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・ペスカーラの現況
昨シーズンは19年ぶりのセリエA昇格に湧いたペスカーラだが、ズネデク・ゼーマン監督を始め、”ピルロ二世”マルコ・ヴェッラッティ、リーグ得点王チーロ・インモービレといったセリエB優勝の立役者たちが退団。目立った補強といえばW杯南アフリカ大会でブレイク以降は鳴かず飛ばずのウラディミール・ヴァイスくらい。すでにお祝いムードは完全に消し飛んでしまっている。


・インテルの現況
チャンピオンズリーグ出場権を失い、資金繰りに苦しむインテル・ミラノだったが、開幕直前にジャンパオロ・パッツィーニ+金銭でACミランのアントニオ・カッサーノを手中に収め、周囲を驚かせた。プレシーズンは4−2−3−1が中心だったが、2トップのほうが能力を活かせるカッサーノの加入により、4−3−1−2にシステムを変更した。

カッサーノの移籍は、パッツィーニを欲しがったミラン・サイドからの提案らしい。この土壇場でチーム戦術に影響を与える選手を獲得してしまうあたり、インテルの補強戦略のズサンさがうかがえる。


・ペスカーラのシステム
ペスカーラのスターティング・フォーメーションは4−1−4−1。ゴール前を固めるのはU21イタリア代表トリオ。守護神は17歳でセリエAデビューを果たしたマッティア・ペリン、右CBは190センチを超える長身のシモーネ・ロマニョーリ、左CBはDFリーダーでSBにも対応できるスピードを備える“ペスカーラ・ユースの至宝”マルコ・カプアーノ。SBの右はダミアーノ・ザノン、左はアントニオ・パルツァーノ。どちらもゼーマン門下だけあって攻撃力に定評がある。

中盤の底でアンカーを務めるのはレッジーナ時代の中村俊輔のチームメートだったジュゼッペ・コルッチ。その右隣には2列目ならどこでもこなすマッティ・ルード・ニールセン、反対側にはキャプテンでイングランド風センターハーフのエマヌエル・カッショーネが入った。

右SHは“魔法使い”の異名で知られるスロヴァキア代表ヴァイス、左SHはU19イタリア代表ウイングのジャンルーカ・カプラーリ。ただしこれはスタート時の配置に過ぎない。ほとんど時間帯、ヴァイスは左サイド、カプラーリは右サイドでプレーしていた。1トップはセカンドストライカ・タイプの大型FWジョナタス。

新監督のジョバンニ・ストロッパは、ゼーマン式の超攻撃的サッカーの継続を選択した。成績不振が監督交代の理由ではなかったため、大幅な戦術変更は選手の反発を買う危険性があった。妥当な選択と言えるだろう。

おなじみのハイプレスと連動したオフ・ザ・ボールの動きによるチェーン・アクションは健在だった。CBのふたり以外は全員がオフェンシブな選手。実力下位のクラブとしては異常なほど攻撃に人数をかけていた。


・インテルのシステム
アウェーのインテルのスターティング・フォーメーションは4−3−1−2。GKは正選手のサミール・ハンダノヴィッチが負傷で欠場し、代役に大ベテランのルーカ・カステッラゥツィが起用された。最終ラインは右からハビエル・サネッティ、パレルモから移籍のアルゼンチン人マティアス・シルベストレ、アンドレア・ラノッキア、長友佑都の4人。

トリプルボランチの中央はナポリから加入のウルグアイ代表ワルテル・ガルガーノ、右はフレディ・グアリン、左はエステバン・カンビアッソ、トップ下はウェスレイ・スナイデル。

前線はカッサーノとアルゼンチン代表ディエゴ・ミリートのペア。

前のアタッカー3人のポジションは流動的。一応スターティング・ポジションは2トップ+トップ下という形だったが、3人ともポジションには縛られず自由自在に動き回っていた。

この3人は守備のタスクを免除されており、残りの8人が自陣深くまで下がり守りを固めるのが基本である。


・試合結果
試合の結果は0−3とインテルの圧勝だったが、内容は数字ほど良くはなかった。ペスカーラのあまりにも攻撃的過ぎるスタイルのおかげで3ゴールを奪えたが、前半はシュートを3本に抑えられるなど、攻撃面に大きな問題を抱えていた。もしペスカーラの主力が残留していれば、逆の結果でもおかしくはなかった。


・ペスカーラのキーポイント
ペスカーラはインモービレとヴェッラッティが抜けた穴が埋まらない様子。ボックスストライカーとして、ペナルティエリアに送り込まれたボールを片っ端からゴールに叩き込んでいたインモービレに対して、ジョナタスは190センチと長身ながら機動力があり、広範囲に走り回ることで持ち味を発揮するタイプ。相手に引かれてスペースを消されると、何もできなくなってしまう。

代わりにヴァイスとカプラーリが個人技で何度かチャンスを作っていたが、どちらも独奏者タイプで動きに慣れられてしまうと、簡単に押さえ込まれてしまった。

それ以上にゆゆしい問題だったのがアンカーのポジションである。PSGに引き抜かれたヴェッラッティの後任にチェゼーナでも同ポジションでプレーしていたコルッチを据えたが、攻守に機能不全に陥っていた。

コルッチは本来トップ下の選手でディフェンスは不得手だ。ペスカーラは3失点を喫したが3失点ともコルッチのところから崩されている。どのゴールもコルッチがバイタルエリアにスペースを空けてしまい、そのスペースを埋めようと前に出たDFの背後を取られてフィニッシュに持ち込まれていた。

もちろんバイタルエリアがガラ空きになったのはコルッチひとりの責任ではない。ニールセンもカッショーネも相手のペナルティエリアに走り込むプレーに長所がある選手で、スペースケアは苦手科目だった。ただコルッチはゲームメークが得意ではなく、攻撃面での貢献度も低く、悪目立ちしてしまっていた。


・インテルのキーポイント
インテルは予想以上に低調なパフォーマンスだった。急なシステム変更というエクスキューズがあるが、目に余る程、組織的連動性に欠けていた。

とくにお粗末だったのが左サイドに5人のアタッカーが集結していた場面である。スナイデル、カッサーノ、ミリート、カンビアッソ、長友が左サイド一箇所にまとまってしまい、互いに足を引っ張り合ってしまっていた。

もともとスナイデルは、中央にどっしり構えるようなタイプではなく、サイドのスペースでボールを受けようとする傾向が強い。カッサーノもサイドの低い位置でボールをもらい、そこからゴールへ向かっていくタイプ。ミリートもゴール前に張り付くのではなく、ピッチを幅広く動き回るタイプ。この3人は周囲との連携よりも、自分の動きたいように動いていたため、3人同時に左サイドに流れることがあった。

この3人に加えてカンビアッソもフィニッシュに絡もうと前線に突撃。そして長友もいつもどおりにオーバーラップ。もう滅茶苦茶である。この他にも3ボランチ全員が同時に攻め上がるなど、戦術的秩序の無さは度を越していた。

このまま選手に好き放題やらせるようならアンドレア・ストラマッチョーニ監督に未来はないだろう。次の試合までどれだけ修正できるか見ものである。