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仕事の能力か、上司との関係性か……すべてにおいて変化の著しい現代のビジネスシーンで出世するためには、どんな能力が必要なのか? 各年代ごとに求められる、出世のための条件を考える。

■あまり異論が出ない将来の社長候補

入社後の昇進レースに勝ち残り、役員や社長になれるのはほんの一握りの人にすぎない。しかも役員・社長候補である部長や執行役員はいずれ劣らぬ実績を持つ各部門のトップバッターである。

二宮氏は部門のトップにいる人に共通するのは「部門全体のマネジメントがしっかりとできるうえに、業績を最低限維持し、さらに将来のビジネスを開拓していける人」と語る。また、課長と部長以上の役職者の違いについて大手電機メーカーの人事部長は「課長は上からの指示に常に100点の行動を取り続けることが求められるが、部長に昇進するには自分で問題を発見し、それを自分の問題として解決できるアウトプット能力の持ち主」と指摘する。

インプット、アウトプット双方の能力が高い人がビジネスパーソンの成功者の要件といわれる。あるコンサルタント会社が入社後間もない若手社員について調査・分析した結果、インプット、アウトプット双方の能力を有している者は5%もいなかった一方、企業の部長以上の幹部クラスを対象にしたアセスメントでは、双方の能力を有している者が約60%いたという。経営幹部クラスは間違いなくアウトプット能力が高いのである。

ではその中からどうやって役員を選出するのか。二宮氏は執行役員を競わせながら適性を判断する企業もあると語る。

「執行役員制が機能している会社では、40代半ばから50代前後に執行役員として選抜して競わせているようだ。たとえば従業員1000人規模の企業では、比較的近い年代の10人ぐらいの執行役員を役員候補者として競わせて、最終的に業績はもちろん、能力や適性を見極めて役員に抜擢している。役員になれなかった人は関連会社の役員に起用するなど、執行役員が結構分岐点になっている」

執行役員といっても実質的には部長クラスの社員であり、商法上の取締役とは異なる。また、現実には役員の重責を担う役員候補が常に輩出されるわけではない。優秀な役員候補が出揃う“当たり年”もあれば不作の年もある。あるいは経営のスピード化や新しい事業に対応できる若手役員を起用したくても、対象者が50代半ばしかいない事態も発生する。

そこで数年先の経営幹部候補を選抜し、育成する仕組みとして広まっているのが「後継者育成計画」(サクセッション・プランニング)だ。GEをはじめとする米国企業では早くから導入されているが、日本のグローバル企業でも徐々に導入が進んでいる。

ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、部長・事業部長などのポストごとに後継者候補をリスト化する。さらに各候補者を「レディナウ」(今すぐOK)、「レディレイター」(もう少し時間を要する)、「レディフューチャー」(将来的に可能)の3段階でランク付けする。候補者個々の育成はボードメンバーで議論し、しかもリストやランク付けは毎年見直される。

日本企業でも日産自動車はグローバルの主要ポストについて、緊急的に代わりが務まる人、候補者にふさわしい人、将来的に候補者として期待する人の3つのカテゴリーで選出・育成している。また、アステラス製薬も課長、部長、執行役員ごとに後継者育成計画を作成し、毎年一回経営トップを含む「人事会議」でリストの検証を行っている。執行役員については社内の評価だけではなく、世界的に有名なエグゼクティブサーチ会社のアセスメントを受けさせるなど外部の視点も取り入れている。

では役員に抜擢するのに求められる要件とは何か。大手IT系企業の人事部長は「リスクを冒しつつ、結果を出し続けている人、もっと言えば、小さな失敗はしてもいいが、致命的な失敗を繰り返さないで結果を出し続けていることが役員・社長候補の大前提」と指摘する。

二宮氏は「リスク管理ができる人」と言う。これはリスクを取らないという意味ではない。

「今はリスクを冒さなくても順風満帆に経営できる時代ではないし、大胆にチャレンジすることは避けられない。状況に応じて、ある場面では緊急避難としてのリスク管理を行いつつ、ある場面では将来に向けて大胆に勝負することも求められている。長期的に利益を生み出す組織に変えていくためには、先見性はもちろん、決断力、創造性も求められている」

これは全般的な役員候補の要件であるが、とくに研究開発職の役員候補は「自ら研究者として実績を挙げるだけではなく、優秀な研究者の発掘と育成も重要な仕事であり、研究者を一つの方向にまとめ上げていくマネジメント力も求められてくる」(二宮氏)と指摘する。

もちろん実際に役員に登用されるかどうかは“運”も左右する。部門で順調な実績を挙げていても、事業計画の見直しにより新規事業を推進する役員候補にポストをさらわれることもある。あるいは役員候補者として甲乙つけがたい場合は、社長など上層部の覚えがめでたいタイプが選出されることもあるだろう。

実際に役員・社長に上り詰めたタイプに共通する資質とはなんだろうか。二宮氏はまず前提として「周囲から安定的に高い評価を得てきた人」という。

「たとえば営業系では、突然、何かのきっかけで急激に実績を伸ばしたというのではなく、人事評価でいえば、SABCDの5段階評価でコンスタントにAを取り続けている安定した評価を得ている人。逆にいえば、そういう人を役員に登用する場合は周囲から異論が出ない。たとえばその中には、課長になる前ぐらいから『あいつは課長の仕事をしていた』と言われていた人もいる」

若いときからコンスタントに高い評価を受けている人の共通点として同様の指摘をするのは大手ゼネコンの役員である。

「出世するタイプは、主任クラスであれば、問題解決に当たって、すぐ上の係長ではなく、その上の課長ならどのように解決するだろうかと、一つ上の上司の視点で考える。係長であれば部長、課長なら一つ上の本部長はどう考えるのかと、大局的視点で考えるくせを身につけている人が多い」

人とのつきあい方も重要だ。二宮氏は「周囲に敵をつくらないというか、くせのない人のほうが選ばれる傾向がある」と指摘する。くせがあっても、ある分野に秀でていることを評価し、引き上げてくれる経営陣がいればいいが、そうでなければ役員になるのは難しいという。今、流行の坂本龍馬のような大胆でくせのある人物よりも、ソツのないタイプのほうが現実には社長になれるのかもしれない。

ただし、ファッション業界やコンテンツ業界など創造性やクリエーティビティが求められている企業では「多少くせがあっても一歩先の時代を予見し、新しい価値を生み出せるタイプが役員になる場合もある。堅実型もいれば斬新性を持った人物もいるなど、役員のバランスを意識して選ぶケースもある」(二宮氏)という。

大手IT系企業の人事部長は経営トップになる人というのは「かわいげがある人」という。

「上に対しておべっかを言う人ではなく、上からも下からもかわいがられる人、愛嬌がある人だ。そういう人は上だけではなく、下からも魅力的な存在であり、なんとかその人を支えたい、支えなきゃいけないと思わせてしまうところがある。もちろん、実績は申し分なく、度胸はあるが、それだけではなく、愛嬌も兼ね備えた人はトップとして魅力がある」

人心を取り込む人間的魅力は経営者には不可欠の要件ということだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(ジャーナリスト 溝上憲文=文 小原孝博=撮影 image navi=写真)