男子サッカー3位決定戦、ソウル市庁前のパブリックビューイング会場には約2万人が集まった

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ここまで尾を引く日韓対決が過去にあったか? 男子サッカー3位決定戦後の韓国代表選手による“領土問題パフォーマンス”が、とんでもない事態に発展している。

日本に勝った試合直後、MFのパク・ジョンウが観客から受け取った「独島(竹島)はわが領土」というメッセージを掲げた。これを「五輪憲章に抵触する政治的主張に当たる可能性がある」としたIOC(国際オリンピック委員会)が、当事者のパク・ジョンウへの銅メダル授与を保留状態にしたのだ(8月16日時点)。

パクは一切の関連式典への参加を自粛。大韓サッカー協会からの最大報酬7000万ウォン(約486万円)の受け取りも未定。一時はメダル獲得時に与えられる兵役免除という特典の取り消しの可能性まで取り沙汰されてしまった。

そんな状況を、試合当日から数日間ソウルで取材したが、思わず首を傾げてしまう話が続出した。

まず、この件について韓国メディアが一切引く姿勢を見せない。8月13日付のスポーツ紙見出しは次のようなもの。

「パク・ジョンウを守れ」(『スポーツ京郷(キョンヒャン)』)

「あなたは堂々たるメダリスト」(『スポーツソウル』)

現地スポーツ紙記者が言う。

「韓国人は当然、独島を自分の領土だと思っている。だから『ソウルは韓国の領土』と言っているのと同じこと。その発言自体は間違いだとは思わない」

だからといって、五輪の舞台でその主張をするのは違うだろう。

当事者であるパク本人は、ロンドンでのメダル授与式、続く韓国帰国時の会見も「IOCによる調査前だから」(韓国サッカー協会)という理由で欠席。「(メッセージを掲げたのは)意図的な行動ではなかった」というコメントしか残していない。観客からメッセージの書かれた紙を渡され、受け取らざるを得なかったというのだが、いかにも苦しい言い訳だ。

明らかに不利なのに、なぜ韓国側からはひと言たりとも反省の言葉が聞こえてこないのか。

実は韓国には、この問題について絶対に謝れない事情がある。

試合当日、李明博(イミョンバク)大統領が竹島を訪問した。これが話を複雑にしている。ただでさえ「独島は韓国のもの」という論調一本槍の上に、国民の反日感情が猛烈に煽られた状態だからだ。

支持率が下がると反日感情に訴え、人気回復を図る。支持率が歴代大統領史上最低レベル(17%前後。韓国の世論調査機関「韓国ギャラップ」調べ)の李明博の今回の行動は、いわば歴代大統領の常套手段。

ビジネスマン出身の大統領として2008年に当選したが、経済はまったく回復せず。就任以降、人気は下降の一途。対北朝鮮政策は不安定、今年3月には反対勢力の動向を隠しカメラで盗撮していたことが発覚。さらに7月には実兄が不正資金を受け取った疑いで逮捕されている。

そのため、韓国国内でも今回は支持率回復のために竹島を訪れたという見方が圧倒的だ。

だが、今回の訪問直後の支持率調査では数字に大きな変動はなかった一方で、竹島訪問の行動に限っては70%から85%の高い支持を得た。

李明博の狙いどおりの結果になったわけだ。

実際、3位決定戦のパブリックビューイング会場(ソウル市庁前に約2万人が集まり、熱烈な応援を繰り広げた!)を訪れていた50代の男性は、「今回の訪問は、在任中の一番の功績だ」とまで言い切っていた。

つまり、今回の李明博の任期終了前(今年12月末まで)のイチかバチかの訪問が、国民を引くに引けない状況にした。火のついた国民感情を考えると、もし万が一、今回のパフォーマンスに対し、謝罪により事を済ませようとする関係者がいても、とてもそれを表明できるような状況にないというわけだ。

「そうすれば、逆にパクが批判を受けてしまいかねない」(韓国一般紙サッカー担当記者)

8月14日には日本サッカー協会宛てに大韓サッカー協会からメールとFAXで文書が届いた。日本協会の大仁邦彌(だいに・くにや)会長は「韓国は謝罪した」と発表したが、大韓協会は慌てて「説明であり、謝罪はしていない」と否定している。メダルは欲しいが、やはり「謝れない」ということだろう。

現在、韓国国内では「今こそスポーツ外交力が試されるとき」という論調が展開されている。言い換えれば「詫びずにメダルをもらおう」というわけだが、そんなムチャクチャな言い分が国際社会で通用するはずもない。英雄気取りの李明博の行動は、早くも裏目に出たか。

(取材・文/吉崎エイジーニョ)