一流の秘書は、自分のボスに会わせるべき人、会わせないほうがいい人を的確に見分ける鑑識眼を持っている。服装や話し方、発言の妥当性、仕事ぶり……。ボスをトラブルから守るために秘書たちが蓄積してきたテクニックとは?

■目の前の人が怪しいと見抜くプロのノウハウ

これまでの人生で、一度も人にだまされることなく、一人前のビジネスパーソンに成長した人は少ないだろう。だまされれば、たいていは大金を失うことになる。下手をすれば周囲から同類だと疑いの目で見られる。だから、できるだけ早い機会に、できれば初対面で、目の前にいる人が信用できるか、信用できないかを見分けたいと思うのは当然である。

自分のボスに、信用できない人を会わせたら、たちまちにして、プロではないと評価される人たちがいる。企業トップや政治家の秘書である。彼らは信用できない人を見分けるノウハウを持っているに違いない。そこで、元外資系エグゼクティブの秘書で、信頼されるビジネスマンになる方法についての著書(注1)をもつ能町光香さん、秘書セミナー講師なども務める「カレーハウスCoCo壱番屋」の中村由美さんをはじめとして、国会議員秘書、上場企業の役員秘書などに取材をした。予想通り、彼ら(彼女たち)はどっさりノウハウを持っていた。彼らのノウハウはおおよそ3つに分けられる。

(1)企業トップや政治家に面談を求めてきた人について事前調査をする。
(2)電話の音声、服装、態度、名刺など、外見的な特徴から判断する。
(3)社会的コンテクスト(文脈・状況)から判断する。

(1)に関しては、中小企業の秘書であればインターネットで、大企業の場合は外部の調査会社や、社内の関連部署から情報を集める。この方法は、今回の記事の対象からはずした。普通のビジネスパーソンは外部の調査会社を使うことはできないし、インターネットでは参考になる情報が見つからないケースも多い。しかも、事前調査は、網で言えば目の粗い網。本物のペテン師はこの程度の網はかいくぐってくる。

(2)と(3)について、詳しくみてみよう。(2)の外面的な特徴に関して、プロの秘書たちは、次のような点に注意して信用できない人を見分けている。

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□ 営業トーク風に、調子よく話す
□ いいことしか言わない
□ ホメ方がおおげさ
□ やたらとニコニコする
□ よくしゃべる
□ 自慢話が多い
□ 他社の悪口を言う
□ 損得に敏感
□ 企業トップや有力な人との親密な関係を強調する。
  たとえば「おたくの社長とは古い付き合いでね」など
□ 初対面にもかかわらずため口をきく
□ 名刺の肩書がやたらとおおげさ
□ 名刺の名前が、太字で行書体など、派手な感じ
□ すぐにトップに会わせるように要求する
□ 対人距離の取り方が普通の人と違っている
  (たいていは親しさを強調するために、近づこうとする)
□ 部屋への入り方が、ずかずかと無遠慮な感じ
□ 電話で早口で話す
□ 電話で話をするとき、決まり文句が多く、何か文章を読み上げている感じがある
□ 電話でも、対面でも、話に具体性が乏しい
□ 笑うとき、目が笑っていない
□ 人によって態度を変える
  (たとえば、同行した部下には偉そうな態度をとり、面談相手には卑屈な態度をとる)
□ 電話で話をしているとき、相手の周囲でたくさんの人が電話をかけている声が聞こえる
  (セールスの電話が多い)
□ 履いている靴が汚れている
  (乱れた生活をしていると身なりが荒れる。靴が汚れている場合、かなりの確率で精神的にも追い込まれた状態にある)

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この一覧を見るだけでも、プロの秘書の眼の厳しさをご理解いただけると思う。どの項目も心理学的に説明することができるのだが、(雑誌の)紙幅の都合で、3つだけ取り上げて解説をしてみたい。

《電話で早口で話す》

電話がかかってくる。落ち着きがなく、一方的にまくしたてるような電話は信用できないことが多いとプロの秘書は言う。私たちの日常生活でも経験することではないだろうか。電話セールスである。押し売りセールスはたいてい早口だ。声が高く、慇懃か、独特のバカにしたような口調のどちらかだ。

