意外にも?佐藤健の剣心がハマり役な、実写版の映画『るろうに剣心』は8月25日(土)より全国ロードショー公開予定

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90年代半ばから『週刊少年ジャンプ』に連載され、大ヒットしたマンガ『るろうに剣心−明治剣客浪漫譚−』。その実写映画が8月25日に公開される。今年5月から、『ジャンプSQ.』で新作もスタートした。新しい剣心、そしてジャンプに対する“ある思い”。原作者である和月伸宏先生が語った。

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■新作は“剣心の気持ち”に沿った形で

―約12年ぶりにスタートした新作は続編ではなく、イチから剣心の物語を語り直す“セルフリメイク”。そうなった経緯を教えてください。

和月 今回、映画版を作るにあたって打ち合わせに僕も参加したんです。いろんなアイデアを出したんですが、そのうちに「もう一度、『剣心』を描いてみたい」という思いがわきあがってきたんですね。

それで、新作を描くことが決まったんですが、僕のなかで物語としては「終わった作品」であったので、続編を作るのは難しい。かといって、追加エピソードを描くにも『るろうに剣心』を知らない読者に対してちょっと不親切だな、と。なら、僕が出したアイデアで映画のシナリオに使われなかったところをベースに、パラレルワールドとして再構築しようということになりました。こういうセルフリメイクってアメコミとかだとよくあるんですよ。それをマンガでやってみたかったんです。

―新作では主人公の剣心とヒロインの薫(かおる)の出会いも旧作とは違った形になっています。やはり僕たちが知っている剣心とは違うものになっているのでしょうか?

和月 いや、大まかな部分は変わりませんよ。ただ、旧作の剣心って“謎の人物”として描かれていて、物語が進むうちに過去が明らかになっていったんですが、新作では最初の段階からそれがわかるようにしてあります。剣心がなぜ「流浪人(るろうに)」(定宿を持たず、全国を旅する流れ人)をやっているのか、というところを、もっと“剣心の気持ち”にフォーカスして描くつもりです。

特に、剣心が斎藤一(幕末に剣心と激闘を繰り広げた元新選組の剣士)にその内心を吐露するようなシーンがあるんですけど、これは旧作ではあるようでなかった要素で、注目してほしいですね。

■「次につなげる」思いを託した旧作のラスト

―現在、『るろうに剣心−キネマ版−』が連載されている『ジャンプSQ.(スクエア)』の中で、主人公が30歳近いのは実は剣心だけですね。

和月 そうですね〜。そもそも、ジャンプだけでなく、少年マンガの枠組みのなかでも剣心のような過去にキズがあって、中年で、優男で、というのは異端的な存在だったと思います。剣心がなぜジャンプ読者に受け入れられたか、正直、今でもよくわかりません(笑)。

―明神弥彦(剣心を慕う少年剣士)というジャンプ読者に近いキャラクターがいますが……。

和月 それがですね。弥彦は最初、読者に共感してもらえるようなキャラとして描いたのですが、ちょっと合わなかったという感触でした。ジャンプって何げに中学生以上の読者が多くて、弥彦はあまりにも子供すぎちゃったかなと。そう考えると『るろうに剣心』にはジャンプ読者が感情移入してもらえるキャラがいるようで、いない……このあたりもジャンプマンガでは珍しいと思います。

―でも、最終的に弥彦の存在は作品内で大きくなっていた。旧作では、剣心が自身の愛刀「逆刃刀(さかばとう)」を託して物語が終わります。

和月 今思うと、「剣心」のラストで弥彦をフィーチャーする形になったのは「次につなげる」という気持ちが強かったことが影響しているのかなと思いますね。

―といいますと?

和月 ジャンプで連載をしていると、先人の方たちが築いた“伝統の重み”をすごく感じるんですよ。

ぶっちゃけた話をすれば、『ドラゴンボール』『幽☆遊☆白書』『SLAM DUNK』が連載されていて、「ジャンプの黄金時代」といわれていた1994年に『るろうに剣心』が始まったんですが、今言った3つの作品が94年から96年にかけて立て続けに終了した形になり、ジャンプの発行部数も大きく落ち込みました。

そして、その時のジャンプの看板作品が『るろうに剣心』でした。僕としてはふがいないというか悔しい思いがありましたね。でも、せめてこのままジャンプが沈んでいかないよう「次につなげたい」という気持ちで作品を描いていました。だからこそ、『ONE PIECE』の登場でジャンプが復活したのはうれしかったです。

―『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生もそうなんですが、『シャーマンキング』の武井宏之先生といった2000年代のジャンプを支えた方たちが和月先生のアシスタントから飛躍しています。その意味でも和月先生が“つなげた”功績は大きいですね。

和月 まあ、彼らは「マンガの申し子」ですから。勝手にああなっていったんです(笑)。みんなもともと才能豊かな“先生”たちで、そんな人たちがたまたま同じ職場で刺激し合った。だから、僕は彼らの“師”ではなく“同士”なんです。

―では、最後に。現在、和月先生は月刊誌で連載していますが、週刊誌で再び新たな作品を描くという思いはありますか?

和月 それは……無理ですね。ストーリーを考えて今の密度の絵を毎週描くというのは体力的に厳しいです。原作付き、もしくは原作者なら、違いますが。でも、『るろうに剣心』が終わったとき、当時の担当だった編集さんに「原作をやってみたい」って言ってみたんです。そしたら「マンガが描けるうちはマンガを描こうね」ということになりました(笑)。

●和月伸宏(わつき・のぶひろ)

1970年生まれ、東京都出身。87年に第33回手塚賞佳作を受賞し、マンガ家デビュー。94年に『週刊少年ジャンプ』にて『るろうに剣心−明治剣客浪漫譚−』が連載開始。「エンターテインメントの基本は笑顔とハッピーエンド」が信条

■映画『るろうに剣心』8月25日(土)より全国ロードショー

原作のストーリーを迫力の映像でつづった“本格時代劇アクション”。監督はドラマ『龍馬伝』、映画『ハゲタカ』で知られる大友啓史。主人公・緋村剣心を佐藤健、ヒロインの神谷薫を武井咲が演じる

(c)和月伸宏/集英社 (c)2012「るろうに剣心」製作委員会