一度その店を訪れたら、一気にその世界観に引き込まれ、一生に一度は手にしたいと思えてくる家具屋があります。大阪の旭区にある「TRUCK FURNITURE」では、黄瀬徳彦さんと唐津裕美さんの夫婦が、シンプルで温もりのあるこだわり家具を作っています。流行りのものを追うのではなく、2人が良いと思ったものしか作らないという徹底ぶりが、強い人気につながっているよう。家具のみならず、2人のライフスタイルに惹かれるといったファンも多数います。

 1997年に大阪・玉造にオープンした「TRUCK FURNITURE」。店の裏手に2軒目となる工場兼ショップの「AREA 2」を、また、雑貨・イラストなどを作る「シロクマ舎」も設立しました。現在は、旭区に移転し、自宅兼ショップをオープン。料理家のケンタロウさんと一緒にメニューを考えたカフェ「Bird」も毎日賑わっています。

 家具カタログも大人気で、「MAKING TRUCK」は5万部を超えるヒット。ケンタロウさんと知り合ったのも、カタログがきっかけだったといいます。最新の書籍『TRUCK NEST』は、家具のカタログというよりは、新しく作った旭区の自宅兼ショップを手作りしていく過程を、豊富な写真とともに追ったもの。そのなかには、「TRUCKらしい」、価値観のエピソードが紹介されています。

 黄瀬さんが、10月のロンドンを訪れたとき、街の中には大きな樹が沢山あり、黄色くなった葉っぱで埋め尽くされていました。公園や歩道にも葉っぱが敷詰まっており、まるで森の中を歩いているようだったそうです。

 「ブラックヒース駅近くの住宅地を歩いていると、森の中を歩いているように感じるくらい、落ち葉が歩道を覆っている。サクッサクッと葉っぱを踏む音が楽しい。靴が見えなくなるくらい。家の門柱の上がリスの食堂になっていた。食べかけのどんぐりがのっている。いたる所にリスがいる。上を見上げると、どの樹も枝振りがきれい。のびのびしている。ほとんどが自然樹形に見える。豊かな気分になる」(黄瀬さん)

 そこで、黄瀬さんは、ある大阪の造園屋さんの話を思い出したそうです。秋に街路樹の葉っぱが落ちると近隣の家から苦情がくるという話。敷地に落ちてくる、掃除が大変、樋に溜まると苦情がくるのです。そこで造園屋は、葉っぱが落ちる前に枝ごと切ってしまうのです。これから葉っぱの色が変わり、季節の変化を感じることができるタイミングだというのに。切られた樹は、ただの棒のようになってしまいます。道路によっては、両側の歩道に棒がずらっと並ぶのです。

 「ロンドンの街。落ち葉をゴミとは誰も考えていないのかなと思った。落ち葉を掃いている人なんて見なかった。《略》大阪(日本?)の人のほうがキレイ好き? 落ち葉が入ってきたら汚く思う? 掃除をしたくなるのか? で、掃除が大変と苦情を言う。苦情が怖いからお役所は税金を使って樹を切る。切られた樹を見て、その人たちは『ああきれいになった』と喜んでいるのか?」

 黄瀬さんは、生きている樹を簡単に切ることはせずに、残すことを考えれば良いと言います。確かに樹は、夏場は強い日射から私たちを守り、葉の落ちた冬は、太陽の明るさ・暖かさを私たちに届けてくれます。

 安易な判断が、私たちの生活を粗末なものにしてはいないでしょうか。「自然を大切にする心」は、家具職人だけでなく、私たちの命題と言えるでしょう。



『TRUCK NEST』
 著者:TRUCK
 出版社:集英社
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