■ホメ方が派手でやたらと愛想がよく早口でまくしたてる

私は以前、コールセンターの会社に勤務していた。そこでは優秀なコミュニケーターほど、聞き取りやすい落ち着いた話し方をしていた。バカ丁寧なものの言い方をせず、顧客の話にしっかりと耳を傾け、双方向のコミュニケーションをとろうとする。彼らは商品知識が豊かで、売ろうとする商品に自信を持っているからだ。言い換えれば、伝えるべき内容に自信があれば、自然な口調で商品のよさをしっかり顧客に伝えようとする心理が働く。

反対に、不自然に早口な人は、伝える内容に自信がないといえる。アメリカの心理学者ポール・エクマンによると、人間は恐れると早口になるとされている(注2)。それに加え、あわてると声が高くなる。自分の魂胆を隠して、企業トップや政治家を利用しようと思っている人は、嘘がばれることをひそかに恐れているため、無意識に早口になるのだ。

《ホメ方がおおげさ》

アンジャッシュの渡部建さんは「お願い!ランキング」というテレビ番組で、ホメる技術を披露している。筆者は監修者として渡部さんの本の出版に関わったことがあるが(注3)、渡部さんはホメる前に、相手について徹底的に調べる。その努力には心底頭が下がった。渡部さんは事実に基づいて、堂々とホメている。ペテン師は、何の根拠もなく、いけしゃあしゃあとホメる。たとえば、こんなケースがあった。

筆者の知人宅にAという人物がやってきた。Aは初対面であるにもかかわらず、そこの家の娘さんがお茶を持って現れたら、すかさず、その家の主人に向かって満面の笑みを浮かべ「すばらしいお嬢様ですね。私の息子の嫁にほしいくらいです」とやった。初めて会った娘さんが、ほんとうに嫁にふさわしいかどうかはわからない。事実無根で、臆面もなくホメている。この人は後日、たいへんな食わせ者ということがわかった。おおげさなホメ方をする人は、相手に気に入ってもらうために平気で嘘をつく人である。そのような人を信用できないのは当然である。

ただし、歯の浮くようなお世辞を言う人を信用する人もいる。典型的な例は、裸の王様になった経営者だ。だまされる側が天狗になっているか、現実を直視できなくなっているかである。歴史的にいえば、ロシアに攻め入る直前のナポレオンは天狗、豊臣秀吉の晩年は、現実が直視できなくなった例である。あなたの会社の経営者が、“ヨイショ”に弱くなっていたら、会社の将来は危ういと判断してよいだろう。

《やたらとニコニコする》

心理学者のエクマンとフリーセンは、笑顔は真意を隠すための偽装に多用されると言っている(注4)。笑うときの筋肉の動きはネガティブな感情を表現するときとはまるで違うから、ネガティブな感情を隠しやすい。初対面の人に「今後ともよろしくお願いします」と言いながら、ニコッと笑っても、相手の警戒心を呼び起こすことはない。笑顔は、状況を問わず気軽に使え、しかも相手によい印象を与えるので、本心を自然に隠すことができる。それゆえ、やたらとニコニコする人は要注意だ。私はこれまで無愛想なペテン師に会ったことはない。

次に、(3)の社会的コンテクストから判断する方法を分析してみよう。

■「高校時代の友人」からの電話が要注意な理由

一流秘書は、自分のボスの人脈を頭に叩き込んでいる。「田中と申しますが、社長の鈴木さんはいらっしゃいますか」という電話があれば、彼らは瞬時に記憶のなかから「素材メーカーの田中専務」を思い出し、この時期、鈴木社長に電話があっても不思議ではないかどうかを考える。自分のボスのビジネス界におけるポジション、人脈、相手がコンタクトをとる必然性などを総合して、面談を申し込んできた人が信用できるか、できないかを判断している。今回取材した一流秘書が人を見分ける際にもっとも多用していたのが、この社会的コンテクスト法だった。社会的コンテクスト法は主に3つある。

