ボナ・ヴィータコーポレーション社長 國貞克則
1961年生まれ。2001年にボナ・ヴィータコーポレーション設立。主な著書に『決算書がスラスラわかる財務3表一体理解法』など。

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いまやリストラは50代だけの話ではない。40代、30代にも矛先が向いている。ビジネスマン生活もハイリスクな時代を迎えた。どうしたら危機を突破していけるのか──。年代別にシナリオを描いていく。

■行き場を失いうつ病にかかる30代が急増

懐具合が寂しくなれば、自ずと不安も募ってくるもの。新生フィナンシャルが毎年実施している「サラリーマンの小遣い調査」によると、2010年の平均小遣い額は4万600円で、前年と比べると5000円ものダウン。29年前の1981年とほぼ同じ水準にまで下がったことがわかった。

さらに、どのようなことに不安を感じているかを尋ねると、「自分の将来や老後」をあげる人が48.4%を占めた。この要因として考えられるのが、同じ質問に対して33.0%もの人があげている「リストラ/減給」の影響である。仕事は人生設計を支える大きな柱。それが揺らいだとなれば、将来に対する危機感は強まる。

バブル経済が崩壊して終身雇用制度の見直しが始まってから、すでに20年近い月日が経つ。いまやリストラの対象者は50代に限らず、40代、30代へと広がりを見せている。ある産業医は「出世競争に敗れて職場での行き場を失い、本人は転職を望んでいるのだが、奥さんから反対されてうつ病にかかる30代の中堅社員が増えている」という。

20代、30代……。各年代によって違いはあるものの、多くのビジネスマンは自らの生活を脅かすさまざまな危機に襲われている。そして、精神的にどんどん萎縮していき、内向き志向に走る人も水面下で急増している。

しかし、不安に怯えているだけでは、問題は何も解決しない。では、はたして第二の人生に向けた再チャレンジは可能なのだろうか。いくつもの壁を突破してきた先達が、年代ごとに具体的な方法をアドバイスする。


國貞克則氏 最近の若い人たちは、転職を当然のことのように考えているようです。終身雇用・年功序列の時代は、一度勤めた会社に人生を懸けざるをえませんでした。しかし、20歳そこそこの若さで、本当にやりたいことが見つかるかどうかは疑問です。私は学生時代から「海外に大きなプラントを建設する仕事がしたい」という夢を持っていました。卒業後、神戸製鋼に入社し、希望通り海外プラント事業部に配属されたものの、後に人事部に異動となりました。その場その場で一生懸命取り組んできたつもりですが、何となく違和感を覚え、そのうちに、何がしたいのかもわからなくなった記憶があります。

おそらく、10代や20代では、本当に自分がやりたいことは見えていないのです。むしろ、生涯にわたって稼ぎ続けることができる能力を身につけながら、そのなかでじっくり探すべきでしょう。

ところが、目の前にぶら下がった転職候補先の高額な報酬に目がくらむと、人生のなかで一番大切なことがわからなくなります。私は自分の子供には「お金を追っていたら、大切なものを見失うよ」といっています。実は欲が抜けると、ふと目の前が開けるものです。自分に合う仕事とは何かなどということは、結局は長い時間をかけて、多くの経験をしなければわかりません。

最近よく使われる“キャリアデザイン”という言葉から浮かんでくるのは、理想とするゴールを設定し、そのゴールに効率的に到達しようとするイメージです。しかし、社会や人間や人生は机の上で考えられるほど単純ではありません。社会は変化し、人間の考え方は年とともに変わり、人は人生のなかで誰と会うかわかりません。

そのような複雑な社会と人生のなかで、「やりたいことが見つかるまで仕事をしません」などというより、まずスタートラインに立つことが大切です。 縁があって就職した会社や職場で、与えられた仕事を辛抱して続けていく。一生懸命に取り組んでいけば、そこでの経験が押しも押されもせぬ実績になるはずです。それこそが、自分のキャリアとして初めて誇れるものになります。

ところで、このところ企業の人事部の人と話していると「I am special」と思い込んでいる新入社員が多いといいます。SMAPが歌ってヒットした「世界に一つだけの花」のように、自分は特別な存在と考えているようなのです。

そのことをはなから否定するつもりはありません。けれども、それを前提に「特別な私に一番フィットする会社を探す」などといって、会社を転々とするのは、どこかおかしい。会社において新人は、スペシャルでも何でもありません。謙虚になって、職場の先輩から受けた指示を遮二無二こなしていってほしいと思います。

では、20代にすべきことは何でしょうか。もちろん、自分が所属する会社の業種や規模、配属されたセクション、仕事の内容によって、それぞれ違いはあります。あえてあげれば、それは勉強する習慣です。若いうちは勉強を続けて、自分の経験値の不足を補っていく必要があります。

勉強の目的は、何も知識を増やして視野を広げるだけではありません。勉強することの最大の効用は論理性を高めることです。論理性がないと、コミュニケーション能力が向上しません。また、世の中や仕事の複雑な仕組みも理解できないのです。

本を読み、あらすじや感想をまとめておくことは、論理性を養うためにとても効果的です。文章は論理的でなければ、何をいっているのかわかりません。主題があり、起承転結があって、相手にうまく伝わります。そんな訓練が20代では重要と思ってください。

と同時に、感性を磨くことも重要です。仕事をしていて得たワクワク感、ドキドキ感を素直に受け止めましょう。そして、楽しいと感じたことを大切にしていきます。そうすれば、自分にとって一番大切なものが少しずつ見えてくるでしょう。

私がピーター・ドラッカー経営大学院で学んでいたとき、偉大な経営学者である彼は「知覚を大切にしなさい」と繰り返しいっていました。その知覚とは「理由はわからないけれども、そうなんだ」ということを大切にすること。つまり、感性、直感のことだと思います。

「あっちの仕事のほうがよさそうだ」などと考えず、ワクワク感やドキドキ感を大切にしましょう。そのことが、あなたの人生を幸せに導く近道だと思います。

(岡村繁雄=構成 南雲一男、澁谷高晴、大塚一仁=撮影)