国の新たなエネルギー政策をめぐり、政府のエネルギー・環境会議は、当初目指した2030年の総発電量に占める原子力発電の割合を明示せず、「今後20年程度で原発ゼロ社会を目指す」という玉虫色の方針を示す方向になった。

7月から全国で実施した国民向け意見聴取会などで原発ゼロを支持する声が大多数を占めたことを受け、与党や閣内から「近く実施される衆院解散・総選挙を目前に控えており、原発ゼロ以外の選択では党内は収まらない」(政調幹部)との声が強まり、原発再稼働を進めてきた野田佳彦首相も厳密な期限を区切らないことで受け入れる姿勢に傾いているためだ。

単なる「選挙のスローガン」

経済官庁幹部は苦り切った表情で話す。「これでは小泉内閣時代に閣議決定した『2010年代初頭にプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化を目指す』という方針の二の舞だ。当時の方針は達成のめどがいまだに立っていない」。

「今後20年程度かけて」を素直に解釈すれば、「2030年代初頭までに」となるが、その時に今の民主党政権が続いているとは国民の誰も思っていない。新たな目標は今後の政策の指針とはならず、「ただの選挙スローガンに過ぎない」(同)というわけだ。

エネルギー政策を担当する別の政府幹部も「もともと目標期限を2030年としたのは、20年では中長期の視点が必要なエネルギー政策のロードマップとして時間が短すぎるし、40年や50年では将来のことすぎて今の政治家の誰も責任を負えない、との判断だったはず」とあきれる。

仮に期限を明示しないまでも、原発ゼロ案に対しては経済官庁の抵抗が強い。原発の代替として太陽光・風力などの再生可能エネルギーを急ピッチで普及させるには、補助金などを通じた大がかりな財政負担が見込まれるほか、さらなる電気料金の引き上げも避けられないからだ。

当初は「原発15%」を支持

エネルギー・環境会議が示した選択肢は、30年時点の原発比率を「ゼロ」「15%」「20〜25%」とする3つだ。政府内では細野豪志原発事故担当相が「15%が軸となる」と語るなど、当初は15%案を支持する声が多かった。これは新たな原発の建設を認めない一方で、今ある50基強の原発には「原則40年で廃炉」の基準を適用する案で、「脱原発」を緩やかに進める考え方だ。短期的には停止中の原発の再稼働も可能なことから、これ以上の電気料金値上げなどにつながることを懸念する経済界にも容認する声があった。

しかし、同会議が7月から8月上旬にかけて全国で実施した意見聴取会では、参加者の7割以上が原発ゼロ案を支持。報道各社が8月上旬から中旬にかけて実施した世論調査では、朝日新聞と共同通信の2社の調査でゼロ案が最大となり、それにともなう電気料金の値上げなどはやむを得ないとする声が多かった。

枝野幸男経産相はこうした情勢を受け8月上旬、インターネット番組で「30年に線を引くと決めているわけではない」と2030年の期限にこだわらない姿勢に転換。玄葉光一郎外相も、地元・福島県での講演で個人的な見解として「40年時点で原発ゼロ」案を提示したほか、エネ環会議を主催する古川元久国家戦略担当相も21日の会見で「原発ゼロを目指したい」と発言し、30年の期限にはこだわらないとする声が一気に広がっている。