《同窓生コンテクスト》

「社長の鈴木さんの高校時代の知り合いの田中です」などでコンタクトをとってくるケース。原則的には要注意だ。ほんとうに社長と親しければ、自宅電話やプライベートなメールアドレスに連絡をするはずで、わざわざ会社に電話をかけてくるのは不自然だからだ。こういう場合は、最初の電話を受けたときに「鈴木は会議中です。こちらから連絡をさせていただきますので、ご連絡先をお教えください」などと言って、社長に確認する時間をつくる。

《ビジネスコンテクスト》

秘書が把握しているボスのビジネス人脈のなかに、面談希望者の名前がなければ要注意。しかし、ボスが出席したパーティなどで多数の人と接触して、人脈がどんどん広がっている可能性もあり、名前を聞いたことがないからというだけで門前払いもできない。

また、パーティや知人の紹介でボスが顔を合わせた人のなかには社会的に名前が知られた人がいるかもしれないが、有名人というだけで信用はできない。この有名人が稀代のペテン師だったという例もあるからだ。

ボスが社長や会長の座をおりて、取締役などになったときも注意が必要だ。ボス自身が重い責任から解放され、脇が甘くなっている。相手に不愉快な思いをさせないように気をつけながら事前に相手の用件を正確にヒアリングするなど、一流秘書はみな高いコミュニケーション能力を身につけている。

《社内コンテクスト》

自社の社員が、有望顧客や仕事でお世話になった人に会ってほしいと社長に申し入れてくることがある。そんなとき秘書が着目するのは「身内の社員の信用度」である。信用できる社員であれば、その相手も信用できることが多いという。

また、社員本人が社長と会って案件の許可をとりたい、もしくは相談に乗ってほしいなどと言ってくることもある。社長は忙しく、面会希望者は多い。重要度や緊急度が明らかな場合はそれに従うが、不明な場合は、秘書が優先順位をつけなければならない。この場合は、社員の日ごろの行いによって優先度を決めることが多いようだ。優先度の判断基準は次のようなものである。

■できない人が考える「懐柔工作」の落とし穴

一、公私の区別をつけているかどうか。取引先を訪問したときやイベントなどでお土産をもらったとき、それを会社に持ち帰って職場の仲間に分けるようなモラルの高い社員は優先度が高い。逆に会社の業務でもらったお土産を、そのまま自宅に持って帰る社員は信用度が低い。こういう情報は意外なほどトップの秘書に伝わっている。営業パーソンは、接待費やタクシーのチケットの使い方にも注意が必要だ。

二、秘書におべっかを使ったり、不相応な贈り物をしていないか。秘書に対する過度なゴマスリは逆効果だ。この手の人は仕事の能力が低く、それを補うために、秘書に取り入ろうとする。仕事ができない人の持ち込んでくる案件で、トップをわざわざ煩わせるレベルのものは皆無に等しい。

三、自分の担当している仕事が好きかどうか。自分の仕事が好きな人は、ほぼ例外なくいい仕事をし、トップに持ち込む案件も重要なものが多い。また、仕事をしているときの顔つきが明るい人は仕事が好きな人が多い、と秘書たちは言う。相手に取り入ろうとするへらへら笑いは優先度を低くするが、周囲の人の気持ちまで明るくするような前向きな言動は、秘書の心をぐっとつかむはずだ。

秘書はトップに回される書類のほとんどに目を通している。書類の書き方や内容を見れば、書き手の職務能力はだいたいわかってしまう。一流秘書は社内の誰が仕事ができて、その人はどんな特徴を持っているのかを把握している。そして一流の秘書ほど、勘にたよって他人を評価せず、自分の観察にもとづく評価データを頭のなかにため込んでいる。

企業トップとの面談予約を申し込んだとき、その予約を秘書がいつも優先してくれるなら、あなたの能力はかなり高いと胸をはってよいだろう。

注1:能町光香『一流秘書だけが知っている信頼される男、されない男』サンマーク出版
注2:エクマン『暴かれる嘘』誠信書房 P88
注3:松下信武監修『ホメ渡部の「ホメる技術」7』プレジデント社
注4:エクマン&フリーセン『表情分析入門』誠信書房 P183

(ゾム代表取締役 松下信武=文)