「その資料、なるハヤで」のどこがダメ?

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■伝え方より、コトバの変換に注意する

コミュニケーションがうまくいかないとき、私たちは情報の伝え方に問題があると考えがちです。

実際、伝達の手段によって混乱が起きるケースは多くありません。電話で話したコトバはきちんと相手の耳に伝わるし、メールに書いたモジはそのまま相手の元に届きます。仮に手段による混乱が起きても、その多くは技術的に解決可能です。

注意したいのは「伝達」より「変換」です。

私たちは自分の頭の中で考えていることをテレパシーで相手の頭の中に直接届けることはできません。人と人の間でやりとりされるのは、考えではなくコトバやモジです。モジは単なる記号であり、コトバは単なる信号です。

つまり私たちは自分の考えを、モジやコトバという共通のツールに置き換えて相手に伝達していることになります。

ミスが起こりやすいのは、頭の中をコトバに変換するときです。自分の考えをコトバに置き換えるプロセスで情報に歪みが生じて、間違ったカタチで相手に伝わってしまうのです。

相手が情報を受け取るときも同じです。翻訳がうまくいって自分の考えを過不足なくコトバにできても、相手がコトバを理解するときに歪みが生じると、こちらの意図が正しく伝わりません。そこでコミュニケーションのズレが起きるわけです。

コミュニケーションのズレは、時間のロスだけでなく感情にも悪影響を与えます。「自分はこういうつもりだった」、「いや、そういうニュアンスではなかった」という水掛け論は人間関係に軋轢を生み、精神的に摩耗します。

こうした擦れ違いが起きる原因を、伝達手段のせいにするのは早計です。

むしろ自分の意図が正しく伝わらない根本的な原因は、考えをコトバに置き換えるときの変換ミスにある可能性が高い。

ここを間違えると、ムダな努力を重ねることになります。

■「なるべく」、「だいたい」……副詞にも注意する

変換ミスを防ぐために意識してほしいことが一つあります。それはコミュニケーションに形容詞を使わないことです。

早い、遅い、大きい、小さい、多い、少ない、高い、低い――。

これらの形容詞は、情報伝達において誤解を生む原因になります。

たとえば「早く資料が欲しい」といったとき、「いますぐ」という意味なのか、「2時間後」なのか、あるいは「定時の17時まで」や「明日の朝まで」なのか。それが曖昧なままだと、相手は「早く」を自分の尺度で解釈して行動します。その結果、こちらは「いますぐ」のつもりだったのに、資料が届いたのは次の日だったという事態が起きるわけです。

こういった事態を防ぐためにも、仕事上のコミュニケーションには、お互いが共通の単位として使えるコトバを用いることが必要です。

共通の単位として活用したいのが数詞です。「早い時間帯に」は聞く人によって頭に思い描くものが変わるので共通の単位になりませんが、「午後3時までに」といえば誰でもわかります。時刻の読み方は小学校で習い、基本的に海外でも通じる。まさしく共通の単位です。

日本語には、形容詞以外にも曖昧さをともなうコトバがいろいろあります。ビジネスでいうと、「まとめる」、「やる」、「対応する」といった動詞や、「なるべく」、「だいたい」といった副詞がそれにあたります。

これらのコトバは使い勝手がいいので、つい多用してしまいます。使うなとはいいませんが、これらの言葉も数詞に置き換えたほうが指示は明確になります。

たとえば大量の資料とともに、「これ、まとめておいて」という指示を出されても、言われたほうは、どの程度までまとめるべきなのかわからずに困惑します。指示は、「A4判で2枚にまとめておいて」と数詞で伝えたほうが具体的であり、時間のロスを減らすことができます。

※『ビジネススキル・イノベーション』第2章 時間と感情のロスを減らす(プレジデント社刊)より

(横田尚哉)