もしも科学シリーズ(5)もしも可聴範囲が広がったら


人間に聞こえる音は、一般的に20〜20,000Hz(ヘルツ)と言われている。Hzは1秒間に振動する回数(=周波数)を意味し、小さい値は低い音を、大きい値は高音をあらわす。88鍵のピアノが27.5〜4,186Hzだから、人間は広い可聴範囲を持っていることがお分かりいただけるだろう。



ある日突然、人間の可聴範囲が広がったらどうなるか? 今まで聞こえなかった音も聞こえるなら何かと便利に思えたが、残念ながら答えは否だ。落ち着かないどころか、具合が悪くなる人も多発しそうだ。



■超音波で犯罪多発?



超音波とは20,000Hzよりも高く人間には聞こえない音波を指す。振動で水を霧状にする加湿器、距離や物体の有無を測定する魚群探知機、体内の様子を調べるエコー検査などは、超音波を利用した機器である。



人間の都合で「超」と名づけられているだけで、20,000Hz以上の音が聞こえる動物も少なくない。測定方法や品種によって諸説あるが、イヌは40,000〜60,000Hz、ネコは60,000〜65,000Hz、ネズミは90,000Hz前後まで聞こえるという。この可聴範囲の差を利用した害虫/害獣撃退器も存在する。20,000Hz超の音を発し、人間には影響せずに動物を追い払う仕組みだ。



ショッキングなネーミングだが「若者撃退装置」も存在する。超音波ではなくモスキート音と呼ばれる18,000Hz前後の音を使った装置だ。人間は年をとるにつれ高音が聞き取りにくくなるのを利用し、若者だけに不快感を与える目的で作られている。防犯用として公園に設置されたものの、効果が得られないどころか、かえって見物客やイタズラが増え、あえなく運用中止に至ったのも記憶に新しい。



さて、超音波が聞こえるようになったらどうなるか? 労働安全衛生法では、超音波は「健康障害を防止するために必要な措置を講じなければならない」対象として明記されている。また、電磁波や超音波を悪用した犯罪を訴えるための特定非営利活動法人も存在するぐらいだから、人体への悪影響は疑う余地もない。



もっとも、これは限定された環境での話で、日常生活では今まで聞こえなかった家電のノイズや作動音が問題になる。聞こえる/聞こえないにかかわらず発せられていた音であれば、すぐに健康を害することはないだろうが、余計な雑音に囲まれてイライラしながら過ごすのは避けられない。自然界ではコウモリが有名だが、アワノメイガ(蛾)のオスも微弱ながら超音波を発するそうだ。キャンプ場では蛾がうるさくて眠れない、なんてオチになりそうだ。



■低周波音は百害あって一利なし



低い音を表す低周波は、100Hz以下を低周波音、可聴範囲を下回る20Hz以下は超低周波音に分類される。環境省の資料によると、工場の作業機械をはじめ、ディーゼルエンジンやジェットエンジン、橋やトンネルまでもが発生源となるという。



低周波音は人体に強く悪影響を及ぼし、症状によって4つに分類されている。



 (1)心理的苦情 … いらいら、圧迫感



 (2)生理的苦情 … 頭痛、耳なり、吐き気



 (3)睡眠影響  … 眠りの妨げ



 (4)物的苦情  … 家具や建具の振動、置物の移動



家具が揺れるぐらいだから、そう簡単には防げない。しかも低音になるほど聞こえにくくなるため、うるさいと感じた時にはすでに大きなエネルギーを受けていることになる。聞こえない音でこれだけ悩まされているのだから、はっきり聞こえるようになったら苦情レベルでは済まされない。もはや正気ではいられないだろう。



■まとめ



低周波音による苦情は、残念ながら昭和の時代よりも増加している。科学の進歩が、対策よりも原因を増やしているのも皮肉な話だ。そう考えると、超音波/低周波音が聞こえないのは「聞かぬが花」なのか、それとも必要ないのか、疑問が残る。



いずれにせよ、文明の発達とともにそれらが増えるのであれば、危険を察知できるように人間の可聴範囲は広がっていくのかもしれない。



(関口 寿/ガリレオワークス)