世界シェアの拡大を目指し新たな市場攻略法を考える

ビジネスパーソン研究FILE Vol.182

三菱電機株式会社 田中啓介さん

エレベーター、エスカレーターなどの昇降機の海外営業を担当する田中さん


■製作所内の現場を巻き込んで調整にあたり、海外の販売会社からの要望に応えられたときが喜び

愛知県稲沢市にある稲沢製作所は、昇降機[エレベーター、エスカレーター、ムービングウォーク(動く歩道)]、ビル管理システム、ビルセキュリティーシステムの開発製造を担う三菱電機の中核生産拠点。年間約1万台の昇降機を生産し、海外でも世界約90カ国に供給している。田中さんは2004年の入社以来、稲沢製作所の営業部門に所属。海外クライアントの窓口である現地販売会社や本社の海外営業担当と連携し、エレベーター、エスカレーターやムービングウォークなどの特注品のコスト見積もり、受注後の発注手配、出荷までの一連の工程に携わってきた。

新人時代、田中さんが痛感したのは、自身のコスト感覚の未熟さだった。
「言われた通りに見積もりを作成できるようになっても、それは単にコストを積み上げただけのもの。先輩が見ると、クライアントが想定している予算とのギャップは明らかでした。想定予算と提示額がかけ離れていては、商談にもなりません。クライアントが納得する価格に近づけるよう、原価低減案を検討・実行している先輩を見て、コストの妥当性を考える大切さを学びました」

こうした判断力は、経験で培われていくもの。コスト見積もりの機会が増えるにつれ、想定額と自分の見積額とのギャップが小さくなり、3年目には受注確度、案件採算も意識した見積もり活動をするまでになった。

高層ビルの建築ラッシュに沸く中東を担当するようになった入社2年目、田中さんは、UAE(アラブ首長国連邦)の都市鉄道プロジェクト「ドバイ・メトロ・プロジェクト」で、駅舎向け展望用エレベーターを含む数百台におよぶエレベ−タ−やエスカレ−タ−のコスト見積りを行った。妥当な提示額を出すために、技術者と協力のうえ規格型タイプのエレベーターで対応可能な展望用仕様を提案し、コストを削減。この結果、晴れて中東初の鉄道プロジェクトを受注することができた。モノづくりの段階においても、仕様変更の相談のためにドバイからクライアントが来日し、シビアな要求を突きつけられるなど苦労が絶えなかったが、顧客、UAEの販売会社、稲沢製作所、および海外生産工場をうまく取りまとめ、無事製品を納入した。
「重要な案件として製作所内の関係部門を動かせるかどうかは、営業の動き次第。生産現場にとっては、年間1万台生産している中の1台ですから、営業が声を大にしてその案件の重要性を訴え、理解と協力を得なければなりません。必要なら、生産工程をほかの製品と入れ替えて、納期に間に合わせるよう働きかけることもあります。しかし、社内の調整業務とはいえ、甘えは禁物。一方的に無理を強いるのではなく、各部門の負荷を十分考慮し、尊重するよう心がけています。製作所内の生産現場も巻き込んだ調整は、ここに所属している営業だからできること。それだけに、全体をうまく調整してクライアントの要望に応えられたときの達成感はひとしおです。現地の販売会社が満足し、彼らを経由してクライアントの喜びの声が届いたときは、何よりうれしいですね」


■全世界から集まる情報を活用し、展開を考えていく仕事に新たなやりがいを実感

5年目からは、1エリアの営業担当として活動する以外に、海外営業担当全員の数字をもとに海外月別生産計画を立案するなど、海外営業全体の動きを把握する業務も担当するようになった。
「稲沢製作所内での生産負荷を見込むために、世界中に点在する約36社の販売会社から来る生産台数を予測し、その進捗状況をチェックするんです。私が報告した数字に基づいて工場が生産能力を確保するので、責任は重大。それまでは自分のプロジェクトに集中していれば仕事が進んでいましたが、この業務を担当するようになって、生産が計画通りに進まないと製作所内の生産現場が確保していた人員にロスが出るなど、他部門に与える影響の大きさを考えるようになりました。繁忙期は月間80に近い案件(特注エレベーター)が同時に進行するので、全体の業務バランスにとても敏感になりましたね」

6年目からは、新製品の市場投入に伴うさまざまな業務や海外新設販売機器の3カ年計画の立案なども加わり、仕事の領域はさらに広がった。新製品を市場に投入する際に必要となる市場データ、新しい名称の案出しや登録商標確認の手配など、製品発売に伴うさまざまな業務を行ったり、本社の海外営業から出された予測数字と直近の実績をもとに、3年間の生産台数予測を立てる業務も任されるようになった。

さらに7年目には、2014年12月に上海に完成する「上海中心大厦」に設置される、分速1080メートルというエレベーターの受注にも携わった。
「世界最高速*エレベーター3台を含む計106台ものエレベーターの受注は、生産部門のサポートなしには実現できない一大プロジェクトです。ですから、契約の前に、国内外の今後の案件見込みを集めて生産業務の平準化を行い、稲沢製作所の人的・機械的負荷の見込みを立てて臨みました。要求納期に間に合わせるためのスケジュールの見直しに1年近くかかりましたが、私が作成した工程に基づいて、現在は生産が進行中。異動でほかのメンバーに引き継ぎましたが、完成が楽しみです。完成したら、ぜひ上海に行ってこの目で見てみたいと思っています」

*世界最高速=2011年9月1日現在、三菱電機調べ。地下2階から地上119階の展望デッキまで分速1080メートルで直行するエレベーターとして世界最高速。

2012年4月からは、新設された海外業務課で、これまで行ってきた海外業務の専任となった。
「海外営業を経験したことで、担当地区のスペシャリストになることができました。その知識と経験が、現在の仕事に生きています。例えば『この部品ならA国よりB国のメーカーから調達した方が安い』など、国を超えたフォーメーションを考え、後輩にアドバイスすることができる。世界各地から集まってくる情報を活用し、これまでにない事業展開を考えていくことに、新たなやりがいを感じています」

海外業務課のミッションは、海外での事業体制づくりと世界市場でのシェアの拡大。
「現在は、各部門の情報を集約し、事業として進むべき方向の指標決めやマスタースケジュールの作成を行っています。この部門は新設されてまだ3カ月、自分自身も新しい知識を吸収しながら走り出した段階です。入社以来ずっと同じ場所、同じ部門にいるとマンネリしがちですが、こうして常に新しいことにチャレンジさせてもらえるので、ワクワクしています。事業としての目標は、世界のトップメーカーを目指して世界シェアを伸ばしていくこと。そのために、自分自身も成長を続け、世界全体を見渡して、時代に沿った新しい市場攻略法を考えていこうと思っています」