――話は日本とハリウッドの違いに戻りますが、監督の編集に対する考え方も異なりそうですね。

横山:ハリウッドでは、編集は“more rewriting and redirectingの場”だと言われているんですよ。要するに“もう一回映画を書き直して、さらにもう一回演出をし直す場”だと言われているんです。それは、編集者だけが言っている訳ではなくて、監督もみんな理解しているんです。だから、監督はみんな「編集が楽しみだ」と言うんです。撮影で良かったり、悪かったりするところがあると思うけど、最終的に形にするのは編集だ、ということを皆さん理解している。脚本は脚本でも、“脚本=映画”じゃないんですよ。日本は、脚本重視のところがありますよね。

――以前、テレビ番組の中で、ハリウッドで成功するための3つの要素として“運(luck)”“才能(talent)”“粘り(persistent)”が必要とお話していましたがこの点に関して詳しく教えていただけますか?

横山:“才能”が一番大事なんじゃないの?と思うじゃないですか。ところが、才能は10から20パーセントで良いって言われているんです。成功した人に「何が一番大事なの?」と聞くと、「粘り」と言うんです。諦めたら何もかも終わっちゃう。頑張ってやり続ければ、どこかで道は開けてくる。頑張ってやることによって、運がめぐってくるということなんです。だから、運は“棚から牡丹餅”式じゃないんですよ。ずっとやっていくことによって、その運に出会う可能性がどんどん増えていくということです。だから、若い方は諦めずに続けていって欲しいです。

――“失敗してハリウッドから戻ってくる”ではなく、“失敗しても何度も何度もやり続ける”ということが大事なんですね。

横山:失敗しないと学びませんから、“失敗”は非常に良いことですよね。
全て順調にいっちゃうと、その次はいいものができないと思います。失敗してこそ「次回はこれやっちゃダメなんだ」ということを学べる訳なんですね。

――現在、映画学校を運営されていますが、きっかけを教えてください。

横山:映画制作をする時に大体200人から300人が携わっているので、私はその中の1人で、特別なことをしているとは思っていなかったんですよ。でもある日、日本からインタビューの方がきて「リドリー・スコットとやっていて、すごいじゃないか!」と言われて、「そうなのかな?」と少し思い始めたことがきっかけですね。言われてみれば「そうだよね。私ぐらいかな?」というところから始まって、「じゃあ、私だけで終わっちゃっていいの?」と思って、それは寂しすぎるから、「じゃあ、もっと若い日本人の方に私が今まで学びとってきたものを継承していきたい」ということを思い2006年に映画学校を始めました。

――他の学校と異なる特別なことはありますか?

横山:うちの学校の一番のウリというのが“日本語でもOK”ということ。だから「行きたいのはやまやまだけど英語はできない」という業界の方もいますし、ちょっとお休みして、半年なり1年なり来る人もいます。あとは、学生さんも「日本語でできるなら行こう」という風に来てくれる方が多いですね。でも、親を説得して、お金を貯めて来ている人がほとんどで、決意を持って来ているので、皆さんすごく真剣ですね。

――編集者のプロの立場から、映画ファンに対して、注目して欲しいところや、ここに注目すれば映画の見方が変わるということはありますか?

横山:ハリウッドの編集方法というのは、(invisible editing)と言って“見えない”編集なんですね。「あ、カットがあった」と思わせちゃダメなんです。サーッと何もなく見せなくちゃいけない。だけど、ここぞというところを盛り上げなくちゃいけない。私がいつも一番気にしているのは、観客に何かを感じてもらいたいということ。良い映画というのは、やはり何かを感じられるもの。「悲しいな」とか「うれしいな」とか「嫌だな」とか、そういう感情を醸し出せるような映画が良いな、と思っていますので、その辺を編集で“いつ見せるか”ですよね。何かを感じた時に「あ、これはただのストーリーじゃない。ただ、役者の演技力じゃない」と、「何か他に絡んでいるものがあるんじゃないかな」と思った時に「編集ですよ」ということを思って頂ければうれしいです。

――良い編集者になる心構えはありますか?

横山:やはり、これもやり続けることが大事なんですよね。頭の中で考えているだけでは上手にならないんですよね。何度も何度もやってると、だんだんコツも分かってきます。いろいろな作品を編集していくということは、非常に大事なんです。短いものから始まって、段々長いものを…という形でね。それと、客観的な目が、非常に大事だと思うんですね。私は、観客のことをいつも考えながら編集をしているんですけど、こういう風にすれば観客がどう思うのか。観客はどういう風に思うのかを常に考えながら、お客さんに分かりやすく、明確に何か感情を伝えるということも大事です。

 “編集者の目”という少し変わったアプローチから映画を切り取ってみた今回のインタビュー。『プロメテウス』の3Dに関して、横山さんは従来の3Dは、驚かしたりとか飛び出たりするものだったが、本作はそれよりも立体感をつけることに注力したために、リアルな映像となっていると話す。本作の8月24日(金)の公開が待ち遠しい。そして、ハリウッドで映画デビューをする若者たち、まずは1歩を踏み出すことから始まる。健闘を祈る!

 映画『プロメテウス』は、8月24日(金)より、TOHOシネマズ 日劇ほか全国拡大公開<3D/2D同時上映>

『プロメテウス』特集 - 作品を100倍楽しむ徹底研究!
映画『プロメテウス』 - 公式サイト

20世紀フォックス映画 配給
(C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX