学で思い知らされたんです。

そしてもうひとつの転機が、阪神・淡路大震災でした。実家があった明石市(兵庫県)も大きな被害を受け、大好きだった叔父夫婦を失いました。がれきの山が累々(るいるい)と続く故郷のまちを、叔父夫妻の消息を求めてさまよい歩き、学校の体育館で無言の対面をしたときの気持ちは、とても言葉では言い表せません。このときわかったのは、命がいかにはかないものか、ということでした。そして、それゆえにどれだけ大切なものであるか、と。

いつかはわからないけれど、人生の終わりは必ず来る。その終わりまでに、自分は何を成し遂げたいのか。それを考えたとき、今自分が何をなすべきかが、はっきりと見えました。銀行を辞め、友人と2人で会社を作りました。銀行時代に培った能力と人脈を使って、M&A関連のコンサルティング業務で収入を得ていました。でも、目標はあくまで起業でした。そして2年後に、楽天市場をスタートさせました。

楽天をスタートさせようとしたとき、多くの先輩経営者から、成功するわけがない、と言われました。でも、周りがこのビジネスの可能性に気づいていないところにこそチャンスがあると思いました。そして1週間、必死で考えて出てきた答えが、「システムに強い人間が商売をするのではなく、商売が得意な人が簡単に店を開けられる仕組みを作る」というインターネット上の市場(いちば)というコンセプトでした。

このシステムを自ら開発し、ネット上で楽しく買い物ができる場を提供できたことが、楽天の成功の理由です。そして何より、自分たちの手で事業を立ち上げてきたという自信こそが、楽天の最大の強みです。私にとってビジネスは、スポーツのような感覚です。例えばイチロー選手にとって、野球は仕事であって仕事でないように。私はいつも社内の人間に言いますが、自分たちはプロビジネス選手だということ。だから、楽しくやった方がいいし、勝たなくては意味がない。

もっといえば、ビジネスで成功するかどうかの鍵は、仕事を人生最大の遊びにできるかどうかだと思っています。仕事を人生最大の遊びにできれば、人は誰でも有能なビジネスパーソンになれます。仕事を遊びにできたなら、常に勉強もできる。新しいものを吸収し、自分のレベルを常に高めていかなければ、人の発展はそこで止まってしまうんです。

本気になって勉強すれば、自分を変えられる。自分が変われば、仕事はもっと楽しくなる。その循環を自分の中に作り上げることができた人は、社会人になってからも大きく成長します。そして、どんな分野であろうとも、必ず大きな仕事を成し遂げると思います。一日1時間でも30分でもいい。自分のために勉強する時間を作る。それが、3年後5年後の自分の姿を決めるんです。